上田きよし公式ウェブサイトより

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 8月9日に投開票される埼玉県知事選が、どうにも熱を帯びてこない。2011年に実施された前回の埼玉県知事選の投票率は24.89%。かなり低い投票率だが、これを下回るとの予測も出始めている。10%台に落ち込む可能性も現実味を帯びてきた。

 振り返ってみれば、2007年の埼玉県知事選も投票率は27%、2003年も35%だった。もともと埼玉県民は選挙への関心が低い。そこには埼玉県特有の事情に求められる。埼玉県内の主要都市は東京のベッドタウンとして発展、機能している。昼は東京で働き、寝に帰ってくるという埼玉都民は少なくない。居住はしていても、ほとんど生活実態がないので埼玉県政への関心が薄くなる。

4選出馬には批判的な声も

 それでも投票率25%は低いと言わざるを得ないが、今回の埼玉県知事選が盛り上がりに欠けるのは、なぜなのか?その一因に「現職の上田清司知事が出馬表明したこと」と指摘する声もある。

 上田知事は3期12年の任期を無事にこなした。周囲からは4選出馬はしないと思われていた。なぜなら、埼玉県は2004年に多選自粛条例を制定している。同条例は文字通り知事の多選を制限するもので、この条例を制定したのがほかならぬ上田知事本人だったからだ。

「上田知事の政治的手腕はとても高いと評価していますし、尊敬もしています。そんな私でも4選出馬には反対です。自分で制定した条例を反故にするなんてとんでもない話です」と話すのは首長経験者だ。

 埼玉県の多選自粛条例は、あくまで“自粛”であり“禁止”ではない。そのため、仮に上田知事が条例に反して4選しても、条例違反にあたるのかは曖昧だ。しかし、前出の首長経験者はこう指摘する。

「アメリカや韓国は憲法で大統領の任期を制限していますが、その理由は権限は必ず腐敗し、時に暴走するからです。そうした権力の暴走や腐敗を未然に防ぐ目的から年数や期数制限があるのです。同じ権力者が長年にわたって居座ると、政治は硬直化してしまい行政は停滞します。有権者にとってもマイナスです」

 一自治体にしか権限が及ばないと考えられている知事や市長だが、実はそこに大きな勘違いがある。例えば、都道府県知事や市町村長は地方自治法に明記されているように、多大な権限を有している。それは予算編成・徴税・人事・立法・議会の解散などに及ぶ。総理大臣は日本のトップと思われているが、あくまで行政権を持つ内閣のリーダーでしかない。持ち得る権限も、知事・市長などよりも小さい。

 実際、上田知事の前任者だった土屋義彦知事は参議院議長を務めた後、埼玉県知事に当選。その経歴から、早くも1期目は大物知事として存在感を発揮し、“埼玉県は土屋王国”と呼ばれるほどの権勢を奮った。

埼玉県のように多選自粛条例を制定した地方自治体はあります。中野区でも多選自粛を盛り込んだ条例を制定しましたが、制定した区長は4選出馬しました。出馬にあたり、区長は議会に多選自粛の内容を削除することを議会に提案し、区議会は削除を承認しています。仮に、上田知事が『自分のほかに、埼玉県知事に相応しい人がいない』と出馬の理由を県民に説明するなら、まず県議会で条例を廃止することが先でしょう。また、条例をなかったことにする上田知事に何も言えない県議会もだらしないと感じます」(前出・首長経験者)

 4選を目指す上田知事に対して、自民党は対立候補の擁立を画策したが断念。自民党や県議会が上田知事に弱腰なところも埼玉県知事選をつまらないものにしている。埼玉県知事選は県民不在のまま始まろうとしている。

(取材・文/小川裕夫)