対照的な「対等合併」ケースにみる経営戦略(後編)/日沖 博道
今年は日本企業が絡む、注目すべき2つの国際的合併ケースが発表された。東京エレクトロンと米アプライドマテリアルズ、森精機と独ギルデマイスターだ。そのアプローチは対照的だが、どちらも「対等合併」を目指し、関係者が熟慮したことが窺われる。後者の組み合わせにおいては、特にその慎重さに注目したい。
☆対照的な「対等合併」ケースにみる経営戦略(前編)の続き
大手工作機械メーカー、森精機がギルデマイスター(ドイツ)と経営統合することを今年4月に発表した(実は3月の時点では森精機は「合併の計画はない」と公言していた)。年間売上高で42百億円の世界最大手の誕生である。8月には互いの株式の追加取得を進め、10月には森精機は「DMG森精機」に、ギルデマイスターは「DMG MORISEIKI」に、それぞれ社名を変更した(英語表記はほぼ同じ)。ブランド名も統一する。そして両社の経営統合は2020年の合併で仕上がりを迎える。随分遠大な経営統合劇である。
国際的な経営統合をしようと発表したケースでは、株主や組合、母体国の監督官庁に対し「この経営統合にはこれこれの大きなメリットがある」と説明し、合併に伴うコストやリスクを大きく上回ることを納得させる必要がある。実際、先に解説した東京エレクトロン−アプライドマテリアルズのケースと同様の利点の多くを、この森精機−ギルデマイスターの経営統合も内包している。では、そんなにメリットがあるのなら、なぜ急いで実現しないのか?
その理由はズバリ、「国際合併に伴うリスクの最小化」である。日本企業同士でさえ、文化の異なる企業の経営統合には軋轢が絶えない。2010年のキリンとサントリーの、最近では川崎重工業と三井造船の経営統合構想の破談は記憶に新しい。事実、森精機自身も2002年に日立精機を買収して、苦労を重ねてきたそうである。ましてや大企業同士の国際合併では、近年のダイムラー・クライスラーのように強烈な失敗事例の記憶が生々しい。言葉の壁があり、それはコミュニケーションによる互いの理解促進を阻害しやすい。この懸念を克服し、互いの理解を深めるためのアプローチが、これから6〜7年を掛ける経営統合プロセスという答である。
実は両社の資本・業務提携は2009年の3月に始まっている。その提携発表後、両社はまず互いの株式を数%ずつ取得し、タイやインドネシアなどで販売・サービスの共同化を始めた。そして両社の社長が互いの経営陣に入った。翌2010年には豪州・米国・インドなどで共同販売・サービスを展開。2011年にはアフリカとメキシコ、そしてギルデのお膝元、ドイツでも開始。2012年には欧州全域での共同販売・サービスに拡大した。そして今年4月、とうとう合併を決めたのである。両社は、今年9月のドイツでの見本市では共通部品を使った旋盤などを展示しており、既に共同調達という果実の取り入れが相当程度進んでいることを示唆している。
さらにこの9月に森精機のギルデ株保有比率が24.9%を超えることになったので、欧州の独占禁止法で両社は競争関係にあるとみなされなくなり、経営などに関する情報共有の制限が取り除かれた。これで共同開発や製品ラインの統合が本格的に進むだろう。さらに、ほぼ毎月開かれる共同経営協議会という場で、役員間で情報共有を行う方針だという。
いわば婚約、同棲と進んできた両社は、このあと事実婚を6〜7年ほど続けてから籍を入れると宣言したようなものなのだ。つまり段々深い付き合いをしてみて大きな違和感がないことを確かめながら、抜き差しならない関係になることを互いに納得できるよう、実に慎重にプロセスを重ねているのである。この6〜7年の「事実婚」の間によほど深刻な「性格の不一致」が見つからない限り、この長期にわたる統合プロセスが破たんする可能性は低いだろう。
半年で結論を出して統合プロセスを急ぐ東京エレクトロン−アプライドマテリアルズのケースに比べ、この森精機−ギルデマイスターの場合、経営統合の判断だけでなく統合プロセス自体に極端に長い時間を掛けることには賛否両論があろう。しかしこれはどちらが正しいとか間違っているとかいう話ではない。それぞれの経営者が個別事情を踏まえて熟慮し判断していることは、色々な情報から察することができる。周りはこの2組のカップルを温かく祝福してあげたいものだ。
☆対照的な「対等合併」ケースにみる経営戦略(前編)の続き
大手工作機械メーカー、森精機がギルデマイスター(ドイツ)と経営統合することを今年4月に発表した(実は3月の時点では森精機は「合併の計画はない」と公言していた)。年間売上高で42百億円の世界最大手の誕生である。8月には互いの株式の追加取得を進め、10月には森精機は「DMG森精機」に、ギルデマイスターは「DMG MORISEIKI」に、それぞれ社名を変更した(英語表記はほぼ同じ)。ブランド名も統一する。そして両社の経営統合は2020年の合併で仕上がりを迎える。随分遠大な経営統合劇である。
その理由はズバリ、「国際合併に伴うリスクの最小化」である。日本企業同士でさえ、文化の異なる企業の経営統合には軋轢が絶えない。2010年のキリンとサントリーの、最近では川崎重工業と三井造船の経営統合構想の破談は記憶に新しい。事実、森精機自身も2002年に日立精機を買収して、苦労を重ねてきたそうである。ましてや大企業同士の国際合併では、近年のダイムラー・クライスラーのように強烈な失敗事例の記憶が生々しい。言葉の壁があり、それはコミュニケーションによる互いの理解促進を阻害しやすい。この懸念を克服し、互いの理解を深めるためのアプローチが、これから6〜7年を掛ける経営統合プロセスという答である。
実は両社の資本・業務提携は2009年の3月に始まっている。その提携発表後、両社はまず互いの株式を数%ずつ取得し、タイやインドネシアなどで販売・サービスの共同化を始めた。そして両社の社長が互いの経営陣に入った。翌2010年には豪州・米国・インドなどで共同販売・サービスを展開。2011年にはアフリカとメキシコ、そしてギルデのお膝元、ドイツでも開始。2012年には欧州全域での共同販売・サービスに拡大した。そして今年4月、とうとう合併を決めたのである。両社は、今年9月のドイツでの見本市では共通部品を使った旋盤などを展示しており、既に共同調達という果実の取り入れが相当程度進んでいることを示唆している。
さらにこの9月に森精機のギルデ株保有比率が24.9%を超えることになったので、欧州の独占禁止法で両社は競争関係にあるとみなされなくなり、経営などに関する情報共有の制限が取り除かれた。これで共同開発や製品ラインの統合が本格的に進むだろう。さらに、ほぼ毎月開かれる共同経営協議会という場で、役員間で情報共有を行う方針だという。
いわば婚約、同棲と進んできた両社は、このあと事実婚を6〜7年ほど続けてから籍を入れると宣言したようなものなのだ。つまり段々深い付き合いをしてみて大きな違和感がないことを確かめながら、抜き差しならない関係になることを互いに納得できるよう、実に慎重にプロセスを重ねているのである。この6〜7年の「事実婚」の間によほど深刻な「性格の不一致」が見つからない限り、この長期にわたる統合プロセスが破たんする可能性は低いだろう。
半年で結論を出して統合プロセスを急ぐ東京エレクトロン−アプライドマテリアルズのケースに比べ、この森精機−ギルデマイスターの場合、経営統合の判断だけでなく統合プロセス自体に極端に長い時間を掛けることには賛否両論があろう。しかしこれはどちらが正しいとか間違っているとかいう話ではない。それぞれの経営者が個別事情を踏まえて熟慮し判断していることは、色々な情報から察することができる。周りはこの2組のカップルを温かく祝福してあげたいものだ。