夫の浮気をやめさせる「お茶」とは?

写真拡大

 「やりたいことが見つからない」
 「口だけで行動が伴わない」
 「目標に向かって計画を立ててもなんだかんだ理由をつけて実行を先延ばしにする」
 などなど、「行動力のない自分」に嫌気が差している人は多いはず。
 フロイトやユングと並び「心理学の三大巨頭」とされるアルフレッド・アドラーが創始した「アドラー心理学」においては、「行動」というものをどう捉えているのでしょうか。
 今回はアドラーの研究者であり、ベストセラーとなった『嫌われる勇気――自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社/刊)の著者(古賀史健氏との共著)である、岸見一郎さんに『本気で変わりたい人の 行動イノベーション―本当の欲望に素直になれば、やる気が目覚める―』(秀和システム/刊)の著者である大平信孝さんがインタビューをしました。今回はその後編です。

◇ ◇ ◇

大平:症状そのものを扱っても根本的な解決にはなりませんからね。

岸見:そうです。その意味では「本当の欲求」というものは、確かに時間を経るごとに変わってくるものですから、それをきちんと把握できるというのが重要です。ただし、最初に話したように、本当はこうしたいのだけれどできないという葛藤はないというのが、アドラー心理学の譲れない基本です。

大平:私の場合、「行動イノベーション」という形でアプローチしています。
 「行動できない人」の言い訳でよくあるのは「本当に心が突き動かされるようなものがない」というものです。私のコーチングに来る人にも「心からやりたいものが見つかればいつでもそれに向かって行動できる。行動イノベーションを毎日やったらそれが出てくるのか」という人がいますが、そういうことではありません。
 やりたいことを見つけることが目的ではなくて、何でもいいから自分の中から出てきたことに対してアクションをとってみる。そういう小さなアクションを積み重ねていくうちに人は変わっていきますし、変わったら「本当はどうしたいのか」という自問自答の答えも、以前と同じではないはずです。
 本当のコーチング・セッションは1時間くらいかけるんですけど、本の方はもっと手軽にできるようにということで「1分間行動イノベーション」としています。

岸見:ただ「行動できない人」というのは「行動しない」と決めていますから、1分間で、行動に移そうとする人はないでしょうね。

大平:1分間の内容は、50秒間で「本当はどうしたいか」を自問自答して、10秒間でそれを行動に移すというものです。10秒ならば、読者の方も騙されたつもりでやってくれるんじゃないかということで。
 10秒の行動で何か失敗する人はなかなかいないわけですから、とにかく自分でやると決めたこと、自分のやりたいことに繋がっていると思えることをやってみる。それを繰り返すことが大事なんです。

岸見:私はカウンセリングに来た人に、まずは最終的にどうしたいのかを聞きます。そうしないと今自分がやっていることが適切なのかどうかがわからないからです。
 夫が毎日朝帰りで、大喧嘩をしてしまうという妻が相談にくるとします。今後どうしたいのかという問いに「夫婦仲をよくしたい」と答えたら、それが目標です。
 それなら、夫が帰ってくるたびに大喧嘩してしまっては、ますます夫は家に寄りつかなくなるでしょうから、その行動は夫婦仲をよくしたいという目的に照らすと適切ではないことがわかります。
 ですから、私は帰ってきた夫に腹を立てるのではなくて「お疲れ様。無事に帰ってきてよかった」とお茶を出すことを提案するでしょう。
 人間は、基本的に信頼し続けてくれている人を裏切ることはできません。これを一ヶ月続けたら、夫は妻からの信頼に応えないわけにはいきません。これは「行動」に対するアプローチですが、「夫婦仲が良くなりたい」ということが目標であること、夫と喧嘩をすることその目標を達成するためには有効ではないことが理解されなければ妻はカウンセラーが助言したことを行動に移すことはないでしょう。

大平:シンプルだけれど、とても大切なことですよね。ただ、今のケースでは、女性の中には「悪いのは朝帰りする夫なのに、どうして私だけが歩み寄らないといけないのか」と反論する人もいると思いますが、それに対し、先生はどうお話しされますか?

岸見:変われるのは本人だけです。お茶を出したことで夫の朝帰りがなくなるかどうかはわかりません。でも、夫と仲良くしたいと思っているのであれば、まず妻からから変わるしかないではありませんか。
 妻からしたら負けたようでお茶を出すのは嫌でしょうけど、帰ってきた夫にお茶を出して、他愛のないことを話しているうちに夫婦間の関係は変わってくるはずです。最初のうちはお互い感情的になったりするかもしれませんけどね。

大平:この感情とどう向き合うかが一つのカギになりますね。

岸見:感情的にならなくてもいいのですが、もしも感情的になることがあれば、感情に任せてイライラしたりするのではなく、イライラしていることを言葉にして相手に伝えればいい。これ見よがしに大きな音を立ててドアを閉めたり、怒鳴ったりする必要はありません。
 「今の言い方はすごく嫌だった」とか「あなたのやったことに傷ついた」など、感情を言葉にして伝えられるようになれば、感情からは自由になれます。

大平:先生はイライラしたりしないのですか?

岸見:しませんね。自分が今どんな状態かを常に上から俯瞰していますから。相談にこられる人もこれができないとカウンセリングはできないのです。
 アドラーはカウンセリングは「再教育」だといっています。カウンセリングは知的な作業です。話を聞くだけではなくて、カウンセリングにくる人には必ずしも意識されていない自分の行動の目的を理解してもらい、その上で行動面での具体的な助言をしないといけませんから、なおさら自分を俯瞰する視線は必要になります。

―最後に、岸見先生が考えるアドラー心理学のすごさについてコメントをいただければと思います。

岸見:アドラーの考えを剽窃している人がいると、アドラーの弟子がアドラー本人に報告したことがあるのですが、誰か確かめてみると孔子だった、という話があるくらい、アドラー心理学の考え方は西洋人から見ると東洋的であるといわれることがありますが、日本人からは欧米的ですねという感想が返ってきます。ということは、アドラーの教えは、この世界でまだ一度も実現されていないものだともいえます。個人的にはまだまだ時代はアドラーに追いついていないと考えています。
 もっとアドラーの考え方が浸透していれば、男女はもっと対等になっているでしょうし、感情や力で子どもを従わせようとはせず、言葉で解決できる大人も増えるはずです。こういうことが家庭ベースでみんなができるようになったら世の中は変わると思います。

――ありがとうございます。僕の活動でも、アドラーの心理学を広げて根づかせていくための一助となればいいなと思っています。本日はどうもありがとうございました。
(新刊JP編集部)