2014年、F1はいよいよ大変革の年を迎える。

「60年続くF1の歴史上、最大の変化のひとつ」とパドックで囁かれるほど、2014年のF1はドラスティックに変わる。マシンもドライバーもレースも、すべてが大きく変わろうとしている。まさに予測不可能だ。

 その最大の理由は、パワーユニットの変化によるものだ。

 エンジンは2.4リッターV8から1.6リッターV6に小型化される。そこにターボチャージャーが追加され、さらにはブレーキやターボ熱から発電するハイブリッドシステムも導入される。マシン後半部分に搭載されるパワーユニットが、単なるエンジンではなくなり、エンジンとターボと電気を絡めた極めて複雑なシステムへと変わるのだ。「未だかつて、こんなに複雑なシステムでレースが行なわれたことはない」とあるエンジン関係者は語る。

 これによってF1マシン全体が変わる。

 マシン後方のパッケージングが難しくなり、新たに導入される空力規制と合わせて、マシンの空力性能は低下を余儀なくされる。空気でマシンを地面に押さえつける力は減り、マシンの挙動は不安定になるのだ。

 さらにターボエンジンとなることで、トータルの馬力は変わらなくても(ハイブリッドと合わせて約750馬力)、低回転域のトルクが増大。加速時に駆動輪のリアを押さえつけるのが大変になる。

 それに合わせてタイヤも硬くなり、グリップレベルはさらに低下する。

 当然、ドライビングも変わることになる。

 F1ドライバーたちはすでに昨年から、マシン挙動を忠実に再現したシミュレーターでその新しいドライビングへの適応を進めてきている。

「クルマはダウンフォースが減り、タイヤは硬くなる。その一方でトルクは太くなる。2014年のクルマはこれまでとはかなり違ったものになるし、路面にパワーをうまく伝えるのは大変だろう。ドライビングミスも犯しやすくなる。コース上では面白いバトルが展開されることになるはずだ」

 F1界でも随一の正確性を誇るマクラーレンのシミュレーターで2014年型マシンをいち早く体験したジェンソン・バトンは、そのフィーリングをこう説明している。

「最初はかなりリアが不安定で、高速コーナーではかなりスロットルを戻さなければならなかった。常にパワーをフルにかけることはできないし、スロットルを踏むのを待っているような感じだ。今はダウンフォースがあるからコーナーで多少はみ出しても姿勢を大きく崩すことはないけど、2014年型マシンはトルクがすごいから簡単にリアのコントロールを失うことになる」

 ドライバーたちが感じるマシンのフィーリングは、これまでとはまったく異なるものだったようだ。しかし、常に進歩を続けるのがF1という世界。「刻々と改良が進められている」とフェラーリのフェルナンド・アロンソは語る。

「初めてドライブしたのは2013年9月だったと思うけど、その時は2013年のマシンとはフィーリングがまったく異なっていたし、ドライブするのはとても難しかった。でも、シミュレーターをドライブするたびに別のマシンのように感じるくらい、どんどん進歩しているんだ。今ではかなり2013年のマシンに近づいてきている。オーストラリアで開幕戦(3月)を迎える頃には今よりもさらに進化しているはずだ」

 アロンソは、マシンはまだまだ進化しドライビングも変わっていくだろうと言う。ただ、それよりも重要なのは、「新しいパワーユニットをいかに使うか」だと見ている。

「2014年型マシンでどのようなドライビングスタイルが求められるか、それはまだなんとも言えない。それだけじゃなく、エンジンをどう使うかといったさまざまな決断がレース中にドライバーに求められるようになる。そっちの方が大きな変化かもしれないね」

 昨年までのKERS(運動エネルギー回生システム)は、80馬力のブーストを1周につき6.7秒しか使用できなかった。しかし2014年からは160馬力のブーストを33秒使用できるようになる。だからこそ、これを最大限有効に使うことが重要になるのだ。

 また、決勝で使用できる燃料が100kg(約140リットル)に制限される。従来の約35%減となるこの燃料量では、これまでとおりの走りをしていたのではガス欠になってしまう。燃費性能に優れたエンジンを開発するだけでなく、レースでの燃料の使い方も考えなければならない。つまり、状況に応じて燃費を抑えるのもレース戦略の一部となるのだ。

 フェラーリのエンジニアリングディレクター、パット・フライは次のようにその重要性を説明する。

「全開で走る時と燃費マネジメントを要求される時とでは、同じマシンでも1周あたり1秒以上の違いが生じてくるだろう。いつ全開で走り、いつ燃費をセーブするのか、これまで以上にレース戦略が重要になる。マシンパフォーマンスを最大限に引き出し最大限の結果につなげるためには、これまで以上にチーム全体が一体となって働き、レースを組み立てていかなければならなくなるだろう」

 マシンの熟成だけでなく、実戦に向けた"使い方"の準備も必要になる。3月のシーズン開幕までに許される公式テストはたった3回・計12日間のみであり、その短い間にデータを蓄積し分析を進めなければならない。コース上の実走テストだけではなく、シミュレーターも最大限に活用した準備は実車が完成する前からすでに着々と進められ、どのチームもこれまでになく忙しいオフを過ごしているのだ。

「マシンはまったく新しいテクノロジーに満ちたものになるし、僕らドライバーもシミュレーターでかなりの時間を費やすことになる。まだトルクやドライバビリティなどエンジンがどんなものになるのか正確に分からない段階では、テストでの作業もはっきりとは見えてこないし、想定外の事態が起きた時のためにバックアッププランも用意しておかなければならないだろう。クエスチョンマークがたくさんある。それもチャレンジングだね」(ニコ・ロズベルグ/メルセデスAMG)

 そんな中で作り上げられる2014年のマシンは、まさに白紙からのデザイン。

 2009年から5年間にわたって大きな技術規定変更がない中で、レッドブルが突出したスピードを築き上げ、F1界の勢力図は硬直状態に陥っていた。しかし2014年は違う。新規定にいち早く適応し、正解を見つけたチームが上位進出を果たすはずだ。

 もちろん資金力に勝る4強チーム(レッドブル、フェラーリ、メルセデスAMG、マクラーレン)が有利であることに変わりはないが、中団チームとて資金力の差を頭脳と努力でひっくり返すチャンスはある。それが大変革のシーズンというものだ。技術規定が大きく変わった2009年にそれまで中団チームだったレッドブルが一気にトップチームへと変貌を遂げたように、勢力図が大きく塗り変わる可能性は大いにある。

 ドライバーラインナップも大きく動き、メルセデスAMG以外は全て新しいチームメイトとのコンビで再出発を切ることになる。そこから生まれる新しいライバル意識やバトル、そして新たな才能の出現にも期待したい。今季から各ドライバーが自分の好きなカーナンバーを付けて走ることになり、よりいっそうドライバーたちの個性も見えてくるはずだ。

 日本のファンとしては、その新しいF1で日本人ドライバーの活躍も見たいところだ。

 小林可夢偉はザウバーやウイリアムズとの交渉が実を結ばなかったものの、残るケータハムの空席を狙って交渉を続けている。持参金の額がものを言う今のF1だけに、レースシート獲得は容易なことではないだろうが、金曜フリー走行の枠が拡大されることもあるため、仮にレースシートが得られなくとも可夢偉や佐藤公哉らの走りをグランプリサーキットで見ることはできるかもしれない。新たな時代へ突入するF1の世界に、その一員としてサーキットに存在することが何よりも重要なのだ。

 10月には、ソチ五輪の会場跡地を舞台にロシアGPも初開催されるなど、2014年は新しいF1の姿を目撃することになるだろう。昨年末にスキー事故で重傷を負ったミハエル・シューマッハの1日も早い回復を祈りつつ、まずは1月28日、南欧ヘレス(スペイン)の初公式テストで新世代のニューマシンたちがどんなエキゾーストノートを響かせるのか、楽しみに待ちたい。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki