柏市の連続通り魔事件は警察の頑張りで、発生から2日で逮捕という幕切れになりました。でも今のままでは捜査陣が後手後手に回る構造は改善されません。公共の街頭防犯カメラだけでなく、街頭を映す位置にある民間の防犯カメラも併せてネットワーク化し、犯罪捜査にとってより有効な仕組みにして欲しいものです。

3月3日深夜に発生した千葉県柏市の連続通り魔事件は一時、周辺一帯の住民を恐怖に陥れましたが、5日午後には被疑者を任意で事情聴取、同夜0時少し前に逮捕に至りました。発生から2日で逮捕にこぎ着けたことになります。サングラスにマスク、そして帽子をかぶった目撃イラストだけでは全く人相が分からなかったことを考えると、さすがに日本の警察は優秀です。

しかしあえて言いますが、このようにスムーズな逮捕ができたのは幸運もかなり作用しています。この犯人には高飛びするという発想がなかったからです。もしそうしていれば、捕まえるのには結構手間取ったでしょうし、その間に別の犯行に及んだかも知れません。

今後同様の犯行が発生した際にそうした懸念を減らすには、犯行直後の犯人の様子をそれほど遅れることなく(できればほぼリアルタイムで)把握できるようにすることが有効です。そのためには街頭の防犯カメラだけでなく、コンビニなどの主な民間の(駐車場など街頭を映す)防犯カメラ映像もモニタリングできるように警察の通信網につなげるべきです。

今回の事件の解決のポイントは、防犯カメラの映像が容疑者特定につながったことです。報道によると、防犯カメラの解析や周辺の聞き込みなどから容疑者を割り出したとのことです。現場から約1.5キロ離れたコンビニの防犯カメラに容疑者とみられる男が写っていたのです。駐車場に車で現れ、車から降りて逃走した様子が確認されたそうです。

県警は謎解きをしていませんが、目撃情報からある程度若い男であることが、防犯カメラ画像からその男の体型と向かった方向が、それぞれ分かります。仮にその先に別の防犯カメラがあってその時間帯にその男が映っていなければ、その途中に男のねぐらがあると推定できます。途中にあるアパートを中心に周辺の聞き込みをしたら、当てはまる若い男の存在が浮かび上がってきたという寸法でしょう。

ここで重要なポイントは、公共の「街頭防犯カメラ」だけでは主要な地域の道筋を押さえることができないこと、コンビニなどの防犯カメラ映像の記録は警察がいちいち施設オーナー(もしくはそこと契約している警備会社)に依頼して提出してもらわなければいけないことです。それから手分けして画像を早送りしながら怪しい人物が映っていないかを探す訳です。どうしても捜査が後手後手に回ってしまうのは、現状では仕方のないことなのです。

でも仮に街頭を映す位置にある、コンビニなどの主要な民間の防犯カメラ映像をリアルタイムで、もしくは録画をリモートで(つまり、いちいち提出されるのを待つことなく)警察が観ることができたらどうでしょう。

事件発生直後に、該当する地区にある公共の「街頭防犯カメラ」と民間の防犯カメラを併用して駆使すれば、犯人の足取りをかなり素早く絞り込むことができるでしょう。場合によっては周辺の警官を緊急配備することもできるかも知れません。初動捜査の機動性と正確性が各段に高まり、事件解決速度が一挙に高まるのは間違いありません。

なぜこうした提言をするのかというと、ボストン市とニューヨーク市の事情の違いが念頭にあるからです。ボストンマラソンの爆破事件の容疑者(人物は特定されず)の画像は3日後に公開され、その夜には逃走しようとした犯人が車を強奪したために尻尾を出し、警察との銃撃戦が展開されました。マラソン会場にいた人たちが撮ったビデオ映像や、周辺の官民の監視カメラの映像をかき集めて分析したとのことですが、全くネットワークされておらずバラバラなので、解析にも時間が掛ったのです。

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それに対し元々天下一の犯罪都市だったニューヨークでは無数にある監視カメラがネットワーク化されています。公共のだけでなく、かなりの数の民間の監視カメラもつながっているのです。おかげで、街頭で犯罪が起きたらNY警察がすぐに現場の様子を把握して、逃走する犯人をトレースできるようになっているそうです。これが検挙率の大幅アップにつながっており、ひいては同市での犯罪率が急低下した主要因の一つにも挙げられています。

もちろんこうした治安対策に対しては、すぐに「プライベートの侵害が心配だ」という反論が声高に出るでしょう。でも考えてみて下さい。もう既に公共の場所のあちこちに「防犯カメラ」という名の監視カメラは設置されています。民間施設でも、コンビニに限らず既にそこらじゅうに設置されています。つまり元々家やオフィスの外に出たら、我々のプライベートの空間は非常に限られているのです。官民でネットワーク化することで、さらにプライベートの侵害が進むというのは合理的な指摘ではありません。

むしろそれらの防犯/監視カメラが真の防犯のために有効に活かされるようにすることは、設置されていること自体で多少気分を害することの代償として、むしろ市民が要求してもよいことではないでしょうか。日本には優秀で勤勉な警察官と世界一の「顔認証」技術などがあり、失いつつある「近所の目」を補う仕組みさえあれば、都会でも防犯レベルを高く維持できるはずです。