「ビーチでビキニを着用するのはフランス人女性の義務である」

元家族担当大臣のナディーヌ・モラノ氏の発言を発端に、フランスで議論が巻き起こっています。

イスラム教徒の女性はフランスのビーチに来るな?

フランスのあるビーチでイスラム教徒の女性を見かけたモラノ氏は、夫が裸で泳いでいる間、彼女がスカーフを頭に巻き、長袖のチュニックとズボンを着て座っていたことに苦言を呈し、政治的論争を引き起こしています。

彼女は8月18日、自身のFacebookページに、次のように書きこみました。

フランスのような宗教と関係ない法律の国に来ることを選択した場合には、私たちの文化と女性の自由を尊重する義務がある。そうでなければ、どこか別の場所へ行けばいい」

さらに、その投稿に合わせて、ビーチに座ったスカーフ姿の女性のぼやけた写真と、1950〜60年代のセックスシンボルであるフランスの女優、ブリジット・バルドーのビキニ姿の写真を並べて掲載しています。

モラノ氏は、中道右派の政治家でサルコジ元大統領の熱烈な支持者。過去にも、その発言をめぐって、超党派の政治家から反発を受けたり、ソーシャルメディア上でコメントが殺到したりしたことがあるそうです。

フランスには顔のすべてを覆うヴェールが着用禁止の「ブルカ禁止法」がある

モラノ氏はさらに次のようにも書いています。

「男が水着のトランクス1枚で、鍛えられたボディを披露している一方で、彼女は頭のてっぺんからつま先まで服を着て、砂の上に静かに座っていた。彼は、ひとりで海に向かって行った。泳ぎを楽しみながら、水着の人たちに囲まれて座っている従順な彼女に手を振っていた。彼には服を脱いで泳ぐ権利があるが、彼女にはなかった。人権を発明した国でそれを見るのは腹立たしいことだ」

これに対して、イスラム恐怖症に対する研究所のアブダラ・ゼクリ所長は、次のように述べています。

「モラノ氏は、イスラム教の頭に巻くスカーフと、ブルカのような全身を覆うヴェールとを混同している。フランスの法律で禁止されているのは、全身を覆い隠すヴェールだけだ。頭にスカーフを巻いてビーチにいることのどこが、フランスの法律を尊重していないといえるのだろうか」

モラノ氏の発言の背景のひとつには、2011年にフランスが欧州で初めて施行した「ブルカ禁止法」があります。公共の場では、ブルカやニカブ(目の周り以外すべてを覆うヴェール)など、顔のすべてを覆うヴェールを着用することが禁じられており、違反者には150ユーロ(約2万円)の罰金が科されます。

また先月、欧州人権裁判所は、フランスのブルカ禁止法は、欧州人権条約が保護する思想・良心・信教の自由を侵害しないという判断を下しています。

「ビーチはすべての人にとって自由の場所であるべき」

しかし、政治家をはじめとする様々な人が、モラノ氏に対して批判のコメントを寄せています。

社会党の元指導者、アルレム・デジール氏は、「ビーチはすべての人にとって自由の場所であるべき」と述べており、中道右派の元大臣、ヴァレリー・ペクレス氏は、モラノ氏の「自由」の定義を批判。「法律を破らない限り、人は自分の好きな服を着ることが許されるべき」と言っています。

共産党の政治家、イアン・ブロサット氏も、「外国人嫌悪が休暇の場において、ましてやビーチでなどありえない」ことは明らかであると話しています。

さらに、あるブロガーは、「見知らぬ女性の服従、それも彼女自身がそれを選んだかもしれないのに、そういうことについて話すよりも、フランスで報告された数だけで毎年2万件も性的暴行事件が起こっていることを心配するべき」と発言しています。

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(リプトン和子)