このクルマはその名のとおり、フォルクスワーゲン(VW)のザ・ビートル(以下ビートル)に、強力ターボエンジンを積んだスポーツモデルである。同じようなサイズで、前輪駆動という基本レイアウトや前後サスペンション形式も基本的に同じ......というわけで、ビートル・ターボは前回紹介したゴルフGTIとサイズも性能も酷似している。

 ただ、よく似てはいるけど、同じではない。

 まず、ベースとなったビートルとゴルフの登場時期には1年ほどの差がある。お察しのとおり、ビートルのほうがちょっと古いだけだが、今のゴルフはクルマの芯から新しくなったので、基本土台設計からして世代がひとつちがう......といってもいい。また、エンジンも両方が1984ccの4気筒ターボだが、新しいゴルフGTIのエンジンは細かいところまで徹底改良されている。ゴルフGTIのほうが性能が高いのに燃費もいいのは、エンジンが新世代となったのが大きな理由のひとつだ。

 また、ビートルとゴルフでは専門用語でいうホイールベースとトレッド......すなわち4本のタイヤの"ふんばり寸法"もちがう。ビートル・ターボのほうがゴルフGTIよりも、4本のアシのスタンスが前後に100mm短く、そして左右には25〜35mm広い。

「せいぜい10cmだろ!?」という向きもあるかもしれない。だが、ホイールベースやトレッドというのは1cm変わっただけでも、実際の乗り味にはけっこう響く。しかも、ビートルとゴルフでは「前後に短いうえに左右にも広い」と、ダブルでちがうのだ。

 だから、このビートル・ターボとゴルフGTIは、販売時期もほとんど変わらず、基本的な味わいはどちらも間違いなくVWのスポーツモデルなのだが、乗ってみると別物だ。

 ご想像のとおり、ビートル・ターボのほうがよくいえば古典的、悪くいえば古い。乗り心地はガチッと素直に硬く、路面が荒れていれば正直に上下に揺すられる。ビートル・ターボはステアリングを切った瞬間にカッキーンと曲がりはじめるかわりに、ピタッとした方向安定性ではゴルフGTIにゆずる。エンジンもビートルのほうが豪快で迫力に優るが、実際の走行ペースはゴルフGTIのほうが明らかに速く、しかも運転はラクチンなのである。

 こうしたちがいは、当然のごとく、前記の基本骨格やエンジン設計の新旧、あるいはタイヤふんばり寸法、そしてゴルフGTIにあるハイテク可変ダンパーがビートルにはない......といったところから来るものだ。乗る前にカタログや諸元表を見て想像したとおりのちがいが、まあ笑っちゃうほど如実に出ているのが、マニアにはツボだったりする。数字の差が乗り味にこれだけピタリ正確に反映されるとは、VWのクルマづくりがそれだけ正確で安定している......という証拠でもあるけど。

 というわけで、客観的な性能や快適性、安定性をポイント換算すれば、ハッキリいうとゴルフGTIの圧勝である。しかし、じゃあビートル・ターボが魅力に欠けるかというと、全然そんなことはない。そりゃあクルマにまったく興味のない家族や恋人を同乗させるならゴルフGTIのほうが無難だが、ワタシのような"昭和のクルマ好きオッサン"が自分で運転するなら、ツボをより強く刺激してくれるのは、ビートル・ターボのほうである。

 多少の乗り心地の良し悪しは横に置いても、ビートルのカッキーンという反応にオッサンは悶える。エンジンもゴルフGTIのそれのほうが静かで滑らかで全域でパワフルなのだが、オッサンはビートルの豪快サウンドに惹かれる。昭和の自動車雑誌には"アバタもエクボ"というフレーズが常套句のように使われていたが、これこそアバタもエクボ。まあ、アバタといっても、それはあくまで世界一優秀なゴルフGTIとの比較であって、ビートル・ターボは絶対的には十分に全身がエクボのデキ......とってもいいくらいだ。

 それから、ビートル・ターボには、いちいちオッサンのツボをくすぐるシャレが効いている。ダッシュボード中央の三連メーターやピョコンと跳ねたリアスポイラー(かつてダックテールなどと呼ばれたタイプ)など、昭和のスポーツカーを知るオッサンは感涙である。

 そもそも、ビートルそのものが全身でシャレを効かせたクルマだし......。こういうクルマだからこそ、ちょっと古典的で豪快な乗り味のほうがマッチして、好き者のツボを突く。ホント、この微妙な味わいまですべてがVWのねらいだとしたら、これは恐ろしいほど高度なシャレである。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune