【エアレース】「空のF1」が復活!「侍パイロット」室屋義秀の挑戦
世界のトップパイロットが小型飛行機でスピードとテクニックを競う、「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ2014」が2月28日、UAE・アブダビで開幕。3年の休止期間を経て、ついに"空のF1"が復活した。
2005年にスタートして以来、毎年各地を転戦し、世界トップのパイロットたちが年間総合優勝を争ってきたレッドブル・エアレース。特に欧米での人気はすさまじく、多くのファンを魅了し続けてきた。
ところが、注目度の高まりとともに飛行機の性能が向上したものの、熱を帯びる開発競争にルールをはじめとした競技環境がついていけなくなり、10年夏、ついにレッドブル・エアレースはシーズン最後の2戦を中止にし、それ以後、安全基準の見直しなどを理由にレース開催は休止されてきた。
そんな人気イベントが今年、装いも新たに帰ってきたのである。
"新生エアレース"は、安全性向上を主目的にいくつかのルール改正が行なわれた。
たとえば、最大Gは12から10まで引き下げられ、パイロットへの負担を軽減。また、従来は水平通過と垂直(機体を90°傾ける)通過の2種類あったゲートも水平通過のみとなり、ゲートの高さも20mから25mに引き上げられ、それに合わせて飛行高度が5m高くなった。
さらには、エンジンとプロペラは統一規格のものを使用し、改造は禁止。レースディレクターのジム・ディマッテオによれば、「すべてのパイロットが同じ条件のエンジンとプロペラを使う。ベストエンジンではなく、ベストパイロットを決めるレースは誰が勝つのか分からない、エキサイティングなものになる」という。
もちろんエンジンが統一されても、空力の部分で機体差は存在するわけだが、以前に比べ、レースにおけるパイロットの技量の比重が高まったのは間違いない。レースのジャッジを担当するスティーブ・ジョーンズも、「いかにスムーズにリズムよく飛ぶか」が勝負のカギになると語る。
4年ぶりに復活した今年のレッドブル・エアレースは7カ国で全8戦が行なわれ、出場全12パイロットがそれぞれの獲得ポイントの合計によって年間総合優勝を争う。
そこで注目したいのが、レッドブル・エアレースにアジア人として唯一参戦している室屋義秀である。
室屋は昨年エアロバティックス(曲技飛行)の世界選手権で6位となるなど、世界トップレベルの飛行技術を誇るパイロット。また、自身の活動拠点を福島に置くことが縁で、12年に福島県の「あったかふくしま観光交流大使」に就任。 全国各地でのエアショー開催や、子どもたちの未来をサポートするプロジェクトへの参画などを通じて、福島の復興を支援している。
そんな室屋は09年からレッドブル・エアレースに参戦し、今年が3シーズン目。年間総合順位は09年13位、10年12位(いずれも全15パイロット)にとどまっているが、09年の最終戦で6位になるなど、上位を狙える力があることを証明している。
今年の目標に「全8戦をコンスタントに飛ぶこと」を掲げる室屋は、開幕戦前日のトレーニングセッションを終えた段階で、こう語った。
「3年半ぶりのレーストラック(での飛行)でドキドキしたけど、楽しく飛べた。結果は後からついてくるもの。(機体の)コントロールをもう少し安定させて、確実に(レースの)感覚を養うのが大事になる」
「楽しく飛べた」の言葉どおり、トレーニング2本目には5位のタイムを叩き出し、「(上位と下位の)タイム差がもっと出ると予想していたが、意外とみんな接近している」と室屋。「(予選は)面白くなりそう」と語り、笑顔を見せた。
果たして室屋は、予選8位で最終日の本戦へ。マッチプレイ方式(予選順位に応じて、1位対12位、2位対11位......、6位対7位が対戦し、勝者6名+敗者のなかから上位タイムの2名が勝ち上がる)で行なわれる「トップ12(準々決勝)」では優勝候補のハンネス・アルヒと対戦し、力の差を見せつけられた。
「トレーニングセッションで自分なりに攻めて出したタイムを、(予選からトップ12では)みんなが越えてきた。本番でもう一歩踏み込めないと、上位には食い込めない」
そう言って悔しさを露(あら)わにした室屋。結局、最終順位は9位。ポイント獲得となる「スーパー8(準決勝)」進出はならなかった。
開幕戦を飛んでみた実感としては「(トップレベルと自分との)機体の差が1秒はある」と室屋。だが言い換えれば、機体以外の差は「自分のテクニックで詰めていける」ということでもある。
今回の室屋のベストタイムは予選2回目の58秒171。アルヒを0秒337差で抑えて優勝したポール・ボノムが「ファイナル4(決勝)」で記録した56秒439とは、1秒7程度の差があるが、これを1秒0の差までに縮められれば、スーパー8進出は確実なものとなるのはもちろん、ファイナル4進出も視野に入ってくる。
「初戦としては、自分の手応えは悪くない。次戦以降、確実に結果を出せる状態にあると思う。あと7戦、十分に手応えはあるので、上位半分(年間総合6位以上)に食い込みたい」
今年、4年ぶりに新装なったレッドブル・エアレース。世界トップレベルのパイロットが繰り広げる空の争いと同時に、"侍パイロット"室屋義秀の挑戦にも注目してほしい。
■レッドブル・エアレース2014年間予定■
第1戦 2月28日、3月1日アブダビ(UAE)
第2戦 4月12、13日ロヴィニ(クロアチア)
第3戦 5月17、18日プトラジャヤ(マレーシア)
第4戦 7月26、27日グディニア(ポーランド)
第5戦 8月16、17日アスコット(イギリス)
第6戦 9月6、7日ダラス・フォートワース(アメリカ)
第7戦 10月11、12日ラスベガス(アメリカ)
第8戦 11月1、2日中国
浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki