高校担任が入学式欠席/純丘曜彰 教授博士
/高校生にもなって、入学式に親がついていくとか、担任が欠席で不安だとか、どうかしていないか。どんな仕事にもモラルはあるが、どんな人にも体調や私情はある。それをバックアップし、フォローしてこそ、チームとしての仕事じゃないのか?/

 埼玉のどこぞの県立高校で、新入生の担任が、自分の息子の高校の入学式に出席するために、勤務先の高校の入学式を欠席したとか。それで、11日の県立高校校長会で関根郁夫県教育長が「注意」を促したんだそうだ。

 初めて学校に行く小学生ならともかく、高校生にもなって、入学式に親が仕事を休んでまでついていく、というのも、どうかしているし、高校生にもなって、入学式に担任が欠席している、不安だ、と大騒ぎする新入生や保護者というのも、どうかしている。そのうえ、子女が同学年になる教員を、同学年の担任にした高校も、今後のことまで含めて考えるに、配慮に欠けると言わざるをえない。(たとえば、県内統一試験の監督とか、どうするんだろう?)こんな高校運営で大丈夫なのか。担任の欠席より、そっちの方が、よほど心配だ。

 おもしろいのは、関根郁夫県教育長。ちょっと検索すると、この人、前は名門浦和高校の校長で、全国高体連の副会長をやっている。2012年の1月20日に、第61回全国高校スケート・アイスホッケー競技選手権(スケートインターハイ)が群馬県で開かれたのだが、このとき、この競技大会長!の三田清一全国高体連会長が欠席。関根副会長が、三田会長のあいさつを代読している。全国大会を開くのに、その主催者で総責任者である大会の長が欠席、って、そりゃ入学式に一担任が欠席した程度のこととは問題の大きさが違う、開会式を延期するくらいの大問題、と思うのだが。まあ、三田会長はこの業界の大物だから、関根副会長も、校長会で三田会長に「注意」なんか促したりできないんだろうな。そういう人だから、覚えめでたく教育長に出世できるんだろうな。

 入学式や卒業式、全国大会なんかで、偉い人のあいさつの代読って、腹立たない? そりゃ、県内、市内、同じ日だったりで、本人が欠席、やむなく代読、というのはわからないでもないのだけれど、なんだかなぁ、と、みんな思ってるんじゃないだろうか。来賓でも、耄碌していて、イネムリしてたりする人、よくいない? だれだか知らないけど、偉い人すぎて、新入生や卒業生とは、これまでも、これからも、なんの関わりも無さそうだし、まあ、呼ばれたんだろうが、なんで真に受けて来たのか、よくわからない。建前だけの大人の義理? それとも、選挙目当ての露出?

 けっこうな報酬をもらって、仕事だけに専念できる偉い人と違って、現場の下っ端の従業員は、どこでもみな、いくつもの公私の事情を抱え、ぎりぎりでやりくりして、いずれにも最善を尽くしている。どんな仕事でも、モラルはある。けれども、どんな人にも、体調や私情はある。本人が批判を承知で、不在対応もきちんとして、実害が不安以上に大したことでないのなら、他人の仕事のモラルをとやかく言うと、ブーメランになる。どんな人だって、そして、あんただって、のっぴきならない体調や私情で、仕事を休まざるをえない状況に追い込まれることだってあるんだぜ。

 高校に限らない。仕事は、チームでやるものだ。仲間のだれかが体調や私情で都合が悪いとき、バックアップし、フォローしてこそ、チームじゃないんだろうか。なのに、同僚も、上司も、後ろ指さして、あいつが悪い、おれは知らない、注意だ、注意だ、などと騒ぎ立てるとはねぇ。新入生やその保護者、顧客にしても同じ。べつに担任や担当は、あんたに滅私奉公する専属奴隷じゃない。おたがい、高校や会社との関係だけでしょ。個々の教員、従業員がどういう理由で仕事を休もうと、そこに立ち入る権利はあるまい。

 なんにしても、こんな高校は、教員も、学生も、親も、教育委員会も、なんだか荒んでいる。行きたくないし、子供を行かせたくない。

by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰教授博士

(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。