ヨーロッパで「ユーロ」(欧州選手権)はワールドカップと並ぶほどの盛り上がりをみせ、グループリーグからハイレベルな戦いとなる一大サッカーイベントです。ポーランド・ウクライナ共催となった「ユーロ2012」の開幕まで一年を切り、現地では着々と準備が進められています。


ウクライナは2008年に訪れ、ユーロ開催の準備が遅れている状況をレポートしていますが(「ユーロ開催は大丈夫? ウクライナの現状」、今回はもう一つの開催国ポーランドを取り上げます。私が滞在するリトアニアはポーランドの隣国にあり、6月中旬に友人訪問がてら同国のサッカーどころを巡ってきました。インフラ整備が着々と進むポーランド事情を写真と共にお伝えします。


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ワルシャワの文化科学宮殿前にはユーロの幟(のぼり)が立てられる。

開幕戦が行われるのが、ポーランドの首都ワルシャワ。ユーロ開催に合わせて改修が進められる中央駅の東に、高さ237mの文化科学宮殿が高くそびえています。宮殿の正面にはこうして幟が飾られていました。ポーランドの開催地はワルシャワのほか、ポズナン、ヴロツワフ、グダニスク。それぞれのスタジアムが花に見立てられています。



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文化科学宮殿の西側面には巨大なプラカードが。

この宮殿はスターリンから贈られた共産主義時代の象徴としてワルシャワ市民に嫌われた存在ですが、どこからも目に入るランドマークでもあることから、ユーロのプラカードがこうして掲げられています。


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建設が進められるワルシャワの国立スタジアム。

ポーランド語では「Stadion Narodwy」。老朽化して一時は闇市場と化していた「10周年スタジアム」(7万人収容)を取り壊し、ユーロ開催権を獲得した翌2008年から新スタジアムの建設が進められています。収容は58,145人。開幕戦を含むグループリーグ3試合、準々決勝と準決勝の会場となります。


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国立スタジアムの建設は半年の遅れ。

キエフの国立スタジアムは建設遅れが批判されていますが、ここワルシャワの国立スタジアムも建設が遅れ気味。設計ミスや死亡事故も発生し、本来は今年6月のフランス戦が柿落としとなるはずが間に合いませんでした。9月のドイツ戦すらも間に合わず、いずれもグダニスクで代替開催。遅れに遅れた工期は今年11月に終了する予定です。


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改修が終わったレギア・ワルシャワの本拠地「ポーランド陸軍スタジアム」。

レギア・ワルシャワはリーグ優勝8度、カップ戦優勝14度を誇る同国随一の名門。1916年、軍人によって創設された歴史の名残はスタジアム名から読み取れます。長年に渡って論議を重ねられたのち、2008年にスタジアム再建がスタート。半完成状態でも使用されながら、今年5月に最終的な完成となりました。真新しいのにもかかわらず、レギア・サポーターのシールが至るところに張られています。収容は31,103人。


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スタジアムに隣接されたファンショップ。

レギア・ワルシャワの人気の高さはグッズが充実したファンショップに入れば分かります。ディナモ・ザグレブでは地味な存在だったクロアチア人MFイヴィツァ・ヴルドリャク(27)が主将を務め、今や人気選手の一人として写真やユニフォームが店内に掲げられていました。隣接のミュージアムは入場無料。ミュンヘン五輪の得点王カジミエシュ・デイナの特別展示があります。スタジアム向かいにはサポーターショップもあり、ディープなマフラーやシャツも購入可能。レギア・サポーターは非常に熱狂的で、2007年のインタートトカップのヴァトラ戦(リトアニア)で2500人のサポーターが大暴れ(動画)。UEFAからレギアは欧州カップ追放の処分を受けました。ポーランドはフーリガン問題が未だに根強く残っており、国家的問題となっています。


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世界遺産に指定されたワルシャワ旧市街。

第二次世界大戦で徹底的に破壊された旧市街は昔と全く同じように再現され、1980年にはユネスコ世界遺産にも指定されました。広場にはカフェが並び、ユーロ開催中はサポーターで賑わうはず。私は売店で缶ビールを買い、飲みながら旧市街を歩いていたところ、ビラ配りのお姉さんに「気をつけなさい! 警察に見つかったら罰金よ」と忠告されました。新法律では公共の場所でアルコール飲料を飲むことは許されないそうで、大会開催中は多くのサポーターが罰せられるかもしれません。

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ポロニア・ワルシャワの本拠地「スタディオン・ポローニー」。

旧市街を抜けて北に10分ほど歩けば、1911年創立の古豪ポロニア・ワルシャワの本拠地に到着します。「スタディオン・ポローニー」は収容7,230人と小さいものの、戦時を連想させる迫力のこもった壁画に圧倒されました。木陰でこっそり飲んだ缶ビールで私はホロ酔い状態。レギア・ファンショップの土産袋を隠すのを忘れてスタジアム周辺をうろついたところ、ポロニアのサポーターと思わしき若者が「お前、こんなものぶら下げてここを歩くな! ボコボコに殴られるぞ!」と怒られてしまいました。宿敵レギアを侮辱する落書きも至るところに。サポーターは人種差別を嫌っており、のちにポーランド代表に登り詰めたナイジェリア人FWエマヌエル・オリサデベが活躍したクラブでもあります。

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王者ヴィスラ・クラクフの本拠地「スタディオン・ミエイスキー」。

21世紀になってから7度のリーグ優勝を誇り、昨季もリーグを制したヴィスラ・クラクフの本拠地。残念ながらユーロ開催地から漏れ、予備地止まりになってしまいました。2004年が増築・改修が始まり、私が訪れた際にはほぼ完了。残るは正面スタンド周辺の整備が残されていました。収容33,268人。かつてのヴィスラの名選手にちなみ、スタディオン・ヘンリク・レイマンという名前もあります。

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これまた最新のクラコヴィアの本拠地「ピウスツキ元帥スタジアム」。

ヴィスラの本拠地から1kmもない距離にも2010年完成の最新スタジアムがあります。ここを本拠地とするのがクラコヴィア。ヴィスラと宿敵関係にある中、1999年に4万人収容の共同スタジアム建設の構想が挙がったものの、両サポーターの反発によって流れてしまいました。ポーランド共和国建国の父の名前がついた最新スタジアムの収容は15,500人。ヴィスラの陰に隠れがちなクラコヴィアのサポーターは、同じくレギアの陰にあるポロニア・ワルシャワのサポーターと友好関係にあり、クラブそのものも1860ミュンヘンと提携を結んでいます。

この数年間でポーランド全土において13ものスタジアムが新築・再建されたとのこと。ユーロ開催が手伝って急速にインフラが向上しており、クラブ間の競争も激化しています。昨季のヨーロッパ・リーグでマンチェスター・シティに勝利し、ユベントスを差し置いてグループ突破を果たしたレフ・ポズナンが今季の欧州カップの出場枠を取れなかった事実一つとっても、その激しさが分かるというものです。リーグの関心も高く、レギア・ワルシャワで平均観客が2万人。またウクライナやロシアのように一部の選手年俸が突出せず、レギアで最高50万ユーロと、チーム経営も地に足がついています。現在のポーランド・リーグはUEFAランクで24位に甘んじていますが、ユーロ開催を契機に今後最も発展していく東欧リーグだと私は見ています。

最後にもう一枚、ワルシャワでの写真を。ユーロ2012のロゴでデザインされた花壇です。これからますますポーランドもユーロ一色になっていくでしょう。

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