2014年のF1シーンを時計メーカーのスポンサーシップから占う
エンジンを中心とした大幅なレギュレーション変更によって、かなり混乱している模様の2014年シーズンのF1シーン。マシンデザインの美醜が話題になっているが、エンジンの完成度もイマイチな様子。しかも開発費がかさんで多くのチームが金欠に陥っており、今やお金を集められるドライバーじゃないとレギュラードライバーのシートに手が届かないという困った状況にある。
こうなると俄然注目が集まるのがスポンサー。どういうメーカーがサポートしているかで、チームの充実度がわかる。
F1は世界規模のスポーツであり、何億もの人がテレビなどで観戦する。スポンサーとなる企業は、エナジードリンクやアルコール、ファッションなど、一般消費財メーカーが多い傾向だ。
そんななか、異色なのが時計メーカーだ。他ジャンルと比べると圧倒的に高価な商材だが、それでもF1と時計の結びつきは数十年にも及んでおり、スピード感やスポーツマインドを共有させるプロモーション活動に役立てている。
たとえばマクラーレンの場合は、「タグ・ホイヤー」がサポート。1969年にスイス人ドライバーのジョー・シフェールをアンバサダーに起用し、1971年からはフェラーリの公式計時を担当していた。
その後はマクラーレンとの関係を強固に築いており、アイルトン・セナとの蜜月関係を覚えている人も少なくないだろう。現在もマクラーレンのドライバーをアンバサダーとして起用し続けている。今季もマクラーレンで走るジェンソン・バトンもアンバサダーだが、なんと彼女であるモデルの道端ジェシカまでアンバサダーに就任。F1界きっての爽やかなカップルは、時計業界でも注目の的になっている。
メルセデスAMGと「IWC」との間には、骨太な関係がある。ドイツチームとドイツ語圏の時計メーカー(スイスは多言語国家。時計産業はフランス語圏が中心)との組み合わせは、質実剛健という言葉がしっくりくる。エンジニアリングにこだわるという点も共通項といえる。
今季のドライバーラインナップで最も話題なのは、フェルナンド・アロンソとキミ・ライコネンというチャンピオン経験者が並ぶフェラーリだろう。これだけ派手なチームをサポートするのは、今最も勢いがある時計メーカーである「ウブロ」。多くのセレブに愛される時計は、フェラーリの垢ぬけたイメージとの相性が良好だ。
また、4年連続でコンストラクターズとドライバーのダブルタイトルを獲得しているレッドブルは、強すぎるのが悪いのか、セバスチャン・ベッテルが独走を始めると、全世界のテレビ視聴率が下がるとまで言われてしまう始末......。チームの方針も派手さを好まず、とにかく着実に勝利を積み重ねて実績を高める事を重視している。だからこそ、まだ駆け出しだった2009年の時点からサポートしてくれた「カシオ」との関係を継続しているのだろう。
トップ5の中で、最も苦戦しているのがロータスだ。なにせ資金不足でドライバーにもスタッフにも給料を払えず人材が大量離脱。ベネズエラ企業のサポートを受けるパストール・マルドナドをドライバーとして雇い入れることで、約55億円という資金を手に入れ、ようやく借金を返済したと言われている。
そのロータスをサポートするのは、時計一本の平均購入金額が1200万円!という超セレブブランドの「リシャール・ミル」。昨年はサファイアクリスタルでケースを作ったモデルを約1億6000万円で発売し、ものの数分で予約完売させた「伝説」もある。
今年の新作となるロータスとのコラボレーションモデルは、2型が登場。ひとつは通常のクロノグラフで約2000万円弱。さらにロマン・グロージャンとのコラボレーションモデルは、一本9000万円越えというプライスタグをつけている。世界限定30本のコレが全部売れたら(たぶん予約完売)、それだけでマルドナルドが持ち込んだ資金のほぼ半分に相当する......。
ちなみにスポンサードしている理由は、"オーナー同士が友人だから"。ケタ違いの超富裕層ともなると、F1は観戦するのではなく参加するもの。ラグジュアリーな遊びのひとつなのかもしれない。そういえば、ブランドを率いるリシャール・ミル氏は、古いロータスのF1マシンも買ったそうで、「世界で一番美しいマシンだ」とご満悦だった。
こういう姿勢がモータースポーツ文化を支えているのだろう。リシャール・ミルの時計を所有する有志がポケットマネーをチームに寄付したら、それだけでロータスの財務環境が一気に改善しそうだ。
今年のF1は3月14日〜16日のオーストラリアGPからスタート。今年は小林可夢偉がケータハムからの参戦が決まり、日本のF1熱も再燃しそう。ちなみにケータハムには、時計メーカーのサポートはなし。可夢偉が活躍すれば、日本の時計メーカーだって無視できなくなるはず。文化支援だと思って、是非!
篠田哲生●文 text by Shinoda Tetsuo