指定暴力団のフロント企業はこんなにある

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■見た目は怖いが強くはない

営業が意気揚々と新規の取引先を開拓してきた。ところが、その会社が暴力団のフロント企業だったらどうするか。いま最も神経を使わなければならない問題である。

なぜなら、2011年10月に東京都などが施行したことで全国を網羅することになった暴力団排除条例によれば、指定暴力団と関係する企業や個人にモノやサービスを提供したら、それだけでも「利益供与」とみなされ、場合によっては社名公表の対象とされる。そうなれば、自治体関係の仕事からは完全に干されるし、大手企業との契約も危うくなる。フロント企業と付き合いができてしまったら、なるべく早期に関係を切ることが必要なのだ。

まず着手すべきは、調査会社などを通じて相手が何者なのかを知り、そのことを担当者が頭に叩き込んでおくことだ。

ポイントの1つは「相手の所在地の性格」である。盛り場かどうか、その地域はどの暴力団のテリトリーか、付近に警察施設はあるか、といったことである。

また「何次団体であるか」も大事である。山口組などの指定暴力団(1次団体)からみて、その構成員が代表者をつとめる組を2次団体と呼び、以下3次、4次と続き、5次団体くらいまで確認されている。これがわかれば、相手の「実力」の見当がつく。

「政治結社を有しているかどうか」も有用な情報だ。話し合いがこじれた場合、街宣車などで押し掛けられる可能性があるからだ。

次は具体的な対抗手段である。要するに警察の力を借りるのだが、窓口になるのは、所轄警察署の生活安全課防犯係。ここが事件性の有無を判断し、暴力団対策の知恵を授けてくれる。

相手との会合が必要になる場合もあるだろう。ここには弁護士と警察OBを同席させたい。それだけで「御しやすい会社ではない」と印象づけることができるからだ。

相手はなにかにつけて飲食の機会を持とうとする。そのときは、絶対に相手に支払いをさせてはならない。借りをつくることになるからだ。店はこちらの指定したところとし、予め支払いを済ませるよう図らっておく。

警察と親しくなれば、次のような裏ワザを使うこともできる。相手が訪問する時間を狙って、所轄署の制服警官に来てもらうのだ。たとえば社有車のナンバーを変更したなどの理由で、事務手続きのための「巡回連絡」を要請する。いわば暴力団への威圧行為だ。

そうこうするうち、相手は態度を豹変させる場合がある。「こちらは穏やかに取引の話をしているのに、どういうつもりだ!」と凄んできたら、担当者の身辺が危うくなる。すみやかに異動させ、後任者が対応するようにしたい。

相手はさまざまな嫌がらせを用意している。たとえば企業の担当者を尾行し、信号で立ち止まった瞬間、「うちには命知らずの兵隊がいるからな」と耳元でささやく。そういうとき、ICレコーダーを取り出して録音するそぶりを見せると、相手のほうが逃げ出すだろう。録音していれば脅迫罪の証拠になるからだ。

見かけは怖いが、個人としては決して強くはないのが暴力団だ。彼らは基本的に労働をせず、怠惰に暮らしているからだ。また覚醒剤など薬物に染まっている場合もあり、日々鍛錬を重ねている警察官と比べれば体力・気力は雲泥の差だ。そのことを頭に入れ、多少のことでは驚かない胆力を養っておく必要もあるだろう。

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作家・元警視庁刑事 
北芝 健
東京都生まれ。早稲田大学卒業後、会社勤務を経て警視庁へ。近著に『刑事捜査バイブル』(共著、双葉社)。

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(作家・元警視庁刑事 北芝 健 構成=鈴木優子 撮影=的野弘路)