【MotoGP】新旧天才ロッシとマルケスが開幕戦から熾烈なバトル
2014年、MotoGP開幕戦のカタールGP最終ラップ直前の21周目、トップ争いを繰り広げていたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)とバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)は、この周回だけで4回、トップの位置を入れ替えた。
カタールGPは、ナイトレースとして行なわれることが2008年以来の恒例になっている。砂漠の夜を照らし出す照明の中で、このふたりは昨年の決勝レースでも熾烈なバトルを展開した。
最高峰クラスデビュー戦を飾った超大型ルーキーと、古巣のヤマハへ復帰したスーパースターは、何度か攻守を入れ替える緊張感に満ちた戦いを続けたが、最後はロッシがマルケスを抑えきって、ロッシ2位、マルケス3位という順でチェッカーを受けた。
あれから一年。超大型ルーキーは史上最年少チャンピオンの座に就き、スーパースターは超一流の水準を保つことができるかどうか本格的に試されるシーズンとして、2014年を迎えた。マルケス21歳、ロッシ35歳。世代の異なるこのふたりが、ともに抜きんでた才能を持つことは、世界中の誰しもが認めるところだが、開幕前の準備という面では、彼らはともにそれぞれの事情で順風満帆とはいえないプレシーズンを過ごしてきた。
マルケスは、2月上旬の最初の冬期テストを終えた直後に右脚腓骨を骨折。以後のテストをすべてキャンセルし、約6週間もバイクに乗れない状態で開幕戦を迎えた。一方のロッシはというと、今年用のブリヂストンタイヤの性能を引き出すセットアップにヤマハ陣営が苦労を強いられており、昨年よりもさらに1リットル絞られて20リットルになった燃料容量の対応でも、ホンダと比較してやや不利な状況下にあるようだった。
マルケスはカタールGP初日の走行で、トップから1.4秒差の11番手にとどまったものの、2日目は5番手。そして土曜の予選には鎮痛剤を服用して臨み、ポールポジションを獲得した。走行後には「日を追って脚の痛みは問題がなくなってきた。むしろ脚をかばって右腕でバイクを押さえ込むので、腕のほうがくたびれてしまう」と話した。
一方のロッシは、予選で10番手に沈んでしまい、ピットに戻ってくると、憂慮をたたえた深刻な表情でラップタイムの記されたモニターを見上げた。
「4列目10番手スタートは厳しいけれども、トップと0.5秒差だったのはポジティブな要素。レースは後半周回が勝負になるけれども、7〜8周するとYZR-M1はタイヤが厳しくなる」
予選後にはこのように不確定要素を挙げていたものの、日曜午後10時に始まった決勝レースできっちりと帳尻をあわせてきたのは、さすがというべきだろう。
全22周で争われたレースは、中盤周回あたりからマルケスとロッシが後続を引き離して、一対一の戦いという様相を呈し始めた。前をゆくロッシの背後にマルケスがピタリと張り付き、マルケスが前に出るとロッシはその直後につくという周回が続いた。
「前方に出て、他よりもいいペースで走れていたので、マルクとバトルができると思った」(ロッシ)
「(序盤周回は)自信を持って走るのが難しかった。脚の状態のこともあったし、多くの選手があまりにあっさりフロントを切れこませて転倒していたので、少し不安にもなった」(マルケス)
そして、21周目にレースが大きく動いた。コーナーごとに果敢に攻め、4回トップを入れ替えたふたりは、マルケス―ロッシの順で最終コーナーを立ち上がり、ファイナルラップへと向かった。
「21周目が鍵だった。勝つチャンスはあったと思うけど、マルクを前に出したときに、少しミスしてしまったようだ。マルクのほうが速く立ち上がるコーナーがいくつかあって、最終ラップで最後の勝負をしかけるくらいに張り付いていることができなかった。レース中盤まではミスしないように心がけたけれども、終盤には手持ちの札を全部出し切った。マルクとの戦いはいつだって愉しい。何回くらいトップが入れ替わったのかさだかではないけど、最後に彼が前に出たことだけはよく憶えてるよ(笑)」
マルケスからわずか0.259秒差でチェッカーを受けたロッシは、最後の攻防をそんなふうに振り返った。僅差で抑えきった史上最年少王者も、最後のバトルには充ち足りた笑顔を見せた。
「バレンティーノとのラスト2周は、とても愉しかった。昨年もレース終盤にバトルになったけど、あのときはバレンティーノが勝った。今回もラスト2周に激しいバトルになった。今シーズンも、たくさんいいバトルをしたい」
昨年のマルケスは、レースを終えるたびに「たくさんのことを学習できた」「今回もいい勉強になった」と、必ず「学ぶ」という言葉を発していた。しかし、今の彼の口からは、もはやこの単語が発せられることはない。それはおそらく、世界チャンピオンを獲得した実績と自分のライディングに対する自信の表れなのだろう。
一方のロッシは、今回のレースと昨年を比較して、こう語った。
「大事なのは、今回のような内容を継続してゆくこと。去年も、シーズンの出足は良かったけれども、その後は苦戦が続いた。でも、今年は(昨年以上に)力強く感じるし、バイクにもうまく乗れているんだ」
次戦のアメリカズGPが開催されるテキサス州オースティンのサーキット・オブ・ジ・アメリカズは、昨年、マルケスが圧倒的な速さと順応性の高さを見せつけてMotoGP初優勝を飾ったコースだ。このとき、ロッシは16秒差の6位に止まった。ロッシの復調が本物かどうかは、このレースではっきりと見えてくるだろう。
西村章●取材・文 text by Nishimura Akira