【新車のツボ66】ルーテシア・ルノースポール 試乗レポート
ルーテシア・ルノースポール(以下ルーテシアRS)は、小型実用車ルーテシアに、スポーツ系の仕事を請け負うルノー直系組織"ルノースポール"が手を加えたクルマだ。最新設計の1.6リッター直噴ターボは200馬力で、このクラスの量産市販車としては間違いなく世界最速級の1台。今回取り上げるルーテシアRSはこの秋に日本発売された最新型で、4代目ルーテシアをベースとする。
まったくもっての個人情報で恐縮だが、なにを隠そう、ワタシの現在の自家用車は、このクルマの先代にあたる3代目ベースのルーテシアRSである。その先代ルーテシアRSは、2.0リッターノンターボを7500rpmまでブチ回しての202馬力、変速機はマニュアル、フロントサスペンションは基本設計までノーマルと別物専用品でガッチガチ......と、まあ、見事なまでにアナログで古典的な内容だった。
しかし、この新型ルーテシアRSは、エンジンからして排気量ダウンサイズ+ターボ化しての性能アップ(馬力こそ新旧でほぼ同等だが、トルクは大幅向上!)。変速機はハイテク"ツインクラッチ"オートマ。さらには手元のボタンで"エンジンレスポンス、シフトチェンジ速度、パワステの手応え"が、走行シーンに応じて3モード切り替え可能......と、デジタルっぽいというか、いかにも"今が旬!"ってな内容に変貌。サスペンションも先代とは違って、基本形式はノーマルのままに"しなやか、かつコシもある"という大人っぽいテイストの仕上がりである。
......といったもろもろの理由から、新型ルーテシアRSは全身で暑苦しく武闘派だったオーラの先代から一転、乗り心地は夢のように快適になったし、エンジンもすこぶる静かだし、いちいちズシッと重いクラッチペダルを踏む必要もない。コーナーでも腕っぷしでネジふせ系だった先代とは対照的に、さわやかにコツいらずでシレッと速い。というわけで、新型ルーテシアRSを短時間試乗するだけだと、マニア的なツボの刺激は、ゴリゴリでバッキバキのハード整体から癒し系マッサージになっちゃった......みたいな物足りなさを感じてしまったりもする。
しかし、前記のモード切り替えを最も過激な"レース"すると、コイツはやっぱりルーテシアRSである。ルーテシアRSは歴代すべてが、専門家やマニアの間で「その時代で最高・最速の小型スポーツ」の評価をわがものにしてきており、その味つけはもはや伝統の老舗(しにせ)の雰囲気すら漂わせている。
レースモードにすると、エンジン反応もパドル操作によるシフトチェンジも最速&最激になり、横滑り防止装置も完全オフになる。そして、それ相応の舞台(たとえば箱根みたいなアップダウンや大小コーナーが連続する山道)にいって、しかるべき走りをすると、んもうワタシを含むRS=ルノースポール信者は辛抱たまらない。エクスタシーである。
ルノーには基本的に前輪駆動(FF)しかないので、RSもすべてFFである。
とにかく後輪を地面に根が生えたように安定させて、そのうえで前輪を機敏かつ強力に反応させる......というのが、一般的なFFの教科書には書かれている。しかし、RSに伝わる教典の内容はちょっとちがう。四輪もろとも曲がるのがRS流儀。コーナー途中の微妙なアクセルやブレーキ操作で、後輪の軌跡を手足のように操れるのがいい。
FFでここまで自由にクルクル曲げられるクルマは世界でRSだけである。あまりに自由なので、チョーシに乗りすぎるとハーフスピンさせるのも朝飯前(!)だが、それは「限界が低い」とか「神経質で危ない」という意味ではない。ルーテシアRSの絶対限界はすこぶる高いし、ハーフスピンさせるには乗り手も断固としてそのための運転をしないとそうはならない。ただ、そうしようと思ってやったときの"やりやすさ"が素晴らしく、その微妙な角度までピタリとコントロールできる。自己責任でクルマ遊びをするのに、こんなに楽しいFFはほかにない。
現在のフランスのルノーは資本や技術の細かいところまで、日本の日産とガッチリと強固な協調関係で結ばれている。このルーテシアRSのエンジンも、じつは前回紹介した日産ジュークニスモと基本的に共通(しかも日産の横浜工場製)。また、この種のモノとしては世界一使いやすい大型の変速パドルも、あの日産GT-Rから移植されたものなのだ。われわれ日本のクルマ好きにとっては、そういうルーテシアRSにまつわる小さなウンチクもまた、たまらないツボである。
佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune