CS向上活動やサービス改革でぶつかる3つの壁(その1)/松井 拓己
顧客満足向上(CS向上)活動やサービス改革活動がなかなか上手くいかず悩まれている方が多いようです。こういった活動はどこでつまずくのか?そしてその対策は?このよく頂くご質問について、サービスサイエンスの視点も織り交ぜながら整理をし、活動推進におけるポイントを考えてみたいと思います。

これまでの記事で、サービスサイエンス(サービスを科学する)という視点で「CSやサービスの価値」や「サービスの本質的な理論」、「興味深い事例」などについて触れさせて頂きました。そんな中で、「CS向上活動やサービス改革を進めているが、どうもうまくいかない」とご相談頂くことが増えてきました。また、様々な業界でサービス競争が活発になり、「いかにサービスやCSで差別化するか」についての取り組みが盛んに取り組まれていますが、経験やセンス・成功事例を拠り所にして進められることが多く、なかなか上手くいかずに悩まれているケースが増えているようです。

そこで、これから活動を始める際や、活動が今後壁にぶつかった際などにヒントにして頂けるよう、活動がつまずきそうなポイントとその対策を考えてみたいと思います。

■CS活動・サービス改革は、どんなことで困っているのか?

 「顧客満足」や「サービス」は目に見えないために、掴みどころがなくてなんだか雲を掴むような議論になってしまうという印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。目に見えないテーマであるがゆえの難しさがあるんですね。
例えば、
・議論は何時間でもできるのに、明日から具体的にどんなアクションをしたら良いのか、効果的な努力ポイントが決められない。

・現場から挙がってきた課題に対策を打っているが、モグラ叩き状態で本質的な活動が進んで行かない。

・「顧客満足」や「サービス」「ホスピタリティ」という言葉はスローガンとしては掲げられているが、そもそもそれを本気で重要だとは思っていない。もしくは、それをどう実現したら良いのかさっぱり分からない。

・活動が現場から乖離してしまって、現場が動いてくれない。机上の空論的な活動になってしまっている。

・現場はものすごくサービスマインドが高く、本気でお客様に喜んで頂きたいと思って取り組んでいるのに、なかなか顧客満足度や売上向上などの成果に繋がらない。

などなど。

CSやサービスに関する活動は、もしかしたら「とりあえず」で現場任せに始めてしまうことは簡単かもしれません。しかし、経営に貢献するような価値ある活動として推進するには、いくつかの壁がありそうです。その壁をうまく突破するためにも、どんな壁にぶつかる可能性があるのか、少し整理してみたいと思います。

■CS活動・サービス改革の1つ目の壁:活動開始の壁

1つ目の壁は、「活動をうまくスタートできない」というものです。

具体的には、下記のように活動をなかなかスタートできないことがあります。
・活動を始めようとメンバーで集まってみたものの、何から議論をしたら良いのやら見当がつかない。

・色々と議論はしてみたものの、話が発散してしまって、結論が出ないまま終わってしまった。

・目指すべきビジョンは掲げることができたが、それを実現するために具体的にどんなアクションを取るべきかかが分からない。

・周囲を巻き込もうとしたが、どうも納得してくれなくて活動が始められない。

この原因は様々だとは思いますが、CSやサービスに関する活動で特に大きな原因が2つありそうです。

■活動開始の壁にぶつかる原因その1:サービスに関する価値感のズレ

原因の1つ目は、活動のテーマである「サービス」や「顧客満足」に関する考え方が揃っていないことです。

例えば、サービス改革活動をする場合、そのベースとなる「サービスの定義」についてメンバー全員が共通認識を持った上で議論ができているでしょうか?CS向上活動も同じで、「顧客満足の定義」について尋ねられて、サラッと答えられるでしょうか?たかが言葉の定義ですが、こういった活動の原点がズレていると、話が一向に噛み合わずに議論が進まなくなってしまうということがよく見受けられます。共通の価値観で活動を進めるということは極めて重要なのですね。

ここでひとつ、サービスサイエンスでの言葉の定義をご紹介します。例えば、「サービスの定義」は次の通りです。

「人や構造物が発揮する機能で、お客様の事前期待に適合するものだけをサービスという」
(*事前期待に合っていない機能の発揮はサービスとは呼ばない。余計なお世話や無意味行為、迷惑行為と呼ばれてしまう。)

この定義をメンバーで共通認識していれば、「お客様の事前期待を掴まなければ、サービスを提供することすらできない。」という価値観の基に、より具体的で効果的な議論を進めることができるようになります。

このように、「サービス」「顧客満足・CS」「サービス品質」「ホスピタリティ」「おもてなし」など、取り上げるテーマの言葉の定義や価値観について共通認識を持って議論を進める必要があります。

■活動開始の壁にぶつかる原因その2:問題の全体像が見えない

2つ目は、問題の全体像が把握できていないことです。

「顧客満足度が低い」や「サービスの売上が向上しない」「顧客が増えない」などの問題構造は非常に複雑で、実に様々な部署や機能の問題が絡み合っていることがほとんどです。通常、サービスに関する問題には200個以上の原因が潜んでいることが多く、その全体像を明らかにすることは簡単ではありません。しかし、問題の全体像を把握せずに議論を進めてしまうと、メンバーごとに重要だと思っている問題点がバラバラで、どこから手を付けたら良いのかが決められません。また、日々の対応に追われている現場を活動に巻き込む際に、納得のいく説明ができずに協力を得られないということもあります。活動メンバー全員が問題の全体像をしっかりと理解した上で、活動を進めなければなりません。

しかしながら、問題の全体像を把握するのは簡単ではありません。「ブレインストーミング」や「なぜなぜ分析」では、問題の全体像を明らかにするまでには至らないことが少なくありません。そこで、サービスサイエンスでは問題の全体像を明らかにするために、少しロジカルな手法で1日〜2日間の問題分析セッションを行い、メンバー全員の問題意識を全て出し切る議論を行います。そうすることで、問題の全体像をメンバー全員で把握しながら、メンバー同士の理解も深めて士気を高めることができます。

*問題の全体像を把握するためのセッション技法については、別の機会に紹介させて頂きます。

このように、目に見えないサービスや顧客満足に関する活動を始める際には、特に次の2点「サービスや顧客満足に関する考え方(理論)」と「問題の全体像」を明確にしてメンバーで共通認識を持っておくことが極めて重要になりそうです。

さて次回は、「CS向上活動やサービス改革でぶつかる3つの壁(その2)」として、活動開始後にぶつかりそうな2つ目の壁について触れてみたいと思います。

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