(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

非上場企業の経営者にとって、相続や事業承継の際に大きな問題となるのが「自社株」の評価だろう。市場価格が存在しない非上場株式は、国税庁の「財産評価基本通達」に定められた方法によって評価され、その評価額が相続税や贈与税の課税額を左右する。その非上場株式の評価方法について、現在、国税庁で見直しの議論が進んでいる。2026年9月16日に開催された「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第6回会合では、具体的な評価方法について議論が行われたほか、経済産業省・中小企業庁が「『取引相場のない株式の評価』見直しに係る意見」を提出した。中小企業庁は、評価方法の見直しによって評価額が大幅に上昇すれば、事業承継に深刻な影響を及ぼす可能性があるとして、業種や経営状況などに応じた具体的な影響の分析・試算を行い、拙速に結論を出すのではなく、慎重に議論するよう求めている。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

中小企業庁が懸念する「自社株評価額の上昇」

今回の見直しをめぐって、中小企業庁が特に問題視しているのが事業承継への影響である。

中小企業庁は意見書のなかで、評価方法の見直しによって非上場株式の評価額が大幅に上昇した場合、後継者の納税負担が増加し、円滑な事業承継に支障を来す可能性を指摘している。

非上場会社の株式は、上場株式のように市場ですぐに売却できるものではない。経営者から株式を引き継いだ後継者が、経営権を維持するために自社株を保有し続けなければならないケースも多い。

そのため、株式の評価額が上昇して相続税や贈与税の負担が大きくなれば、納税資金を確保するために会社の経営や事業に必要な資産を売却したり、設備投資など成長のために使う資金を納税に回したりする可能性がある。中小企業庁は、場合によっては廃業に追い込まれるなど、事業承継に深刻な支障を来すおそれがあるとしている。

さらに、影響は事業承継だけにとどまらない。

新たな評価方式では企業の収益力が評価額に反映されやすくなるため、企業が成長して利益を上げるほど、将来の事業承継時に自社株の評価額が高くなる可能性がある。

中小企業庁は、収益拡大が承継時の負担増に直結すれば、経営者が成長投資を抑制するおそれがあると指摘。政府が掲げる中堅・中小企業の「稼ぐ力」の強化や、成長投資、賃上げを後押しする政策の方向性との整合性にも留意する必要があるとしている。

会計検査院の「評価のかい離」への指摘

では、そもそも国税庁はなぜ評価方法を見直そうとしているのか。一つとして挙げられるのが、会計検査院による令和5年度決算検査報告だという。

非上場株式は、会社の規模などに応じて「類似業種比準方式」「純資産価額方式」などによって評価される。現在は、大会社の株式は原則として類似業種比準方式、中会社は併用方式、小会社は純資産価額方式によって評価する仕組みとなっている。もっとも、大会社や中会社について純資産価額方式を選択できる一方、小会社についても類似業種比準方式との併用方式を選択できるなど、一定の選択肢も設けられている。

類似業種比準方式では、評価会社と類似する業種の上場会社の株価を基に、1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額の3要素を比較して評価額を算出する。一方、純資産価額方式では、会社の資産から負債などを差し引いた純資産を基礎として評価する。

会計検査院は、令和2年分と令和3年分の相続税・贈与税の申告について、取引相場のない株式が含まれる申告から計1,600件を抽出し、延べ1,785社の評価会社を対象として検査した。

その結果、類似業種比準方式などによる評価額と、純資産価額方式による評価額との間に大きなかい離が生じていることが確認された。特に、類似業種比準方式を適用する割合が高い規模の大きな会社ほど、純資産価額に比べて株式の評価額が相対的に低く算定される傾向があることから、会計検査院は、異なる規模区分の会社間で株式評価の公平性が必ずしも確保されているとはいえないと指摘した。

さらに、配当還元方式についても、還元率10%が昭和39年(1964年)から約60年間にわたって見直されていないことを指摘している。

国税庁はこうした会計検査院の指摘を踏まえ、2026年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催。相続税法の「時価主義」の下で、より適正な評価制度のあり方について検討を進めている。

国税庁が検討する「残余利益方式」とは?

今回の見直しで大きな焦点となっているのが「残余利益方式」である。

国税庁の有識者会議第6回会議の資料では、現行のように会社の規模によって評価方式を分けるのではなく、理論的な根拠を持つ残余利益モデルをベースに、税務上の評価としての安全性、統一性、簡便性などを考慮して一定の修正を加えた方式への見直しが示されている。

残余利益方式は、簡単にいえば、会社の純資産だけではなく、そこから通常期待される収益を上回って企業が生み出す「残余利益」に着目して株式価値を算定する考え方である。

第6回資料では、将来の利益を無限期間にわたって予測することは現実的ではないことから、加算期間を5年程度とする案が示されている。

課税時期前5年間の法人の「正常利益」を基に将来の利益を予測し、株主が通常期待する収益率を上回る部分を残余利益として算出。その残余利益を現在価値に割り引いて、株式の評価額に加える考え方である。

一方、6年目以降の残余利益を示す「ターミナルバリュー」については、算定が困難であることや、残余利益は年数とともに減少してゼロに近づくと考えられることなどから、加算しない案が示されている。

大会社では評価額「2倍超」の試算も

では、実際に新しい方式に変えると、評価額はどの程度変わるのか。第6回会議の資料には、かなり具体的な試算が示されている。

国税庁は、令和2年分から5年分の相続税・贈与税の申告のうち、取引相場のない株式を取得した申告から無作為に抽出し、類似業種比準価額と純資産価額の双方を算出している1,378社について、残余利益方式による評価額を試算した。

加算期間5年、還元率8%とした場合、現行の申告評価額を100とした評価額の中央値は、会社規模によって大きく異なる。

大会社:斟酌(しんしゃく)率1.0の場合は現行比で50.3%増、0.9では71.7%増、0.8では93.2%増、0.7では114.7%増(条件によって現行の2倍を超える水準)。

中会社:斟酌率1.0の場合は現行比で1.9%減、0.9では12.1%増、0.8では26.1%増、0.7では40.2%増。

小会社:斟酌率1.0で21.8%減、0.9で12.0%減、0.8で1.9%減、0.7で10.1%増。

このように、会社規模によって影響が大きく異なることが分かる。もっとも、この試算はあくまで一定の条件を置いたシミュレーションであり、新たな評価方式が決定したことを意味するものではない。

「評価額が下がる会社」も少なくない

今回の試算で見逃せないのは、評価額が上昇する会社ばかりではないという点である。

国税庁の第6回資料では、同じく加算期間5年、還元率8%とした場合、現行の申告評価額以下となる会社の割合も示されている。

全体では、斟酌率1.0の場合で57.3%、0.9で48.6%、0.8で40.2%、0.7で33.1%が現行評価額以下となった。会社規模別では、小会社は斟酌率0.8で58.6%、0.7で50.7%が現行評価額以下となる一方、大会社では同じ条件で21.1%、16.4%にとどまる。

つまり、新方式によって一律に「非上場株式の評価額が上がる」というわけではない。ただし、資産規模が大きく収益性の高い会社ほど評価額が上昇しやすい傾向が試算から読み取れるため、事業承継を考える経営者にとっては無視できない問題となる。

オペレーティングリースや役員報酬も論点に

第6回会議では、残余利益方式そのものだけでなく、評価額を算定する際の「利益」をどのように捉えるかについても具体的な検討が行われた。

その一つが、オペレーティングリースである。

残余利益方式では過去の利益実績を基に将来利益を予測するため、過去の利益に非経常的な損益が含まれていれば、会社の「正常利益」を算定する際に補正する必要がある。国税庁の第6回資料では、オペレーティングリースについて、リース取引がなかったものとして利益や純資産を修正して評価する案が示されている。

オペレーティングリースについて「契約期間全体でみれば売却益と減価償却費が相殺される一方、相続税では評価時点という一時点で企業価値を評価するため、取引の有無によって税負担に大きな差が生じる可能性がある」と説明している。

さらに、親族役員への過大な役員報酬や、株式評価の直前期に支払う多額の役員退職慰労金についても、利益を圧縮する手段となる可能性があるとして、正常利益の計算上、一定の修正を加える案が示されている。

今回の見直しは単純に「評価方式を変更する」というだけではない。新方式を導入した場合に、企業側が利益や資産をどのように計上しているかについても細かなルールを設ける必要がある。

子会社を持つ企業にも影響か

もう一つの重要な論点が、子会社株式の扱いである。第6回会議では、評価会社が保有する子会社株式について、どこまで修正して評価するのかも検討事項として挙げられている。

中堅・中小企業でも、事業の多角化やM&Aなどによって複数の子会社を抱える企業は少なくない。

中小企業庁は今回の意見書で、国内外に子会社を持つ企業や、地域の技術承継などを目的としてM&Aで会社を承継したケースなどを念頭に、子会社株式の評価方法によっては評価額が現行より著しく増大する懸念があると指摘している。単独の会社だけを経営する企業に限らず、グループ経営を行う中堅・中小企業にも関係する論点となる。

中小企業庁「まずは影響を具体的に検証すべき」

では、中小企業庁は具体的に何を求めているのだろうか。

中小企業庁は今回の意見書で、会計検査院の指摘について「異なる規模区分間の公平性に関する課題を指摘したものであり、規模区分に応じて評価方式を分けること自体や、類似業種比準方式そのものが不適切だとまでは指摘していない」と整理している。

また、国税庁が問題視する「恣意的な会社規模の変更による評価額圧縮」などの租税回避スキームについても、過去10年間で確認された件数は14件にとどまるとしている。

こうした点を踏まえ、中小企業庁は、抜本的な評価体系の見直しに先立って「まずは現行の評価方式の枠内で取り得る対応策から検討する余地がある」と主張している。

そのうえで求めているのが、評価額が変動した場合に事業承継へどのような影響が出るのかを具体的に検証することである。

意見書では、全国に中堅・中小企業が約175万社(法人数)存在するとしたうえで、業種や経営状況などに応じた「個別具体的なケース別、類型別及びマクロでの分析・試算」を行い、どのような事業者にどの程度の負担増となるのかを把握できるようにすべきだとしている。

さらに、事業承継税制についても、中堅企業は対象外であり、中小企業についても長期にわたる管理コストなどから利用できる企業が限られている実態を踏まえる必要があるとしている。

「評価の公平性」と「事業承継」の両立が焦点

今回の見直しの背景には、会計検査院が指摘した現行制度の課題がある。

会計検査院は、規模の大きな会社ほど類似業種比準方式によって純資産価額に比べて相対的に低い評価となる傾向を指摘した。国税庁の有識者会議も、この点を踏まえ、異なる規模の会社間で生じている評価の相対的不公平を是正する方向で検討を進めている。

一方、新しい評価方式によって企業によっては評価額が大きく上昇する可能性があり、その場合には相続税・贈与税の負担を通じて事業承継に影響する可能性がある。

つまり、今回の議論は「評価額を上げるか、下げるか」という単純な問題ではない。現行制度にある評価の公平性の問題や租税回避への対応と、企業の成長や円滑な事業承継をどう両立させるか。ここが今回の見直しにおける大きな論点となる。

見直しはまだ決定ではない…今後の議論に注目

国税庁は第6回会議で、残余利益方式について、予測利益の考え方、加算期間、含み損資産の扱い、オペレーティングリースや役員報酬などによる利益操作への対応、子会社株式の修正範囲など、かなり具体的な論点を提示している。

一方、還元率については第7回会議以降での検討事項とされている。残余利益方式を実際の税務上の評価方法として導入するには、まだ詰めるべき論点が残されている。

中小企業庁も今回の意見書で、見直しによる影響を十分に分析・検証したうえで、関係者の理解が得られるよう時間をかけて議論することを求めている。

現時点で新たな評価方式が決定したわけではない。しかし、今回の議論は非上場企業の経営者にとって、将来の自社株の評価額、そして事業承継時の相続税・贈与税負担に関わる重要な問題である。

「会社を成長させること」と「将来の事業承継」をどう両立させるのか。国税庁が進める非上場株式の評価見直しは、今後の中小企業経営にも影響を及ぼす可能性があるだけに、引き続き議論の行方が注目される。

(参考資料)

「取引相場のない株式の評価」見直しに係る意見(中小企業庁)

取引相場のない株式評価に関する有識者会議(第6回)(国税庁)

令和5年度決算検査報告(会計検査院)

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班