メディカル・デザインの現在、近未来、遠未来(2)【テレスコープマガジン】
医療における現場で、医師や科学者、エンジニアとともに、近年では重要な役割を担うのがデザイナーだ。医療器具の形状や色をデザインするだけではなく、その職能はテクノロジーとともに深化して、全体的なシステムを描く存在としての期待が高まっている。いくつかの事例を見ながら、これからの"医療のかたち"をデザインの世界から考察していこう。
■システム全体や空間そのものをデザイン
医療機器単体のデザインではなく、これからはトータルなシステムをデザイナーが考える時代になるという。今年度のグッドデザイン賞を受賞した医療分野の製品にも、その傾向は顕著にある。
写真:上:東和薬品の医薬品「RACTAB技術:高い錠剤硬度と速やかな口腔内での崩壊性を両立させた口腔内崩壊錠の製造技術」、下:川澄化学工業の胸部大動脈用ステントグラフト「カワスミNajuta胸部ステントグラフトシステム」
表面的なものだけでなく、仕組みそのものが実際的にどうなのか。その検証と議論のため、審査委員にはシステムの研究者なども加わっているという。
一方で、超精密なハイテクをアピールするのではなく、患者側に寄り添ったデザインが求められるのも、近年の特徴だ。
「受診者や受検者が受ける心理的威圧感を、デザインがどれほど軽減したか。あるいは、安心感をもって検査を受けられ、不安感を和らげる優しいデザインになっているか。従来の色や形のデザインはこうしたところで有効です。機能だけではなく、心や気持ちの問題といった、心理の部分にもデザインの分野が広がっていると言えるでしょう」
例えば、日立製作所がデザインを手がける、日立メディコの診断装置のシリーズは、暖色系のカラーリング「スマイルイエロー」を使用。被検者を心理的に安定させるほか、検査を容易にするメリットをもたらしている。
写真:日立メディコの汎用超音波画像診断装置「デジタル超音波診断装置 HI VISION Preirus」
また、昨年度のグッドデザイン金賞を受賞した、東芝の重粒子線照射システムを配した粒子線治療施設では、「重厚な機構を感じさせない数々の配慮あるデザイン」が評価され、治療室環境のほか、廊下やロビー、外観もデザイン対象となった。
写真:放射線医学総合研究所の粒子線治療施設「新治療研究棟」
このような「機能と環境の調和」をより高次元で実現させるデザインの一例が、まもなく神戸で実現しようとしている。
(つづく)
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記事提供:テレスコープマガジン