メディカル・デザインの現在、近未来、遠未来(1)【テレスコープマガジン】
医療における現場で、医師や科学者、エンジニアとともに、近年では重要な役割を担うのがデザイナーだ。医療器具の形状や色をデザインするだけではなく、その職能はテクノロジーとともに深化して、全体的なシステムを描く存在としての期待が高まっている。いくつかの事例を見ながら、これからの"医療のかたち"をデザインの世界から考察していこう。
■最先端の技術が投入される医療機器分野
日本製品の産業振興を図るために、1957年に旧通産省(現経産省)が創設したデザイン評価・推奨の制度が、グッドデザイン賞である。日の丸に白い「G」の字が抜かれた、通称「Gマーク」を誰もが目にしたことがあるだろう。現在は公益財団法人日本デザイン振興会の主催により、毎年およそ70名のデザイナー、建築家、研究者らが審査に当たっている。
毎年、およそ3,000件という応募対象は、分野ごとのユニットで審査される。医療機器も独立したデザイン分野の1つ。2012年度に応募された医療器具は「公共領域」のうち、「医療・研究機器のデザイン」ユニットで審査が行われた。
審査のリーダーを務めたインダストリアルデザイナー、山村真一ユニット長に聞いた。産業デザインを顕彰するグッドデザイン賞という制度において、メディカル・デザインの位置付けとは。
「医療機器は命を預かる製品ですから、製造費やコストの問題だけでなく、非常に価値を大切にされる分野。そのため、時代の先頭に立って、開発された技術を啓発していく性格があります。医療器は最先端をいくものなので、使われている実際の技術やシステムは、医療だけでなく、将来は航空機や自動車産業などにつながる役目を担っています。反対に、最近では自動車部品メーカーが人工骨の治具などの開発に乗り出す例もありますね」
付加価値の高い医療機器のデザイン、その審査基準はどこに設けられているのだろうか。
「1つには、従来通りの『使いやすく、分かりやすいか』。これは『誤動作が起きないか』というインターフェースデザインの基本です。そのポイントが一定レベルに達しているのが前提で、次が先進性です。『先端技術が実際にどう使われているか』、あるいは『普及させるためにどう工夫されているか』。形がいい、使いやすいというのは当然ですが、医療機器ではその条件を高度にクリアしたデザインを評価します」
2012年度の「グッドデザイン大賞」(2012年11月末に1点が受賞)候補にノミネートされた15製品のうち、医療分野からはオリンパスイメージングがデザインを手がけたオリンパスメディカルの製品群、サージカルティシューマネジメントシステム「サンダービート、ソニックビート、USG-400、ESG-400、TC-E400」がエントリーされている。
2012年3月にリリースされた「サンダービート」は、内視鏡下におけるより低侵襲な手術を実現するデバイスだ。血管のシール(封止)や止血に優れる「バイポーラ高周波エネルギー」(双極型の電極で組織をつまんで高周波電流を通電)と、組織の切開・剥離に優れる「超音波エネルギー」を統合。複数の処置器具を1本のデバイスにまとめた上で、繊細なコントロールができるような操作系を開発したものだ。
「これまで先進技術としてあったものを、ようやくシステムとして医療分野で使えるようにパッケージした点を評価しました。新しい機能だけでなく、操作部やGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)のインターフェースなども分かりやすく工夫されています。ともすると、日本人は製品単体でデザインを考えることも多かったのですが、今後はそれぞれの仕組みの中に先端技術がどう入っていくか考える時代になっていくはずです」
と山村氏は語る。
(つづく)
記事提供:テレスコープマガジン
写真上:グッドデザイン賞を受賞した製品例。左上から時計回りに、富士フイルムの汎用超音波画像診断装置「FAZONE CB」、シスメックス「臨床検査システム」、山田医療照明の手術用照明器「スカイルックスクリスタル」、モリタ製作所の歯科用チェアユニット「Soaric」
写真下:左:オリンパスメディカル「サンダービート 5mm、35cm、ピストルグリップ『TB-0535PC』モデル」。右:「サンダービート」挿入部先端