東日本大震災を伝える高校生・千葉拓人写真展『ツタエル』。2月8日から2月23日まで東京・神田遠野まごころネット東京事務所、2月26日から3月2日まで埼玉・川口 燦ぎゃらりーにて開催

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中学の卒業式に出席した後、友人と遊びにいったカラオケボックスの中で千葉拓人はその揺れに遭遇した。尋常ならざる事態に、店は代金を取ることなくすぐに避難を促した。程なく連絡のとれた友人の母親が迎えに来てくれたが、道路は激しく渋滞し、防災無線からは鬼気迫る男性の声が流れ続けていた。

その時見た光景を千葉は忘れない。石巻専修大学の脇を流れる旧北上川を、津波が巨大なドス黒い塊となり、様々なものを飲み込みながら逆流してきたのだ。遠くから地響きのような怒号が迫り来る中、音もなく降り続ける湿り気の多い大粒の雪が事態を非現実的なものに感じさせた。皮膚に立った鳥肌がいつまでも引かなかったのはもちろん刺すような寒さのためではなかった。

その時もしカメラを持っていたらシャッターを切ることができたと思いますか?3年近く経ち、高校3年生になった千葉に意地の悪い質問をぶつけてみた。

「絶対に激写ですね」

普段は高校生とは思えない程、理路整然と丁寧にこちらの質問に答える千葉が、間髪を入れずに即答した。

千葉が初めてカメラを触ったのは幼稚園のときだった。趣味人だった祖父が持っていたたくさんのカメラの一台で撮らせてもらったのだ。小学生になるとカメラへの興味は増し、祖父からライカの名機M4を譲り受ける。

小学校、中学校と学校の自由研究など、機会があるごとに写真を撮りどんどんのめり込んでいく。しかしいかんせんフィルムカメラ、フィルム代や現像代がかかるため写真を大量に撮ることはできなかった。

中学3年の12月になるとついに千葉は初めてのデジタルカメラ、キャノンEOS KISS X3を手に入れる。撮ったその場で確認することができ、好きなだけシャッターを切れることが楽しくて仕方がなかった。カメラのことも勉強し始め、フォトグラファーとして歩み出そうとしたその時、東日本大震災は日本を襲った。

震災発生時こそカメラを持っていなかったものの、二日後には住んでいるしらさぎ台の山の上から見下ろす石巻の風景をカメラに収めた。また四日後には避難所となっていた卒業した中学へボランティアとして支援に赴いたが、その時もカメラは持参した。当時撮影した写真には遺体や避難所で毛布にくるまっている人々などの力強い作品もあったが、今それらは一つも残っていない。

ある時、基礎だけが残された家の前で悲しみに打ちひしがれている親子にレンズを向けシャッターを切ったとき、背後から男性にこっぴどく怒鳴り散らされたのだ。

とにかく目の前の景色を撮らなければいけないんだ、と半ばハイな状態でシャッターを切り続けてきた千葉は冷水を浴びせられた思いだった。

「自分がこうして写真を撮ることに何の意味があるのだろう」

千葉は思い悩んだ。撮影対象に事前に許可を取るべきか否かは、プロのフォトグラファーでも判断を逡巡する難しい問題だ。そのテーゼは中学3年生が抱え込むには重すぎた。千葉は撮影した画像をすべて消去してしまう。

しばらく写真が撮れない時期が続いたが、ボランティアで知り合った男性に「間違ったことはしていないよ」と言われたとき、写真を残していく意味は大きいと言われたような気がした。千葉にフォトグラファーとしての覚悟が生まれた瞬間だった。撮影を再開した千葉は3年間で10万点以上の作品を撮りためる。

その千葉拓人の写真展『ツタエル』が東京と埼玉で開催される。10万点以上の作品の中から厳選された12点を展示する今回の写真展について千葉は語る。

「震災から1-2年後の作品を中心に選びました。実は震災直後の写真が一番多く撮ってあったのですが、町がメチャクチャになっている状態ではなく、少しずつでも日常を取り戻している石巻の今を伝えたくてそういうチョイスにしました」

選り抜かれた12点の写真には千葉自身が自らの言葉で作品に対する思いを綴ったキャプションが添えられている。静かながら雄弁に語りかけてける写真に18歳の青年のてらいのない前向きな言葉が乗り、観るものの中に被災地の日常の過去、現在、そして未来 が広がっていく。

『ツタエル』展は2月8日より2月23日まで東京・遠野まごころネット東京事務所、2月26日より3月2日まで埼玉・川口の燦ぎゃらりーで開催される。その他の地域での開催は要望に応じて随時検討している。また主催者では写真展開催のための寄付金も募っている。写真展の開催希望や寄付に関する問い合わせは、主催の一般社団法人キッズ・メディア・ステーションで受け付けている。

被災地の撮影の他にも、石巻日日こども新聞のカメラマン/記者として活動し、被災した若者たちへの人材育成プログラム・ビヨンドトゥモローの映像制作チームにも参加したり、スイス・ジュネーブで開催された第4回防災グローバルプラットフォームに宮城県の高校生を代表して出席するなど様々な形で発信を続ける千葉に今後の活動予定を聞いてみた。

「今、働く人の手を撮ることに魅力を感じています。撮りためていつか発表できたら嬉しいです。それから石巻は撮り続けます。10年後の石巻を撮った写真展も開催したいです」

憧れのフォトグラファーは巨匠・立木義浩と地元まつむら写真館の松村店主であるという高校生フォトグラファー千葉拓人は、期間中に会場で 見かけたら是非声をかけて欲しいという。

「写真展を機に被災地に少しでも興味を持ってくれたり、来てくれるきっかけになればこれほど嬉しいことはないです」
(文中敬称略)、
(鶴賀太郎)

一般社団法人キッズ・メディア・ステーション連絡先
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