専業投資家が明かす「失敗する投資」とは?

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 老後の蓄えのために、あるいは給料とは別に安定した収入を得るために、投資に関心を持つ人は多いはずです。しかし、実際に投資で利益を出し続けるのは大変なことですし、やり方を間違えれば損をしてしまうという怖さもあります。
 こんな時、気になるのは「プロの意見」です。投資の収入だけで生活している「専業投資家」の投資方法は、我々一般の投資家にとっても参考になるはず。
 そこで今回は、『プロも驚きの安定・高利回り!海外ETFとREITで始める インカムゲイン投資の教科書』(日本実業出版社/刊)の著者で、専業投資家として10年以上のキャリアを持つ玉川陽介さんにお話をうかがい、プロが実践する投資の極意を教えていただきました。

―『プロも驚きの安定・高利回り!海外ETFとREITで始める インカムゲイン投資の教科書』についてお話を伺えればと思います。まず、本書で「キャピタルゲイン(債券や不動産の値上がり益)」でなく「インカムゲイン(債券や不動産を所持していることによる配当や利子)」をテーマにした理由をお聞きできればと思います。

玉川:「キャピタルゲイン」目的の投資というと、基本的に個人投資家がやっているのは証券会社に行って日本株を買ってみるとか、FXをやってみるといった、ギャンブル性の高い投資で、7割方の人は外れて損をしてしまいます。
でも、ほとんどの人は「老後の資金を貯めたい」とか「月々のお小遣いを少しでも増やしたい」といった目的で投資をしているはずです。だとしたら、そういった当たり外れの大きい投資というのは、あまりその目的に合っていないのではないかと思ったのが理由としてあります。
「インカムゲイン」目的の投資は、当たり外れがさほど大きくありません。「年間で何%の利子がついて、月々の利益はいくら」という計算が立ちやすいので複利運用もしやすいんです。老後の備えのために投資をするという方には、こちらのやり方の方が合っていると思います。

―タイトルにある「ETF(上場投資信託)」と「REIT(上場不動産投資信託)」という言葉に馴染みがない方も多いと思います。これらの言葉についてかんたんにご説明いただけますか?

玉川:まず「ETF」ですが、証券会社の軒先によく「ブラジルに投資しよう」というような投資信託の広告が出ていますよね。基本的にはそれと同じです。
投資信託と内容はほとんど同じなのですが、「ブラジルの国債に投資しよう」とか「日本の株に投資してみるか」というように、自分で内容が選べて、なおかつネットで取引ができます。それもあって手数料が格段に安いというのが特徴です。

―「自分で内容が選べる」というのは、「運用する商品の銘柄」を選べるということですか?

玉川:個別の銘柄を選ぶのではなく、「日本株のETF」とか「アメリカの債券のETF」「ヨーロッパの不動産のETF」など、ETFの商品はテーマごとにまとまっていることが多いので、どんなテーマのETFに投資するかを選ぶ、ということですね。

―となると、ETFの良さはどんなところにあるのでしょうか。

玉川:単に日本の株であれば、個別に調べて自分で買えますが、たとえばインドネシアの株を買いたい場合、ほとんどの人はどんな株があるかよくわからないはずです。
こういう時、ETFであれば、インドネシア全体に幅広く投資できるようにまとめられている商品があったり、もう少し広く、東南アジア全般に投資するような商品もあります。
テーマやジャンルさえ決まっていれば、個別銘柄を調べる必要がないという便利さはありますね。

―テーマごとに個別銘柄がまとめられている点で、「福袋」のようなイメージで捉えればいいのでしょうか。

玉川:「福袋」は中身が見えないものですが、ETFはまとめられている個別銘柄が完全に見えるというところが違います。「透明な福袋」ですね。

―REITについてはいかがですか?

玉川:REITもETFも考え方は一緒ですが、REITは不動産ですね。
ETFで扱うのは証券ですが、REITは不動産を扱うという違いがあります。
不動産を持てば、家賃が入ってきますよね?その家賃を、REITを購入した人に分配するというのが基本的なシステムです。

―本書で紹介しているインカムゲイン投資は「証券投資」が中心になっていますが、これはなぜですか?

玉川:前著(『不動産投資 1年目の教科書: これから始める人が必ず知りたい80の疑問と答え』東洋経済新報社/刊)で不動産投資について詳しく書いたんですよ。だから、今回の本と両方読んでいただくことで、不動産・証券という主要な投資については理解していただけると思います。国語と算数のような感じで、投資の全体を理解するために使っていただきたいですね。

―インカムゲイン投資は、基本的に長期投資になります。今のように市場の変化が大きい時期に長期投資をするにあたって気をつけるべきことはどんなことですか?

玉川:一つは、本に書いたことですが、長い戦だからこそ「戦のルール」をきちんと理解することです。投資は知識を持った人でもなかなかうまくはいかないものですから、知識を持たないとなおさらうまくいきません。
あとは、「経済全体の流れの中に個別銘柄がある」という認識をすることです。
たとえばアップルやソフトバンクがすごく業績が伸びていて良さそうに見えると。じゃあ投資資金を全額アップルに集中させれば、新型のiPhoneが出た時に儲かるんじゃないか、投資の経験が少ない人ほどそう考えがちです。
でも、いかにアップルといえども、世界経済全体からするとほんの一部を担っているにすぎないわけですから、「iPhone6は売れているのに株価が下がる」ということもありえるわけです。
だから「木を見て森を見ない」みたいな投資ではなく、どんなできごとが株価にどんな影響を与えるか、アップルの例でいえば、iPhone6の売り上げだけでアップルの株価が動いているわけではないですから、それ以外のところで何が影響するのかを見極める必要があります。それは世界の経済全体を見ていないとわからないことです。株式投資を例にお話ししましたが、これができていないと長期投資を仕掛けても結局はあてずっぽうになってしまう。

―世界経済全体の流れを知るために、どんなことから始めればいいのでしょうか。

玉川:世界経済全体を見るといっても、地球上で起こっていることを全て把握するということではなくて、重要なポイントをいくつか押さえることが大事です。
今だと、アメリカの金融政策で金利を引き上げるという話ですから、金利関係のトピックや各経済指標の見方などは知っておかないと、日経新聞を読んでも理解できないはずです。そういうポイントについてはコツコツ勉強していくべきだと思います。

―玉川さんは10年以上投資家として活動されていますが、世界経済全体を見て変わったところはありますか?

玉川:証券や金融の基本的なところは僕が投資家になった当時から変わっていませんから、「金利が上がったら債券の値段は下がりますよ」といった法則めいたところは同じですよね。
金融というと一見難しいように思えるのですが、一度理解してしまえば100年変わらない仕組みのようなものがあるんですよ。
これに対して、マーケットのテーマは時期によって変わっていくものですよね。20年前であれば日本のバブル経済が世界全体で見ても大きなテーマでしたし、90年代の終わりには「アジア通貨危機」があって、その後には「ITバブル」がありました 
今も昔も変わらない、金融や経済のベースの部分をしっかり理解したうえで、最近のマーケットのテーマを見ることが大事です。
(後編につづく)