収穫祭当日、畑には着飾った多くの人々が集まる。

写真拡大

ワインの産地として有名なフランス。ただしそれは地方の話で、市街化されたパリにおいてはワイン生産は無縁だと思うかもしれない。ところが、いまだ市内にはブドウ畑が残っており、そこで収穫されたブドウを用いたワイン生産は細々と続いている。一体、パリワインとはどのようなものなのだろうか? 今では希少なパリのワイン醸造事情について聞いてきた。

訪れたのはパリ北部のモンマルトルという地区。かつて多くのブドウ畑がこの一帯に広がっていたという。今ではその名残はほとんどないが、かろうじて現在もワイン用ブドウを栽培している畑がある。

約1550平方メートルの敷地に植えられた品種は赤ワイン用のガメイやピノ・ノワール等。およそ2千株が植わっている。この畑で収穫されたブドウは区役所内にある地下貯蔵庫で仕込まれるそうだ。生産量は約500リットル、ボトルにして約1000本と数は限られている。そのため値段は1本40ユーロ(約4,150円)。フランスの一般的な小売店で売られている普段使いのワインが10ユーロ(約1,040円)前後、安価なものは2ユーロ(約208円)前後で売られていることに比べると、決して安くない値段だ。

今では珍しいパリワインだが、かつてはそれなりに知名度もあったという。パリを含む地域で造られていたワインとは、どのようなものだったのだろうか? 市内西部パッシー地区にあるパリワイン博物館でうかがった。
「中世の頃、パリを含む地域は美味しい白ワインが造られることで有名でした。しかし、現在ではそのほとんどが消えてしまいました。ただし1960年頃から、以前の栄光を取り戻そうと個人や市町村で再びブドウ栽培を始めたところもあります」

今では全く関係ないように思われる市内の場所も、ワインに関連したものがあるという。例えば、現在多くの高級ブランドが店を構えるサンジェルマン・デ・プレ地区。そこに建つサンジェルマン・デ・プレ教会もその一つだ。
「ワイン農家に信仰されている聖人に聖ヴィンセントという人がいます。彼にまつわるパリのサンジェルマン・デ・プレ教会は、パリを中心とする農家のよりどころとなっていました」

ちなみに、畑が残るモンマルトルでは毎年10月第2週目にワイン収穫祭が開かれ、当日は中世の衣装に着飾った地元の人々が練り歩く。生産規模は少なくともパリワインの伝統は受け継がれているのだ。
(加藤亨延)