企業の社会的責任を考慮した調達のあり方/野町 直弘
企業の社会的責任を考慮した調達のあり方とはどのようなものでしょうか?
企業の調達部門の役割・機能は所謂QCD(品質、コスト、納期)の最適な調達先から最適な調達を行うこと、と言われています。
最近はこれに追加しCSR(企業の社会的責任)調達の推進が非常に重要視されています。これはサプライヤのCSRの遵守状況を確認し、CSRに配慮を行っている取引先から調達を行うというものです。
CSRの観点から言うとISO26000が2010年に制定されていますが、ここでは大きく以下の7点を配慮するように上げられています。
1.CSRの取組
2.人権・労働条件
3.安全衛生
4.環境
5.公正取引・倫理
6.品質・安全性
7.情報セキュリティ
とくに中国等のLCC(ローコストカントリー)からの調達に関しては2.人権・労働条件に関して児童労働や過酷な労働環境などの問題が上げられています。一方で
卑近な例としては「公正取引・倫理」に含まれる『反社会的な勢力との取引の禁止』です。この件については昨年のみずほホールディングスの事案以降、日本企業でも一層配慮を進める動きがでてきています。
また「環境」面では欧州の環境規制だけでなく『紛争鉱物』に関しても対応が必須になっており、対応に苦労しているというのが実態でしょう。
このように調達部門の業務範囲は近年益々広くなり、その一端がこうしたCSR調達の推進によるものであることが理解できます。
しかし、企業の社会的責任という観点で調達・購買を捉えた時に先に上げた7つの事項では大切な何かが欠けているような気がします。私は企業の社会的責任という観点から調達を捉えた場合に、今後より重視すべきことは最適価格の追及であると考えます。
例えば今年の4月より消費税が5%から8%にアップします。昨年の10月1日より
「消費税転嫁対策特別措置法」が施行されましたが、ここでは消費税の転嫁拒否
等の行為の是正を求めています。アベノミクスでは2%のインフレターゲットが設けられました。また円安による輸入品や素材のの価格上昇、建設工事需要に対する人手不足などから、多分2020年の東京オリンピック開催まで半ばバブルが続くように購入品価格は上昇する方向でしょう。
ミクロの視点で考えるとこういう局面で如何にコストアップを抑制し競合他社に伍していくかが企業の競争力につながります。しかし、歪みが生じているにも関わらず適正価格を追及するのではなく価格のみに焦点を絞った行き過ぎた安価購買の追及をすることは、取引先の経営だけでなく社会に与える影響も少なくありません。
これは大手企業になればなるほど言えることでしょう。
昨年の4月に佐川急便がアマゾンの取引から撤退したというのは、あまりに有名なニュースです。アマゾンの取引条件があまりにも厳しすぎる(要求が高く対価が低い)ことが理由と言われています。アマゾンとの取引を佐川急便が辞退したことでアマゾンの宅配業務はほとんどヤマトが一手に支えることになったようです。
こういう状況下今たいへんなことが起こりつつあります。主にBtoCの通販事業者を相手にヤマト運輸が値上げの交渉に入っているようなのです。
『低単価の顧客をリストアップして値上げ交渉を始めており、「値上げの通らない
顧客に対しては最終的に取引中止もある」』とヤマト運輸の社長のコメントが報道
されているほどです。直接の理由としては昨年起こった「クール宅急便」の不祥事問題への対策にコストがかかりそれをカバーするため、ということですが、裏側には昨年のアマゾンの問題でヤマト、佐川の競争環境からヤマトの1社勝ちの状況になりつつあることによる競争環境の欠如などが理由の一つであることは間違いないでしょう。
このような状況下で一番困っているのは通販事業者です。また今までは各ECともに送料無料や時間指定配送、当日配送などの配送関連のサービスに力を入れてきましたが、近いうちに運賃の高騰分が消費者に転嫁されることも予想されます。
このような状況は安定調達や競争環境の整備とそれによる企業努力の促進を阻害する要因にもつながります。
これらの元はある特定企業の無理な契約条件が引き起こしたことなのです。
「資本主義の世界だから自由な競争であって当然。」というご意見もあるでしょう
が、前回のメルマガでも述べましたが「安価であることには何らかの道理がある」
のです。
もしそれが供給企業の力を超える無理な安価であれば、いつかは是正する方向に向かいます。つまりいつかはどこかに歪みが生じ、その歪みを解消する力が働くのです。今回のヤマト運輸の値上げ交渉はその歪みからでてきた一つの現象と言えるでしょう。
このように考えると行き過ぎた安価購買の追及が単にその取引先だけでなく、
広く様々な企業に影響を与えつつあることが分かります。企業の社会的責任という観点からも調達活動でとても重要な視点がここにあるのではないでしょうか。
勘違いしないで欲しいのは安く買うことが悪いことだ、と言っている訳ではないということです。私が言いたいのは「無理のある安価を力で推しつけること」は企業の社会的責任という観点からも望ましいことではない。何故ならこれにより歪みは必ず生じるし、その歪みを解消する力が最終的には自社の首を絞めることにもつながる、ということなのです。
「何でもかんでも安ければいい」からそろそろ卒業しませんか。
企業の調達部門の役割・機能は所謂QCD(品質、コスト、納期)の最適な調達先から最適な調達を行うこと、と言われています。
最近はこれに追加しCSR(企業の社会的責任)調達の推進が非常に重要視されています。これはサプライヤのCSRの遵守状況を確認し、CSRに配慮を行っている取引先から調達を行うというものです。
1.CSRの取組
2.人権・労働条件
3.安全衛生
4.環境
5.公正取引・倫理
6.品質・安全性
7.情報セキュリティ
とくに中国等のLCC(ローコストカントリー)からの調達に関しては2.人権・労働条件に関して児童労働や過酷な労働環境などの問題が上げられています。一方で
卑近な例としては「公正取引・倫理」に含まれる『反社会的な勢力との取引の禁止』です。この件については昨年のみずほホールディングスの事案以降、日本企業でも一層配慮を進める動きがでてきています。
また「環境」面では欧州の環境規制だけでなく『紛争鉱物』に関しても対応が必須になっており、対応に苦労しているというのが実態でしょう。
このように調達部門の業務範囲は近年益々広くなり、その一端がこうしたCSR調達の推進によるものであることが理解できます。
しかし、企業の社会的責任という観点で調達・購買を捉えた時に先に上げた7つの事項では大切な何かが欠けているような気がします。私は企業の社会的責任という観点から調達を捉えた場合に、今後より重視すべきことは最適価格の追及であると考えます。
例えば今年の4月より消費税が5%から8%にアップします。昨年の10月1日より
「消費税転嫁対策特別措置法」が施行されましたが、ここでは消費税の転嫁拒否
等の行為の是正を求めています。アベノミクスでは2%のインフレターゲットが設けられました。また円安による輸入品や素材のの価格上昇、建設工事需要に対する人手不足などから、多分2020年の東京オリンピック開催まで半ばバブルが続くように購入品価格は上昇する方向でしょう。
ミクロの視点で考えるとこういう局面で如何にコストアップを抑制し競合他社に伍していくかが企業の競争力につながります。しかし、歪みが生じているにも関わらず適正価格を追及するのではなく価格のみに焦点を絞った行き過ぎた安価購買の追及をすることは、取引先の経営だけでなく社会に与える影響も少なくありません。
これは大手企業になればなるほど言えることでしょう。
昨年の4月に佐川急便がアマゾンの取引から撤退したというのは、あまりに有名なニュースです。アマゾンの取引条件があまりにも厳しすぎる(要求が高く対価が低い)ことが理由と言われています。アマゾンとの取引を佐川急便が辞退したことでアマゾンの宅配業務はほとんどヤマトが一手に支えることになったようです。
こういう状況下今たいへんなことが起こりつつあります。主にBtoCの通販事業者を相手にヤマト運輸が値上げの交渉に入っているようなのです。
『低単価の顧客をリストアップして値上げ交渉を始めており、「値上げの通らない
顧客に対しては最終的に取引中止もある」』とヤマト運輸の社長のコメントが報道
されているほどです。直接の理由としては昨年起こった「クール宅急便」の不祥事問題への対策にコストがかかりそれをカバーするため、ということですが、裏側には昨年のアマゾンの問題でヤマト、佐川の競争環境からヤマトの1社勝ちの状況になりつつあることによる競争環境の欠如などが理由の一つであることは間違いないでしょう。
このような状況下で一番困っているのは通販事業者です。また今までは各ECともに送料無料や時間指定配送、当日配送などの配送関連のサービスに力を入れてきましたが、近いうちに運賃の高騰分が消費者に転嫁されることも予想されます。
このような状況は安定調達や競争環境の整備とそれによる企業努力の促進を阻害する要因にもつながります。
これらの元はある特定企業の無理な契約条件が引き起こしたことなのです。
「資本主義の世界だから自由な競争であって当然。」というご意見もあるでしょう
が、前回のメルマガでも述べましたが「安価であることには何らかの道理がある」
のです。
もしそれが供給企業の力を超える無理な安価であれば、いつかは是正する方向に向かいます。つまりいつかはどこかに歪みが生じ、その歪みを解消する力が働くのです。今回のヤマト運輸の値上げ交渉はその歪みからでてきた一つの現象と言えるでしょう。
このように考えると行き過ぎた安価購買の追及が単にその取引先だけでなく、
広く様々な企業に影響を与えつつあることが分かります。企業の社会的責任という観点からも調達活動でとても重要な視点がここにあるのではないでしょうか。
勘違いしないで欲しいのは安く買うことが悪いことだ、と言っている訳ではないということです。私が言いたいのは「無理のある安価を力で推しつけること」は企業の社会的責任という観点からも望ましいことではない。何故ならこれにより歪みは必ず生じるし、その歪みを解消する力が最終的には自社の首を絞めることにもつながる、ということなのです。
「何でもかんでも安ければいい」からそろそろ卒業しませんか。