Boogie Board SYNC 9.7レビュー:PCやモバイルと連携、手元を見ながら描けるペンタブレット

写真拡大

薄くて軽く、書いて消すだけというシンプルさが受け、米国で大ヒットとなった初代 Boogie Board が発売されたのは、今から4年前となる2010年のこと。その後は10インチ超の大画面版やスマホサイズの小画面版、ユーティリティ性能をアップさせたモデルなど、いくつかのバリエーションが加わりました。5月には最新版となる「Boogie Board SYNC 9.7 BB-6」が、国内代理店であるキングジムから発売されています。

Boogie Board SYNC 9.7では、PC・モバイル端末との連携が可能になるなど、データ管理やデータ共有に関わる機能が数多く盛り込まれています。新機能と使い勝手について詳しくレビューします。

ベクター形式でのファイル保存が可能に



筆圧検知機能を備え、自然でなめらかな線を描きやすく、気軽にお絵描きできるBoogie Board。ですが、従来モデルのほとんどが描いた内容をファイルとして保存できず、その場、その時限りのメモしか残せませんでした。

どうしてもデータとして残したいなら、デジカメなどで撮影して画像保存する必要があったのです。USB接続してファイル保存できる「Boogie Board rip BB-3」という機種もありましたが、現在はカタログ落ちとなっています。

新しいBoogie Board SYNC 9.7は、その名の通り9.7インチのディスプレイを備える、シリーズの中では比較的大画面のモデルです。重量は約323gと、初代から見れば200gも重くなっていますが、厚みはわずか5mmほどと、超薄型のタブレット端末のような感覚で持ち運べます。

内蔵バッテリーによる稼働時間は、1日4時間使用したとして5日間もつとされています。付属のスタイラスを使い、筆圧によって線の太さを変えながら絵や文字を自在に書き込むことができるのは、従来機種と同じです。

一番の特徴は、Boogie Board ripの流れをくむファイル保存機能と、PC・モバイル機器との連携機能を備えた点。本体前面左上に備えたsaveボタンをプッシュするだけで、画面に描いたものを内蔵メモリに保存できます。なお、隣接するeraseボタンは、従来機種同様に画面に描いている内容全体を一発で消去するもの。

保存されるファイルはベクター形式のPDF。拡大してもドットの粗さが目立たないため、筆圧を変えつつ細かく書き込んだ場合でも、描いた内容を忠実かつ詳細なデータとして残せます。PCとUSB接続すればドライブとして認識され、PCにファイルをコピー可能。ファイル1個の容量は書き込み度合いによって変化しますが、今回試用してみた限り、大きくてもせいぜい数百KB程度。内蔵メモリは約2GBあり、容量的には膨大なファイルを保存できます。

PDFで保存したデータ

新たな魅力となる「ライブドローイング」と「デジタイザー」


単にファイル保存できるだけに留まらないのがBoogie Board SYNC 9.7の「SYNC」たるゆえん。公式サイトでは、PC・タブレット・スマートフォンに追加の専用アプリをインストールすることで、SNSやクラウドサービスと連携して描いた画像を共有できる点や、Boogie Board SYNC 9.7に描いた内容をリアルタイムに端末画面上に表示できるライブドローイング機能を前面に打ち出しています。

が、ここではあえて後者を応用して「PCと組み合わせて高機能ペンタブレットとして使える」ところが最大のウリであると断言したいと思います。Windows/Mac用の専用ソフトをインストールし、PCとUSBもしくはBluetoothで接続することで、Boogie Board SYNC 9.7に描いている内容をそのまま専用ソフトのキャンバス上に表示します。いわばペンタブレットのような使い方が可能になるというわけ。

PCの専用ソフト

キャンバスを全画面表示

普及価格帯の一般的なペンタブレットだとPCの画面を見ながら描いていくことになりますが、Boogie Board SYNC 9.7では描いた内容が手元に反映されるので、紙のように手元を見ながら描けます。自然な視線や姿勢を保てるうえに、Boogie Boardシリーズの元々の書き心地とあいまって、液晶ディスプレイとペンタブレットが一体になった高機能ペンタブレットに近い使い勝手を実現できるのです。

ただし、専用ソフト上のライブドローイング機能は描画色や背景色を数パターンから選ぶことができるだけで、本格的な作画には向きません。下書きをBoogie Board SYNC 9.7で手書きして、清書と着色はPC上で、という人にはそれでも十分な機能を備えているとも言えますが、最終工程までBoogie Board SYNC 9.7でカバーしたい、と思うユーザーもいるはず。

それを可能にするのが、他のドローソフトなどと組み合わせて使える"デジタイザー"機能。専用ソフトのメニューから"デジタイザー"を選べば、他の一般的なドローソフトのキャンバスにも絵を描けます。ドローソフトの多彩なブラシツールで表現豊かに、しかも手元で描画線の状態を確認しながら描けるため、一度体験するともう普通のペンタブレットには戻れないかもしれません。

1点注意しておきたいのは、デフォルトがドラッグ操作扱いになり、一般的なペンタブレットのようにマウスとして使える仕組みにはなっていないところ。OSやソフトのメニュー操作は通常のマウスで、絵を描く部分だけBoogie Board SYNC 9.7で、という使い分けをするのがベターでしょう。とはいえ、これまでファイル保存にもほとんど対応せず、内に完全に閉じていたBoogie Boardは、Boogie Board SYNC 9.7によって全く新しい可能性を切り拓いたと言えるのではないでしょうか。

機能に見合った基本性能の進化が必要?


Bluetooth接続で利用する場合、PCだけでなくiOS端末やAndroid端末とも専用アプリ上でデータ管理などが行えます。PCとUSB接続する場合よりも若干描画に遅延はありますが、ライブドローイング機能で端末の画面上にリアルタイムで描画内容を反映し、絵をファイルに保存したり、SNSやクラウドサービスにアップロードすることも可能です。

ところが、こういったUSBやワイヤレスでPC・モバイルと連携できる機能と、これまで受け入れられてきたBoogie Boardのシンプルさが、いまいちバランスしていないようにも見受けられます。例を挙げると、eraseボタンによる全画面消去しかできない点がそれに当たります。

ライブドローイング機能で描画したり、応用的な使い方としてPC画面をプロジェクターで写して会議で説明に用いる、という用途では、「部分的な消去ができれば」と感じることが多々あります。ちょっとした間違いを直したくても打ち消し線でごまかすしかないのは、絵としての見やすさが損なわれるうえに、"行儀"もよくありません。今の時代に合った端末連携機能を実現するのであれば、それに合わせてBoogie Boardの基本機能も変わっていかなければならないのかもしれません。

もう1つ残念なところは、キングジムの公式Webサイトで最新のサポート情報が得られないこと。たとえばライブドローイング機能は当初PCとiOSにしか対応していませんでしたが、6月10日のアップデートでAndroid端末でも利用できるようになりました。ただし、Boogie Board SYNC 9.7自体のファームウェアアップデートも同時に必要で、アプリ上で詳しいアップデート方法が案内されるものの、文言は全て英語。

また、アップデートにはPCが必要になるため、アプリ上で案内されても対応のしようがありません。Android端末しか所有していないユーザーの場合はもちろんアップデートは(実質的に)不可能です。このあたりはBoogie Boardの開発元であるiMPROV electronics社のサポート範囲ではありますが、PCから参照できる案内ページの入り口がGoogle Play Storeのアプリページの隅にしかないので、せめてキングジムでも製品ページにアップデート手順を掲載するなど、最低限のサポート情報はほしいところ。6月10日以降の販売分についてもファームウェアアップデートが必要になるのかどうかも、6月25日の時点では不明です。

標準小売価格が1万6000円と、従来機種の延長で捉えると高額ながら、高性能ペンタブレットも兼ねていると考えると相応にも感じられるBoogie Board SYNC 9.7。ライブドローイングやデジタイザーの機能にさまざまな可能性を見いだせそうなだけに、なおさら製品の魅力に見合ったフォロー体制を期待したいものです。