できる人はなぜ「白シャツ」を選ぶのか Part.2/唐澤 理恵
2014年1月、あらゆる業界で新年会が開催されています。挨拶周りなどもあり、久々の人との再会も多いことでしょう。新年早々、記者会見を開く企業もあり、心身ともに引き締めなくてはいけない場面では、やはり白シャツを選ぶ人が多いようです。著書『できる人はなぜ「白シャツ」を選ぶのか』では“基本”のキーワードである「白シャツ」ですが、実際にはどのように着こなすと印象マネジメントとしてプラスになるのでしょうか。

仕事初めの先週。日枝神社、氷川神社、豊川稲荷などへ参拝するビジネスマンが大勢屯して闊歩する光景は、新年の赤坂界隈の名物といえます。 すれ違う多くのビジネスマンのシャツを観察すると、やはり白シャツが多く、とくに、遠目でも白色が映え、パリッとノリが効いた風合いを感じさせる白シャツは、新年用に新調したものと感じさせるほどでした。

新年早々、日立製作所の新社長記者発表がありました。新旧そろった会見で全員が白シャツでした。ドレスシャツの王道である白シャツは大切な、ここぞという日に選ばれるアイテムなのです。しかし、よく観ると、微妙に違う白シャツ。とくに目立つのはVゾーンの衿部分です。お一人は、レギュラーカラー(定番衿:カラーとは衿の意味)とよばれる衿羽開きが狭いもの。他のお二人は、セミワイドスプレッドカラー、もしくはワイドスプレッドカラーとよばれる衿羽開きがレギュラーよりも広いタイプでした。テレビでは、生地まではわかりませんでしたが、対話ができる距離に近づけば、三者三様の素材であったに違いありません。

このように単に白シャツといえども衿の形だけとっても10数種あり、ほかにも素材、袖口、ラインなどそれぞれに違いがあり、とても奥が深いものです。おしゃれにとことんこだわる紳士であれば、凝れば凝るほど究極までつきつめてしまうアイテムといえます。

テレビでもぱっと見てすぐにわかる衿の形は、Vゾーンの印象を決めることでは最重要部分です。先の記者会見の企業トップの方々もテーラーや店員のアドバイスに従って、あるいはご自分の好みで選択しているのでしょう。衿の形は10数種類といってもビジネスで使うタイプは、大きくは3つ。レギュラーカラー、セミワイドスプレッドカラー、ワイドスプレッドカラーです。レギュラーカラーの衿羽の長さの違いによる種類もありますが、開きでいえばレギュラーカラーのひとつです。レギュラーカラーよりも衿羽の部分の長さが長いのがロングポイントカラーといわれるもので、ビジネスでも着用されます。

どちらにしても、衿の違いは、衿羽開きの角度による違いが大きく、見た目の印象に影響を与えます。

つまり、ネクタイの結び目にあたる部分の衿の開き具合。レギュラーカラーは75〜90度、セミワイドは100度以上、ワイドは100〜120度、広いものでは180度のものがありますが、これをホライゾンカラーともいいます。

レギュラーカラーは角度が狭く、衿羽も衿台も他よりも短いものですが、レギュラーというだけに、その時代の定番です。そのため、時代によってレギュラーの形は若干変わっていくのですが、75〜90度の範囲での変化です。

戦後のサラリーマンが着用してきたYシャツは、多くはこのレギュラーカラーです。ジャケットを選ばず、どんな着こなしにも無理なく合います。そのため、奇をてらわず無難な装いといえますが、最近のビジネスカジュアルな装いにおいては、面白みのない代名詞ともいえるカラー(衿)かもしれません。そのため、よほどの洒落者で無い限り、洗練されたファッションという印象を醸し出すことは難しいアイテムです。

ここ数年、ぐっと人気が高まっているワイドカラーは衿の開きが大きな分、シャツの身頃やネクタイの柄を主張するため、個性的な演出を好む人には最適といえます。1920〜40年代のファッションに多大な影響を与えた英国ウィンザー公が好んで着用したことからウィンザーカラーとも呼ばれています。どちらかといえば、肩幅のあるがっちりした体型によく似合うとされ、タイは結び目が横に広がるウィンザーノットで柄を多めに見せることで、このシャツの個性が活きてきます。英国的な装いにぴったりとされるカラーですが、イタリアンスーツにも併せる人が多く、非常に軽やかで、オープンマインドな印象を醸し出してくれます。

ワイドカラーとレギュラーカラーの中間であるセミワイドカラーは、もっとも使いやすいタイプといえます。イングリッシュスプレッドカラーとも呼ばれ、もっとも英国的なスタイルのシャツとされています。衿の開きが中間であるため、オーソドックスなブリティッシュスタイルの着こなしに合うとされます。街を歩く20代〜30代の若手のビジネスマンに多くみられるカラータイプではないでしょうか。

このように、カラー(衿)タイプそれぞれに印象はありますが、決してシャツ単体で成立するものではありません。スーツやネクタイ、さらには着用する本人とのバランスで印象は決まります。

例えば、スーツジャケットの2つボタンか3つボタンかによって印象があります。2つボタンはVゾーンが縦に長く面積が広くなります。ウエスト位置が低くなるため貫禄のある落ち着いた印象です。一方、3つボタンは縦が短く、面積が狭くなります。ウエスト位置が高くなるため、若若しい軽快な印象を醸し出します。

2つボタンジャケットに合わせる場合、ワイドカラーではシャツの身頃部分の面積がより広くなるため、間が抜けた印象になってしまいます。2つボタンには、セミワイドかレギュラーがよいでしょう。背が高い男性であれば、さきほどのロングポイントカラーもお薦めします。より縦に長い印象を醸し出し、すっきりと洗練された印象を醸し出してくれます。やはり、この場合、ネクタイは若干細めのタイプを選び、ノットもプレーンノットで結び目をすっきりと仕上げてあげるとよいでしょう。どちらにしても、レギュラーカラーに合わせるタイの結び目は比較的小さめにします。

3つボタンの場合は、Vゾーンの面積が狭いので、そこをすっきりと見せるためにも、ワイドかセミワイドで身頃部分をなるべく見せる工夫が必要です。本来が若々しい印象の3つボタンですから、シャツの衿も開放感のあるワイドにすることで印象の整合性がとれるというわけです。ネクタイの結び目はダブルノットかウインザー・ノットで大きめにすることで衿の開きにほどよく合うバランスをつくります。ただし、背が低めで華奢な男性があまりに大きな結び目をつくってしまうと、七五三の子どものような未熟な印象になりがちですので、注意しましょう。

そして、何よりも主役である着用する人の顔型や体型を無視してはいけません。顔が横に大きく、顎が張り、恰幅のよい男性にレギュラーカラーでは、衿がやけに小さく見えてしまい、貧相な雰囲気をつくりかねません。衿羽が大きく、衿台も高い、ワイドかセミワイドをお薦めします。

とにもかくにも、装いというのはそれぞれのアイテムが調和しながら全体の印象をつくっています。著書にも書きましたが、仕事と同じように、ビジネスマンの個々に能力や個性がありますが、その構成員が調和してこそグループとしての成果が決まります。ひとりだけが浮いてしまっては本来の目的を達成することは難しくなります。服装もそれぞれに個性があり役割があります。それらが調和してこそ印象マネジメントとしての結果がでるというわけです。

先程の記者会見の話しに戻りますが、同じ白シャツでもテレビで観ていてわかってしまうのが衿の形。ところが、素材感というのはテレビではわかりません。対話をするぐらいの距離に近づいてこそわかるものです。ところが、ビジネスシーンでもっとも多いコミュニケーションは対話する距離です。そんな何気ないコミュニケーションであなたのブランドイメージが日々決まっていきます。とくに、ジャケットを脱いだ状態で接する時空間ではよりシャツの素材感の影響度は高まります。女性というのは男性よりも細かい部分をチェックしています。視覚、触覚で本能的にいろいろなことを感じ取ります。つまり、素材感を無視して印象マネジメントは語れないのです。

大学で繊維化学を専攻した私にとっては、素材の話しになるとあの実験室の日々を思い出し、頭がくらくらしてくるほど。それは、衿の種類どころではないからです。

ただし、実際に相手に与える印象に言及すれば、白シャツのポイントは生地を構成する糸とその織り方だけといえるでしょう。

さて、糸について若干触れておきます。糸そのものの素材にはコットンや麻、シルクといった自然素材のほか、ナイロン、ポリエステルなどの化学繊維があり、それらを混ぜたものを合成繊維といいます。乾きが速いとか丈夫であるなどといった機能については触れませんが、こういった素材でできている糸そのものの太さが印象に影響します。

番手という単位がそれです。数字が多ければ多いほど糸そのものが細くなるため、1体積あたりの重量が軽くなります。私が著書で主張した最高級なドレッシーシャツ生地とされるロイヤルオックスフォードは100番手程度です。つまり、とても軽い生地をつくってくれます。着心地、触り心地だけでなく、見た目にもさらっとした高級感があります。

さらに織り方です。さきほどのオックスフォードとは通気性の良い夏向きの生地でボタンダウンシャツなどに使われる織りです。柔らかく美しい光沢があり、ふっくらした風合いがあり、シワも付きにくく、しかも丈夫なので、スポーツウェアーにも用いられています。著書に対する疑問点として、どなたかがサイトで指摘してくださったようにオックスフォードそのものはどちらかといえばカジュアル向きですが、昨今のクールビズではもてはやされている生地のひとつでもあります。その中で番手の大きなロイヤルオックスフォードは、あのロロピアーナでも定番シャツとして数万円で売られているシャツ生地です。

高度経済成長時代には、とくに丈夫さ、乾きやすさの点で化学繊維や合成繊維がもてはやされ、なんとなくペラペラで堅い触感のYシャツが主流でした。しかも、会社に泊まり込む毎日を耐えてきた生地は黄ばんだ印象となり、働き蜂のキーワードともいえる白シャツです。

しかし、原点回帰時代ともいえる今、原点である白シャツを見直せば、個性を演出するにも、きちんとした自分を相手に主張するためにも、相手への敬意を表すためにも、あらゆる場面で活用度の高い白シャツなのです。

食でいえば、最近世界無形遺産となった「和食」と似ています。何気ないシンプルな料理だからこそ、素材、ダシ、もりつけ、食する空間で、大きく結果が変わります。奇をてらわず、基本を押さえて、飾り過ぎず、本来の素材を活かす。良くも悪くも「どう向き合うか」が問われます。 まさに、白シャツも、どう向き合うかで印象に大きく差がつくアイテムだからこそ、それぞれの印象管理の懐刀として大切に活用していただきたいと願ってやみません。

※ちなみに、シャツについてもっと詳しく知りたい方、こちらの山喜のシャツ百科がとても勉強になります。ぜひご覧ください。 http://www.e-yamaki.co.jp/yamaki/shirts/top3_history.html