寝たきり、錯乱状態…壮絶な闘病―話題のレシピ集著者・Mizukiさんインタビュー(2)

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 今、最も注目を集めているレシピ集の一つが、『Mizukiの♡31CAFE♡レシピ』(扶桑社刊)だ。Amazonでもクッキングレシピ部門1位を獲得し、ユーザーからの評価も上々。
 著者のMizukiさんにとって本書は初めてのレシピ集であり、彼女の起こしてきた奇跡が詰まっている。拒食症となり、体重は23kgに――これはつい5年前の話。そんなMizukiさんはどのように病気を克服し、どうして「料理」という道を歩もうとしたのか。3回にわたってMizukiさんの想いを届ける。
前編はこちらから

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 「食べる」という行為が自分の中になかった。
 Mizukiさんは当時を振り返りながら、そう告白する。拒食症は彼女の心身を蝕んでいく。「痩せたい」という想いはない。体重が減っていくことが喜びであり、ただ体重計に表示される「数字」が下がることが重要だった。
 そのうちに体は衰弱して、寝たきりになる。もう動けない。病院は「自分を太らそうとする敵」だから、必死に拒んだ。

「結局入院することになるのですが……入院の直前だったかな、自分一人でお風呂に入れないし、栄養失調で髪の毛も抜け落ちるようになってしまったので、当時腰まであった髪の毛をバッサリと切ったんです。美容院の施術室ではなく、奥にある部屋で布団を敷いてもらって、寝たまま切ってもらったことを覚えています。そのときは何も思わなかったですね。『あ、切られたな』みたいな。『私、いつ死ぬんやろ』ってずっと思っていました」

 しかし、長い髪の毛を切ったことが、Mizukiさんの命をつなぐ上での一つの大きな分岐点となったという。

「病院の先生に言われたんですよ。もしあのとき、髪の毛が長いままだったら、死んでいたかもしれないって。髪に栄養がいっちゃうそうなんです。
でも、そのときは死んだほうが楽とばかり思っていました。変な話なんですけど、焦りがすごかったんです。ちょうど23、24歳くらいで、周囲の友人たちが結婚したり子どもを産んだり、仕事をバリバリしていて。なるべく(友人の情報を)聞かないようにしていたのですが、余計に気になってしまっていたんです。私は寝たきりの状況で、もし治ってもみんなに追いつけない。一番になれないって悔しくて」

 一番になれないことへの羞恥心があったことを、Mizukiさんは吐露する。体重だけではない。彼女はどこまでも「数字」に追いかけられていた。

■きれいなものへの憧れと料理への道のきっかけ

 Mizukiさんの入院時のエピソードはとても壮絶だ。
 24時間の高カロリー点滴に、何種類もの薬。骨髄検査に、血しょう交換、大量の輸血。それでも症状は一進一退を繰り返す。頭の中は錯乱状態になり、幻覚、幻聴に悩まされる毎日。奇行を起こしてしまう日もあったそうだ。

「ある日の夜、母と病院の外に出たことがあったのですが、目を閉じた瞬間、急に引き込まれるような感じがして、『私、このまま死ぬんや』と思ったんです。母は『大丈夫?どうしたん?』って聞いてくるんですが、私は『もう死ぬ、もう死ぬ』って叫んで、暴れました。すぐに病室に戻されて、看護士さんに抑えられたのですが、私はそのとき『何か食べさせて』と泣きじゃくりました。やっぱり死にたくなかったんだと思います」

 そんな厳しい闘病の中でMizukiさんが夢中になっていたのが、「ジグソーパズル」と「料理」だったそうだ。
 パズルは藤城清治さんの絵のもので、幻想的でとても色が鮮やかなのが特徴的だ。それまでお見舞いにパズルを差し入れられたことがあったものの、一切やる気は起きなかった。でも、藤城さんのパズルは違った。Mizukiさんの心を奪った。最初は300ピースのパズルからはじめた。完成までに相当な時間がかかったが、完成したパズルはとてもきれいだったそうだ。
 すぐに病室はMizukiさんの作ったパズルでいっぱいになったという。「自分の側から母が離れるということを私は許さなかったから、親戚の方が(パズルを)届けてくれたんです」

 もう一つ、Mizukiさんがはまっていたのが「料理」。もちろん、実際に料理をするわけではない。食べ物や体重のことばかりを考えるうちに、カロリー表や栄養素の本、そして料理本を読みあさるようになっていたのだという。このときに身に付けた知識は、後に調理師免許を取得するときや、実際に自分のお店を出すときに役立つことになる。

 2009年12月、体重27kgまで回復して、退院。

「実はどうしても退院したくて、食べたんです。このまま病院にいたら太らされてしまうと思って。だから、退院したら絶対食べないと決めていました」

 母親とともに、半年ぶりに自分の家に戻ったMizukiさん。しかし、待っているはずの家族は、そこにはいなかった。

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