『野球部あるある2』(菊地選手・著、クロマツテツロウ・漫画/白夜書房)
発売されるや瞬く間に重版を繰り返した『野球部あるある』の第二弾が早くも登場!
雑誌『野球小僧』の編集部員・菊地選手が「野球部員という名の珍獣」の生態を完全に再現。

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以前レビューでも紹介した「野球部って、バカだよなぁ」を楽しむ『野球部あるある』(以下『あるある1』)。大好評を受け、第二弾『野球部あるある2』(以下『あるある2』)がこのほど刊行されました。しかも『吹奏楽部あるある』という弟分まで引っさげて。そんな2つの“部活動あるある”が生まれた経緯と読みどころを、『野球部あるある』シリーズの著者にして『吹奏楽部あるある』の編集担当・白夜書房の菊地選手と、『吹奏楽部あるある』著者・吹奏楽部あるある研究会のオザワ部長のお二人にお聞きしました。


【野球に関する本はたくさんあるけど「野球部の本」ってほとんどない】
─── 菊地選手自身は高校時代まで野球部?

菊地 はい。中学ではキャッチャーだったんですが、高校である時監督から「おまえ外野できるか?」って言われたんです。やったことなかったんですけど「できます!」と答えて突然レフトを守ることになり、そこからは外野手でしたね。『あるある2』に書いた<やったことのないポジションを「できるか?」と聞かれて「できない」と言えない>はここから来ています。

─── この本の企画のキッカケは菊地選手のそういった体験から?

菊地 甲子園予選の取材でスタンドにいたら、応援団の中に調子に乗ってる野球部OBがいたんです。応援団をからかったり、プレーしている後輩を野次ったり。それを見たときに「あぁ、俺もこういう嫌な先輩だったなぁ」と思って、<野球部あるある>というタイトルでツイートしたんですね。そんな感じで、その日だけで10個くらいの<あるある>をつぶやいたんです。それをたまたま見ていた僕の先輩から「一日1個、365個つぶやいてみなよ」って言われて、「さすがにそんなにたくさん<あるある>はないよ」と思いつつ、つぶやき続けてみたんです。そしたらそのうち反応が来るようになりまして、数も気付けば365も突破して400以上つぶやいていて、それに比例するようにフォロワーさんも増えていきまして。「書籍化してください」みたいな声まで頂くようになり、「これ、もしかしたらいけるのかも」と思って企画書を出したのが始まりですね。

─── 部活動ってみんなの記憶の中に原風景として残っているから反応しやすいですよね。

菊地 『高校野球小僧』でも編集や記事を担当しているんですが、それまではドラフト候補やスター選手といったエリートばかり、ピラミッドでいうところの頂上付近の選手にばかり話を聞いていたので、僕自身取材していても「自分はそこまで登れなかった」という羨ましさと悔しさがあったんです。甲子園を見ていても「俺はこの舞台には出ていないんだよな」っていうルサンチマンみたいのがあって……でも、自分も含めてピラミッドの底辺の方が人数は多い訳じゃないですか。野球に関する本は世の中にたくさんあるけど「野球部の本」ってほとんどないよな、ということに気がついて自分の中でもこの企画がしっくり来たんですよね。


【自分が出ていない甲子園のやるせなさ】
─── 紹介される<あるある>は菊地選手が全部考えてるんですよね。

菊地 そうです。でも今にして思えばですけど、強豪校を取材していたからこそ「こういう部分は弱小だった自分たちと同じなんだ」とわかった部分もありますね。野球部にいた人間だと、当たり前すぎてその異常性に気づけない部分っていうのが結構あるんです。『高校球児ザワさん』を描いている漫画家の三島衛里子さんとお話をする機会があったんですが、「菊地さん、野球部の中にいてよくこの<野球部の異常性>に気づけましたね」と言われました。確かにそうなんですよ、野球部って異常なんです(笑)。どこか宗教的なところもあるし。自分がいた場所を<異常だ>とは思いたくないんですけど、でもそこが『野球部あるある』の面白い要素なんですよね。

─── イラストもいい味出してますよね。

菊地 漫画を描いてくれたクロマツテツロウさんの画がまた凄くて。クロマツさんも野球部出身なので、僕の考えた<あるある>をちゃんと“風景化”してくれるというか。僕のイメージと全く同じものもあれば、僕を超えるというか、むしろその画で思い出すエピソードもたくさんあるんです。「僕のネタだけど、僕とクロマツさんの作品であり、ひいては“野球部全体のもの”になったな」という感じもあって、本ができた時から妙なエネルギーだけは自分でも感じていました。

─── 出版しての反響はいかがでした?

菊地 あとがきに書いた<自分が出ていない甲子園のやるせなさ>という部分に共感してくれた方が多かったのがとても嬉しかったですね。野球部じゃなかった人が買って野球部の友達に薦めてくれるケースも結構あったり、芸能人でも野球部出身のトータルテンボス藤田さんから「すごく共感することが多かったです」というメールをいただいたりと、信じられない波がありました。あと、白夜書房の書籍ってこれまであんまり売れたことがなかったんですけど(笑)、そういう意味で営業部がすごく優しくなりました。もう今でも怒りが込み上げてくるんですけど、そもそも『野球部あるある』を出すと言って一番反対したのが営業部だったんです。「私にはこの面白さはわからない」とか言ったりして(笑)。でも結局、賛否両論ありながら企画が通ってなんとか出版にこぎつけたら、その後割と早い段階で「とりあえず来年の春に次を出そう」と営業部から言われまして。手の平を返すとはこのことか! って思いましたね(笑)

─── それで『あるある2』に繋がると。

菊地 でも、「『1』よりも面白くなきゃ『2』を出す意味はない!」っていうのが僕の中ではあったので、「面白くならなかったら野球部のない世界へ逃げよう」と思いながらずっとやってましたね。まあ、そんな場所は日本にはないんですけど(笑)。そのくらいの覚悟でいたんですが、やってみるとまだまだ面白い<あるある>は結構あって。今回で言うと<PL野球部あるある><ヤンキー野球部あるある>っていうのが取材していく中で見つかって。当初、春の選抜前の3月に出す予定で結局そこには間に合わなかったんですが、ちょうど『吹奏楽部あるある』を4月に出すという動きがあったので「じゃあ、同時に出しますか」ということになりました。


【Twitterで「野球部」よりもさらに盛り上がっていた「吹奏楽部」あるある】
─── 『吹奏楽部あるある』はどういう経緯で?

菊地 『あるある1』が出るちょっと前に、「部活あるある」というネタがTwitterで結構盛りあがっていたんです。やっぱり部活の中でも「野球部」の話題は人気だったんですが、その「野球部」よりもさらに盛り上がっていたのが「吹奏楽部」のあるあるなんです。あと、『野球部あるある』がヒットしたからと言って、次はサッカー部だバスケ部だっていうのはなんか違う気がしたんですね。

─── 短絡的に考えれば、次はそういう企画になりそうですよね。

菊地 言ってみればサッカー部やバスケ部って、今の言葉だと「リア充」ですよね。なんかこう、うまくスマートにやってる気がするじゃないですか、あいつら(笑)。髪も伸ばしてるし、汗かいてスポーツ満喫しながら女子ともよろしくやってる……完全に野球部視点の偏見なんですけど(笑)。でも、そういうのが根底にあるような気がして、『野球部あるある』のようなクセのある面白さを出すのは厳しいなぁと感じていたんです。それだったらば吹奏楽部の方が面白いかも、と。でも、一番の問題は僕らの周りに吹奏楽部出身者がいなかったんです。それで、facebookで吹奏楽部出身者を募り始めたらコメント欄に「私、吹奏楽部出身です」「一緒にやりたい」っていう書き込みがたくさん来て盛りあがったんですよ。その中にオザワ部長もいて、こりゃいけるかもしれない! と。それが企画の発端ですね。

オザワ 吹奏楽部の人って、実は言いたいことを言えてない人が多いんじゃないかと思うんです。本の帯でも紹介したあるある<別名は「体育会系文化部」>が示すように体育会並みに上下関係が厳しいし、さらには男女が両方いての関係性というか……部活の中で発散できないことが多いんですね。そんな中、部活から解放されて自由になれる空間としてTwitterが機能していたんじゃないかと思いますね。それと「吹奏楽部って何?」って聞かれてもひと言では言えないんですよね。男女もいますし、楽器にしても隣の人のことはほとんど知らないんですよ。同じ部なのにいろんな要素がごちゃっとひとつになっていて、それが吹奏楽部の面白いところでもあり、よくわかんないところでもあると思うので、その混沌とした感じを書籍を通じてひとつに表現できたら面白いだろうなっていうのはありましたね。

─── 読んでまず感じたのが「運動部的だな」というのと「すごく会社っぽい」ということでした。だから、吹奏楽部を知らない人でも共感できる部分があるんですよね。

オザワ 強豪校になると顧問の先生の神格化が生まれたりもして、野球部と同じように絶対服従の関係になるんです。その下に部長・副部長・金管/木管リーダー・パートリーダー……といったヒエラルキーというか組織ができあがったり。パートリーダーが中間管理職的な側面を持つのはまさに会社的ですよね。それでも、僕がいた学校は弱小校だったんでそういう組織が緩いんですね。野球部も同じだと思うんですけど、強豪校になるほど組織がキツくなっていくんですよね。

菊地 でも、ここまで複雑じゃないですよね(笑)。よく「社会性を身につけさせたいから野球部で頑張って欲しい」と思っている親御さんがいらっしゃるんですけど、社会性を身につけるんだったら断然吹奏楽部だなって思いましたね、これを読んで。

オザワ Twitterのフォロワーで顧問の先生もいらっしゃるんですが、その方が「吹奏楽部の顧問ができればどの部の顧問もできる」と。そのくらい人間関係が難しい側面もあって、僕自身も部活時代にシビアに感じてしまって辛いときもあったんです。でも、それをユーモアに転換できれば、僕と同じような吹奏楽部OB・OGなら思い出を美しく捉え直せるだろうし、現役の子たちも部活動をもっと楽しむことができるのかな、と。それも自分の中でモチベーションのひとつにはなりましたね。
後編へ続く
(オグマナオト)