朗読で大切なのは「やりすぎないこと」――声優・笠原あきらさんインタビュー(1)

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 普段、作家や著者たちに話を聞いている新刊JPが、「朗読」にスポットをあて、本を朗読している人にお話を聞くインタビュー企画。第2回は、『思い出のマーニー』(ジョーン・G・ロビンソン/著、松野正子/翻訳、岩波書店/刊)のオーディオブック版のナレーションを担当した笠原あきらさんだ。
 『思い出のマーニー』は今年、スタジオ・ジブリによって映画化もされたイギリスの児童文学で、イングランドの田舎の町を舞台に、少女の成長を描いた作品として評価が高い。1967年にイギリスで発表され、日本では1980年に翻訳され出版されている。
 笠原さんは声優だけではなく、舞台や歌手活動をはじめ幅広い活動をしているが、「朗読」については「これまで縁がなかった」と語る。今回は、前編では「朗読する」ことの難しさ、『思い出のマーニー』という作品への想いについて、後編では笠原さんのご活動について話をうかがった。
(新刊JP編集部)

■「私もマーニーに憧れを抱きました」

――今回、笠原さんはオーディオブック版『思い出のマーニー』でナレーターを務められています。この作品は13時間を超える大作となっていますが、この作品の朗読をすることになったとき、収録にあたってどんな準備をされたのですか?

笠原あきらさん(以下敬称略):普通は、始まる前に一通り台本を全て読んで、物語の流れをつかんだ状態で収録に入るんですが、実は今回、あえて最後まで読み切らずに最初の収録にのぞみました。

――それはなぜですか?

笠原:例えば、外画(日本以外で制作された映像作品)だったりアニメだったりのアテレコの現場では、自分のセリフ以外のところも全て読んで頭に入れてから収録に入るのは当たり前で、作品をつかんだ上で、自分の役がストーリー上どういう位置にいるかを把握しておくんです。
でも、この『思い出のマーニー』のオーディオブックを任せてもらえることになったとき、実は読んだことがなくて、どんな作品か調べてみたら「心の成長を描いたお話」と書かれてあったので、自分も主人公と一緒に成長したいという気持ちであえて最後まで読まないようにしたんです。
本当は、物語をすべて理解して、このとき主人公のアンナはこういう気持ちで誰々と接して…という風にイメージしながら演じなければいけないと思うのですが、今回は目線をアンナと同じ位置にしたかった。だから不思議な読み方をしましたね。

――アンナという主人公については、どのような印象でしたか?

笠原:アンナは「何も考えないことが好きな女の子」ですが、実は私も一人っ子で、何もしないでいるのが苦ではないんです(笑)一人でいることも好きですし、友だちと外ではしゃいでいるのも好きなのですが、何も考えない楽しさというのも小さな頃からありました。だから、作中で言われているような「何でこの子はこういう風に思うんだろう」という不思議さはなかったですね。
アンナは周囲から理解してもらえないところがあったり、「私はこうだから」という意思も持っていますが、自分の小さな頃を思い出しましたね。読んでいて、私もマーニーに憧れを抱きましたし(笑)

――この『思い出のマーニー』という作品の中で、一番感情移入しやすかったのはアンナなんですね。

笠原:それはアンナですね。

――すごく笠原さんがナレーションをするのにピッタリの作品だったのかもしれませんね!

笠原:ありがとうございます(笑)

――この作品には様々な登場人物が出てきますが、キャラクターによって声色を変えていらっしゃるように思いました。すごく特徴が出ていて、分かりやすかったです。

笠原:実は収録が始まった当初、声を使い分ける予定はなかったんですよ。本って、読み手が作者と1対1になる世界で、それぞれの違った受け止め方をしますよね。だからオーディオブックも、聞いている方々が自由に受け止められるように、声を使い分けたり感情を出したりしないほうがいいのかなとも思っていたんですね。

――収録に入る前からそう思っていた。

笠原:そうですね。それと、私自身、これまで朗読に縁がなかったので、どういう風に読めばいいのかという部分もすごく悩みました。最終的には現場でディレクターさんに相談しようということで収録にのぞんで、今回は私ひとりでこの本を一冊読むから、お芝居をしすぎないでやってみようという話になって。
初日はすごく丁寧に指示してもらいました。だから、意識して声を変えたというつもりはないのですが、さすがに終盤になって4兄弟が出てきた頃には、多少意識した方がいいかなというのはありましたね(笑)

――例えば、上巻の最初の方にワンタメニーという、寡黙な老人が登場しますよね。あの声やしゃべり方がすごく印象的だったんですね。

笠原:ワンタメニーはちょっと苦労しました(苦笑)でも、声も芝居も変えてほしいのであれば、それぞれのキャラクターに別の役者さんをあてると思うんです。じゃあ、私がこの本を一冊朗読する意味はなんだろうと考えたとき、あまり声を変えたり、感情を入れたりしないで、全体を通して一つのテンションを保とうというのは収録のときに意識していました。

――『思い出のマーニー』を朗読すると、13時間強。実際収録はどのくらいかかったのですか?

笠原:伊藤さん、どれくらいでしたっけ?

ディレクター・伊藤:5時間を6日ですね。だから30時間くらいはかかっているかな。

笠原:そんなにやりましたっけ(笑)! 5時間とはいっても、間に休憩を入れていただいたり、早めに切り上げていただいたりしたこともありましたから…。
先ほども言いましたが、朗読は初めての体験だったので、集中力が必要で…。そこが一番の戦いだったかもしれない。

――『思い出のマーニー』の中で、特に好きなシーンはありますか?

笠原:風車小屋ですね!

――あの風車小屋のシーンは、この物語の中でも、最も重要といえるシーンの一つですよね。そのときの収録はどんな様子だったのですか?

笠原:伊藤さん、どうでしたか(笑)?

伊藤:あのときは笠原さんがすごくノッていて、その高揚と冷静さのバランスを保つに集中しました。物語の中でもすごく感情的なシーンの一つだから、テンションを保つのが大変だったと思いますよ。収録が終わったあとに、ちゃんと休憩を入れた記憶があります(笑)

笠原:感情を引きずったら、ナレーションの部分まで影響が出てしまうし、そこでやりすぎてしまうと、答えが一つになってしまって、聴いてくださっている方々の自由度が低くなってしまうと思うんです。聴いて想像してもらうものですから…そこは難しかったかなあ。

――朗読の難しさを実感された。

笠原:そうですね。やりすぎないことは、朗読では大事です(笑)自分をいかにコントロールするか。私はキャラクターに入り込みやすいタイプなので、これは役者として未熟だと思う部分ですね。

<後編は明日配信予定!>

■笠原あきらさんプロフィール
11月9日生まれ。神奈川県出身。
主な出演作品
■アニメ■
世界でいちばん強くなりたい!(リングアナウンス)、ナンダカベロニカ(ゆい)、フリージング(マリン=マックスウェル)、ToHeart2(山田ミチル)、忘却の旋律(ケイ)、クイーンズブレイド リベリオン(ミリムの弟)
■ゲーム■
スティールクロニクル(ホダカ・レクレール・キョウコ)、Caladrius(エレノア・リーグル)、Borderlands 2(Gaige)
■ラジオ■
Bay FM「Bay LINE7300」パーソナリティ
■ナレーション■
アンタッチャブルのマキマキでやってみよう! ほか
■デジタルコミック■
BeeTV 好きっていいなよ(愛子)、BeeTV 近キョリ恋愛(峰藤コウ)、BeeTV GTO(神崎麗美)
http://www.earlywing.com/talent/talent-1_kasaharaakira/

■オーディオブック版『思い出のマーニー』特設ページ
http://www.febe.jp/documents/special/marnie/index.html