かわいい? 怖い? 見えない精霊をアイコン化した「PLANET DOLL」
頭隠して尻隠さず、とはこのことか。ふと訪れた南青山の展示会で圧倒的な存在感を放っていた、毛むくじゃらな人形「PLANET DOLL」。気になって担当者の方に話を聞いてみると、どうやら「精霊」をモチーフにアイコン化したものらしい。太古の昔から万物に宿ると言われ、世界中の人種や民族、宗教観で普遍的に存在している精霊は、私たち人間を守ってくれる神のような存在とも言われている。しかし、通常は人の目に見えないもの。それを形にするなんて、どんな意図があったのか? そもそも、なぜこの容貌に?
「PLANET DOLL」を手掛けたのは、グラフィック・デザイナー集団「TGB design.」。彼らが独自に解釈した精霊の姿、そしてこの人形が生まれた背景について、メンバーの石浦マサルさんにお話を聞いてみた。
石浦さんによると、「TGB design.」は、3年ほど前、ホピ族(アメリカ・インディアン部族のひとつ)にとっての精霊である「カチーナ人形」の東京版として「モダンカチーナ」をプロトタイプとして発表していたと言う。今回の「PLANET DOLL」は、それをベースに、販売することを念頭に改良を加え、試行錯誤の末に完成したものらしい。
「モダンカチーナは、“精霊が東京に来たらどうなるか?”をテーマに考えたものでした。“欲にまみれるのか? まみれないのか?”みたいにいろいろと想像しながら(笑)。カチーナ人形には毛をはじめとして様々な飾りが付いているので、僕たちもラインストーンを付けたり、いろいろと試みましたが、結局、『毛だらけ』の美しさ、つまり自然の美しさに勝てなくて、現在の形になりました」
自然からいただいた「毛」そのものの姿一番美しい、と感じた彼らの感覚が形となった「PLANET DOLL」。この人形が教えてくれるのは、「想像する」ということの楽しさだ。精霊という存在は、現代の私たちを遥かに超えた、当時の人々の豊かな想像力を感じさせてくれる。「毛だらけ」の姿はデザイナーの彼らの想像によるものだが、「私ならこういう形だと思う」と、自分なりの精霊の姿を空想してみるのも面白い。そんなことを考えながらこの人形と相対してみると、忙しい毎日の中で、ちょっとホッとする時間を持つこともできるかもしれない。
しかし、「PLANET DOLL」の魅力はこれだけではない。少し長くなってしまうが、この人形を語る上で欠かせない、その背景にあるストーリーも、ぜひお伝えしたいと思う。
まずは、使われている素材について。どんな装飾も「勝てなかった」という美しさを持つこの毛皮は、通常はゴミとなってしまうような「裁ち屑」を毛皮屋さんから仕入れたものだと言う。さらに台座や本体には、一部に間伐材を使用しており、売上の一部は森林保護団体の森作りに還元される仕組みになっている。
制作は一つひとつ手彫りで、装飾も手作業によるものだ。グラフィック・デザイナーの彼らにとって、「PLANET DOLL」の制作は、ある意味「専門外」の領域。プロではない彼らによる手作りなので、よく見ると木彫りも均等ではなく、色の塗り方も荒々しく、ムラがあることが分かる。
素材、そして慣れない手作業へのこだわり。そこには、彼らが伝えたい、こんなメッセージが込められている。
「僕らは普段、完璧なものをアウトプットしていく仕事をしていますが、敢えてそうでないものを世の中に出すことによって、“自分も創りたいな”と意欲の沸いてくるような、人々につながりが生まれるような、そんな仕事をしたかったんです」
3年前に「モダンカチーナ」を発表して以来、多くの人と出会ったという石浦さん。「命からいただいた毛が再生されてうれしい」と言ってくれた毛皮屋さん、「持って行っていいよ」と、ログハウスの端材を提供してくれた建築家さん。これも精霊の力なのだろうか。「完璧じゃない」ものを創ることによって次々とつながりが生まれ、「PLANET DOLL」は完成した。
これらのストーリーが積み重なってできた「PLANET DOLL」は、手作りの木箱入りで、年内には販売開始予定。ひとつ33,000円(税別)というお値段は、ちょっと高く感じるかもしれないが、一度実物を見ると、その存在感に圧倒されてしまうこと必至。高さ20cm〜22cmと、おそらく写真のイメージよりも大きく(私自身、もっと小さいと思っていました)、一つひとつ装飾や使われている木も違うので、ぜひ実物を見て、たった“ひとり”のお気入りの精霊に出会ってほしいと思う。現在販売方法を検討中だが、決まり次第「TGB design.」のホームページで告知されるとのことなので、情報を楽しみに待つことにしよう。
最後に、今後制作される「PLANET DOLL」について、さらに楽しみな情報をひとつ。装飾など、制作に関わる一部の作業について、全国の授産施設に通う知的障害の方々と共同制作の体制を取っていくとのことだ。
「精霊を作るなら、僕よりも心が広く、心がきれいな人がいいな、と思っていたんです。たまたま制作の過程で授産施設に通う方々と出会ったのですが、その想像力と、木工などの作業技術の高さに驚きました。さっそく大田区の授産施設に行って相談したら、制作に関しては「全然大丈夫」と言ってくださって。僕らだけでは現在のデザインでもう限界(笑)なのですが、彼らと一緒になら、さらに形を変えて行けると思います」
新しいパートナーを得た「PLANET DOLL」が、私たちにさらなる驚きとワクワクを与えてくれることは間違いなさそうだ。
(池田美砂子)
石浦さんによると、「TGB design.」は、3年ほど前、ホピ族(アメリカ・インディアン部族のひとつ)にとっての精霊である「カチーナ人形」の東京版として「モダンカチーナ」をプロトタイプとして発表していたと言う。今回の「PLANET DOLL」は、それをベースに、販売することを念頭に改良を加え、試行錯誤の末に完成したものらしい。
「モダンカチーナは、“精霊が東京に来たらどうなるか?”をテーマに考えたものでした。“欲にまみれるのか? まみれないのか?”みたいにいろいろと想像しながら(笑)。カチーナ人形には毛をはじめとして様々な飾りが付いているので、僕たちもラインストーンを付けたり、いろいろと試みましたが、結局、『毛だらけ』の美しさ、つまり自然の美しさに勝てなくて、現在の形になりました」
自然からいただいた「毛」そのものの姿一番美しい、と感じた彼らの感覚が形となった「PLANET DOLL」。この人形が教えてくれるのは、「想像する」ということの楽しさだ。精霊という存在は、現代の私たちを遥かに超えた、当時の人々の豊かな想像力を感じさせてくれる。「毛だらけ」の姿はデザイナーの彼らの想像によるものだが、「私ならこういう形だと思う」と、自分なりの精霊の姿を空想してみるのも面白い。そんなことを考えながらこの人形と相対してみると、忙しい毎日の中で、ちょっとホッとする時間を持つこともできるかもしれない。
しかし、「PLANET DOLL」の魅力はこれだけではない。少し長くなってしまうが、この人形を語る上で欠かせない、その背景にあるストーリーも、ぜひお伝えしたいと思う。
まずは、使われている素材について。どんな装飾も「勝てなかった」という美しさを持つこの毛皮は、通常はゴミとなってしまうような「裁ち屑」を毛皮屋さんから仕入れたものだと言う。さらに台座や本体には、一部に間伐材を使用しており、売上の一部は森林保護団体の森作りに還元される仕組みになっている。
制作は一つひとつ手彫りで、装飾も手作業によるものだ。グラフィック・デザイナーの彼らにとって、「PLANET DOLL」の制作は、ある意味「専門外」の領域。プロではない彼らによる手作りなので、よく見ると木彫りも均等ではなく、色の塗り方も荒々しく、ムラがあることが分かる。
素材、そして慣れない手作業へのこだわり。そこには、彼らが伝えたい、こんなメッセージが込められている。
「僕らは普段、完璧なものをアウトプットしていく仕事をしていますが、敢えてそうでないものを世の中に出すことによって、“自分も創りたいな”と意欲の沸いてくるような、人々につながりが生まれるような、そんな仕事をしたかったんです」
3年前に「モダンカチーナ」を発表して以来、多くの人と出会ったという石浦さん。「命からいただいた毛が再生されてうれしい」と言ってくれた毛皮屋さん、「持って行っていいよ」と、ログハウスの端材を提供してくれた建築家さん。これも精霊の力なのだろうか。「完璧じゃない」ものを創ることによって次々とつながりが生まれ、「PLANET DOLL」は完成した。
これらのストーリーが積み重なってできた「PLANET DOLL」は、手作りの木箱入りで、年内には販売開始予定。ひとつ33,000円(税別)というお値段は、ちょっと高く感じるかもしれないが、一度実物を見ると、その存在感に圧倒されてしまうこと必至。高さ20cm〜22cmと、おそらく写真のイメージよりも大きく(私自身、もっと小さいと思っていました)、一つひとつ装飾や使われている木も違うので、ぜひ実物を見て、たった“ひとり”のお気入りの精霊に出会ってほしいと思う。現在販売方法を検討中だが、決まり次第「TGB design.」のホームページで告知されるとのことなので、情報を楽しみに待つことにしよう。
最後に、今後制作される「PLANET DOLL」について、さらに楽しみな情報をひとつ。装飾など、制作に関わる一部の作業について、全国の授産施設に通う知的障害の方々と共同制作の体制を取っていくとのことだ。
「精霊を作るなら、僕よりも心が広く、心がきれいな人がいいな、と思っていたんです。たまたま制作の過程で授産施設に通う方々と出会ったのですが、その想像力と、木工などの作業技術の高さに驚きました。さっそく大田区の授産施設に行って相談したら、制作に関しては「全然大丈夫」と言ってくださって。僕らだけでは現在のデザインでもう限界(笑)なのですが、彼らと一緒になら、さらに形を変えて行けると思います」
新しいパートナーを得た「PLANET DOLL」が、私たちにさらなる驚きとワクワクを与えてくれることは間違いなさそうだ。
(池田美砂子)