三浦大輔主宰、ポツドールの『愛の渦』が、2月19日〜3月15日、新宿THEATER/TOPSにて再演されている。この不景気時に前売り券がほぼ完売、開場2時間前から並ぶ記者以外にも、数名の当日券を求めるお客たちが階段に座っていた。そしてかぶりつきの補助席で迎えた驚愕の舞台。勢いのある三浦大輔が放つこの作品は、やはり何かが違うのである。



当日チケットを求め並ぶ階段の、その横を大道具スタッフなどがバタバタと行き交う公演初日。あとで気が付いたが、次々入場するスタッフらしき人たちの中には出演する役者も含まれていた。

演劇に興味の無い記者は、基本的に歌や踊りのない舞台が嫌いだ。 ポツドールのおどろおどろしいイメージと『愛の渦』の原作のショッキングさに、「劇中耐えられなくなったら途中で帰ろう」とさえ思っていた。
しかし、けたたましい音楽と共に幕が開いた後は全精神の100%が『愛の渦』に注がれ、約2時間半トイレに行きたかった事も忘れ舞台に見入ってしまった。

原作どおりの舞台セットに、原作イメージぴったりの役者たちが、原作どおりのセリフと動きをする。それは、普通の舞台では当たり前の事なのだが、ポツドールの場合はそれだけでかなり“衝撃的”なモノになる。

数名の男女が、入れ替わり2つの部屋で性行為をするというスジなので、半裸以上の男性の露出は当たり前。(女子はあまり脱がないので大丈夫。)鬼っ子のフリーター役を演じる米村亮太郎の引き締まった身体と、常連の女を演じる「毛皮族」の江本純子の背中はとてもきれいだ。

あとの出演者は、見ているお客と変わらないような一般的な若者ばかりなのだが、保育士の女を演じる(内田滋)をはじめ卑猥きわまりないセリフをみんな自然に話し、さも風俗やその他、“性が当たり前の場”で繰り広げられるような出来事が坦々と進めてられていく。

時に張り詰める“気まずい空気”や、登場人物の「悪意」と「良心」がオセロのようにコロコロ変わる。そんな様が実にリアルである。そしてそれらを見るのは実はけっこうきつい。

劇の終盤になって判明する“快楽の場”を提供する店長のしたたかな様、宴(うたげ)の後に散乱する脱ぎ散らかしをかたづける店員(脇坂圭一郎)みじめったらしさ、朝日を浴びてキラキラ輝く大量の避妊具。どれ一つとっても象徴的だ。

この舞台を見た後、大概の人はどーんと疲れてしまうであろう。
しかし、性のファンタジーと現実の混沌のようなこの舞台が、不思議と性行為以上に深い結びつきを持つ“自分の愛しい人”を思い出させる。

『愛の渦』を毎日演じる役者たちには相当の精神力が必要だ。
公演パンフレットを見て分かったことだが、役者たちの実年齢が想像していたより5才くらい高かった。なんだか納得した。

恐るべしポツドールの『愛の渦』。演劇通の人にとっては毎度の事なのかもしれないが、めったにこういった芸術に触れない記者にとっては『愛の渦』は大変なショックであった。一生に一度出会うか出会わないかぐらいの「強い衝撃」を心に残したい人は、毎日わずかに売り出される当日券を得る為に階段に並ぶ事をお進めする。

勢いのあるモノを見ることによって、自分の「何か」が変わる事もあるからだ。

(編集部:クリスタルたまき)

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【参照】
「ポツドール」公式サイト