昨年秋の時点で、2016年のドラフト戦線は田中正義(創価大)一色に染まりかねない気配があった。それが年明け、田中に右肩の故障が判明すると、春から夏にかけて高校生投手の評価が一気に高まった。そのなかでも寺島成輝(履正社)の評価は安定していた。常に高いレベルの結果を出し続け、ピッチングでも容易に崩れることはない。目前に迫った"運命の日"を前に、今の心境を語ってもらった。

── 夏の大会が終わってからは、後輩たちと一緒に練習をしているのですか?

「少し前までは国体もあったので、後輩相手に投げたり、今も普通に練習しています。シートバッティングでは、安田(尚憲/来年のドラフト候補)とかに打たれたりしながら......。アイツは本当に成長しています」

── いよいよドラフトが迫ってきましたが、今の心境は?

「いろいろな感情が混じっています。わからないことばかりの世界ですし。鼻をへし折られるとは思いますけど、少しは自信を持っていたほうができるかなと」

── 今は練習も早く上がれるようになり、夜、プロの試合を見る機会も増えたと思います。

「そうですね。あらためて、高校野球とストライクゾーンの違いを感じます。『決まった!』と思った球がボールと判定されたりして、明らかにプロはストライクゾーンが狭いですよね」

── 高校からプロに進んだ多くの投手が、まずストライクゾーンに苦労するという話をよく聞きます。でも、コントロールには自信があるのでは?

「コントロールはまだまだです。もっと極めていかないと通じないと思います」

── ほかにプロの試合を見て感じることは何でしょう?

「2ストライクまで追い込んでも、簡単に終わらないところですね。追い込んでからの球は、誘い球だったり、ギリギリのところを狙ったりしているのですが、それをバッターが予測して対応している。その技術が高い。逆に、追い込んでから真ん中に抜け球とかがいくと空振りしたりしますよね」

── レベルが高いゆえの攻防ですね。

「ただ、意図してそういう球はなかなか投げられないですからね。この先、いちばんいいのはストライクゾーンのなかでボールを動かして抑えるピッチングだと感じました。その前に、まずは自分の軸となるボールを磨くこと。やっぱりストレートです」

── 昨年の秋以来、下半身の使い方からフォームを修正し、「バッターがわかっていても打てない真っすぐ」を求めてきました。この夏は空振り率も増え、成果を感じたのでは?

「高校生のなかでは......というレベルです。上の世界に行ったら少しでも甘くなると簡単にホームランを打たれます。そこは覚悟しています」

 寺島についての記事のなかで、"最速○○キロ左腕"という言葉をよく目にするが、実際はその類で語るタイプの投手ではない。いくつもの要素を兼ね備え、"トータルで勝てる投手"、それが寺島だ。球速について聞くと、「あった方がいいですけど」と言ったあと、すぐにこう続けてきた。「いちばん大事にしているのはバッターへの感覚や感じ方です」。クレバーな野球脳──それこそ寺島の最大の特長だ。寺島をはじめ、藤平尚真(横浜)、高橋昂也(花咲徳栄)の"ビッグ3"や、そこに今井達也(作新学院)を加えた"ビッグ4"が注目を集めているが、寺島のピッチングはほかの3人とは一線を画する。

── "ビッグ3"や"ビッグ4"と言われているけど、そういう注目のされ方は気になりますか。

「好きじゃないとかではないんですけど、対戦するのはピッチャーではなくバッターなので......。当たり前ですけど、バッターに負けたくないという気持ちが強いんです。だから、ライバル的な感じで言われたり、『あの投手には負けたくないですか?』と聞かれたりするのは......」

── アジア選手権では藤平くんや高橋くん、今井くんたちと一緒に戦い、得るものも多かった?

「そうですね。それぞれのチームの練習メニューを聞いたら違いがあり、参考になりました。(高橋)昂也からは、モーションに入るときの足の置き方を教えてもらいました。アイツは最初から左足をプレートと平行に置いて投げていたんです。僕は左足をプレートにかけて、投げるときに踏み直していたんですが、それだとズレるときがあるんです。昂也の踏み方を試してみたらいい感じでした」

── それぞれのエースのボールを間近で見た感想は?

「それぞれいいものがあるから日本代表に選ばれたと思いますし、みんないいボールを投げていました。特に誰がいいとかではなくて。もともと、誰かと比べてこっちのボールの方がいいとか、そういう見方をしないんです。みんな投げ方もサイズも違うので」

── ほかの投手のボールを見て、負けず嫌いの性格に火がつくことは?

「そういう人もいると思うんですけど、僕はそういうタイプではないですね」

── 子どもの頃は東京に住んでいた時期があり、当時は巨人ファンだったという話を聞いたことがあります。

「野球をやる前ぐらいから巨人戦をテレビで見ていました。高橋由伸選手(現監督)が1番を打っていた頃でした。最近はパ・リーグの試合をよく見ています」

── 球場に行って試合を見たことは?

「たまにありました。覚えているのは、東京ドームで巨人のファームの試合を見たことです。高校野球とかは詳しくなかったんですけど、大阪桐蔭出身の辻内(崇伸)投手が投げていて、一緒にいた人から『すごいピッチャーなんやぞ』と教えられたのを覚えています」

── 辻内投手は大阪桐蔭時代はすごいボールを投げていたけど、プロ入り後は故障に苦しみました。肩やヒジに不安は?

「大事に使ってもらいましたので、大丈夫です」

── 同僚には同じくプロ志望を提出した山口裕次郎くんもいて、大会でも無理せずに済み、履正社には専門のトレーナーもいて、体のケアやトレーニングには力を入れています。

「いろいろ勉強させてもらったおかげで、体は敏感になりました。『今日はバランスがおかしい』とか、『いつもと感覚が違う』というのがすぐにわかるようになりました。あと、試合に向けて準備を怠らない大切さも学びました。これは今後も大事にしていきたいです」

── 体のことを考えれば、体に負担をかけないフォームも大事になってきます。

「そうですね。普段から軸を意識して投げること、あとは顔を上に向けないこと、無駄な動きをしないようにしています。自分のなかでいちばん投げやすくて、力が入る投げ方を探して、今の感じになっています」

── プロの世界には、岸田護、T-岡田(ともにオリックス)、山田哲人(ヤクルト)といった履正社出身の選手がいます。そうした先輩たちから感じてきたことはありますか。

「山田さんが今年の自主トレで履正社のグラウンドに来られたんです。ジャージー姿でしたけど、第一印象は細いな、と。でも、ティーバッティングとかやると、スイングは速いし打球がすごかったです」

── 見た目は大きくなくても40本近くホームランを打つ。プロはそうした技術レベルの高い打者を抑えていかないといけないわけですが、「1年目から一軍で投げたい」という気持ちは?

「そういう気持ちはもちろんあります。たぶん、へし折られると思いますけど(笑)。でも、それも含めて楽しみです。あとは寮生活。これも僕自身初めてのことで、特にプロは施設もいいと思いますので楽しみにしています」

── 最後に、これからどんな野球人生を送りたいですか。

「プロ野球選手は寿命が短いと言われていますけど、そうなりたくありません。でも、長くやるためには結果を出し続けていかなければいけない。いつまでも必要とされる選手でいたいです。ドラフトで指名していただいたら、まずは来年に向けてしっかり準備したいと思います」

谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro