縄文人のメッセージが聞こえるかも? 「万座環状列石」

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イギリスの、巨石がサークル状に並んだ「ストーンヘンジ」といえば、世界有数のパワースポット。日本からも多くの人が観光に訪れているが、実は日本にもそれによく似たものがあることは意外に知られていない。

それが秋田県鹿角市大湯にある「大湯環状列石(おおゆかんじょうれっせき)」。ストーンヘンジとほぼ同時期、今から4,000年ほど前に造られた縄文時代後期の遺跡である。

ちなみに環状列石とは石をサークル状に並べたもの。漢字で書くとなんとなく仰々しいが、英語なら「ストーンサークル」。同遺跡には2つの環状列石があり、それぞれ野中堂、万座と名前が付いている。

「ただ、石が並んでいるだけでしょ? 」と言われたら、まあ、その通りではあるのだが、古代人が何らかの意図をもって並べた石の集まりには、なんともいえない神秘的な雰囲気が漂う。すぐ近くには、日本版ピラミッドといわれる黒又山もあり、この一帯がパワースポットとして有名。現地に来るといろいろ感じる人も少なくないようだ。

残念ながら私自身はパワースポットで何か感じるたちではないが、全国に数ある縄文遺跡のなかでも、国の特別史跡にも指定されているものはここ「大湯環状列石」を含め3カ所しかない。それだけに純粋な遺跡観光に来るだけでも十分おもしろい。

まず、驚くのはその規模だ。2つの環状列石はそれぞれ直径が44mと52mと日本最大規模で、ぱっと見ただけではサークル状とはわからないほど。使われている石の数は合わせて7,200以上にものぼる。しかも、単純に石を置いているのではなく、2つ以上の石を組み合わせた配石遺構の集合体になっている点もユニーク。なかには「日時計状組み石」など凝った造りのものもある。

しかも、そこら辺の石を適当に並べたわけじゃない。なんと、遺跡から約6kmも離れた安久谷川からわざわざ運んできているのだという。それも石英閃緑ひん岩という、断面がヒスイのように神秘的な緑色に見える石ばかりを選ぶというこだわりぶりだ。

石英閃緑ひん岩は硬くて重いのが特徴。そのため遺跡に使われている石は最も大きいもので高さ約80cm程度だが、重さは平均30kg、最大で200kgもあり、完成までには200年以上を要したとされている。現在と違って寿命も短かったことを考えると、なんとも気が遠くなりそうな話!

いったい、なんのために作ったのか? 実は2つの環状列石の中心を結んだ線は、夏至の日没方向を指しており、カレンダー的な役割をしていたのではないかと考えられている。ちなみにイギリスのストーンヘンジも、中央の祭壇上の石が夏至の日の出方向に関係が深い。

史跡には展示施設「大湯ストーンサークル館」が隣接しており、環状列石の謎に迫る模型やパネルがずらり。同遺跡から出土した土器も展示されており、石英閃緑ひん岩の重さを実際に体感できるコーナーもある。

取材に訪れたのは12月だが、すでに雪が降っており、一部の石は雪に埋もれていたが、そこに遺跡があることは確認できた。もちろん遺跡そのものの見応えとしては雪解け後のほうがあるが、雪景色の中に点々と石が見え隠れする謎めいたムードを楽しむのもまた一興。雪国風情も満点だ。

同遺跡は現在、「北海道、北東北を中心とした縄文遺跡群」として世界遺産への登録を目指している。もし登録されれば世界各地から観光客もやってくるだろうから、知る人ぞ知るスポットである今が行き時かも。

すぐ近くには開湯800年を誇る大湯温泉郷もあり、遺跡のある鹿角市はきりたんぽ発祥の地でもある。雪見酒を楽しみながら名物のきりたんぽ鍋に舌鼓を打ち、縄文人のメッセージに思いを馳せる……。そんな冬の秋田旅はいかがだろうか。
(古屋江美子)