【レスリング】吉田沙保里を育てた栄和人氏、モンゴル代表総監督として参加 藤波朱理に挑戦状「大番狂わせ狙う」…アジア大会、30日からレスリング競技
愛知・名古屋アジア大会のレスリング競技は30日から始まる。大会終盤にメダル量産を狙う日本勢から、大番狂わせの勝利を虎視たんたんと狙っている日本人の名伯楽がいる。吉田沙保里ら延べ14人の五輪女子金メダリストを育てた元日本協会強化本部長の栄和人氏(66)だ。
2028年ロサンゼルス五輪で、モンゴル初の五輪金メダリスト誕生を依頼され、昨年7月に代表チームの総監督に就任。今夏に行った同国首都ウランバートルで約40日間の追いこみ合宿を終えて24日に帰国し、27日からは愛知県内でアジア大会に向けて選手らの最終調整を始めた。28日夜にはアジア大会のために来日中のモンゴルのオチラル首相(左)と愛知県の大村秀章知事との会談にも呼ばれ、激励を受けた。
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大会終盤にさしかかったアジア大会のレスリング競技が30日から始まる。27日から愛知県内で最後の調整を行っているモンゴル代表チームの中心で栄氏が選手たちに気合を注入している。
昼は20度、明け方は氷点下にまで気温が落ち込む寒暖差の激しいモンゴルの首都で栄氏は“第2の虎の穴”の礎を築いている。
ロス五輪の試金石は32年ぶりに日本で開催されているアジア大会でのメダル獲得。大会閉会式前日の競技最終日となる10月3日まで実施されるレスリングで、モンゴルはフリースタイル男女各6階級に出場し、栄氏は全試合のセコンドにつく。
「モンゴルの世界的な実力は6~7番手。だからアジア大会はモンゴルにとって現在地を探る大会」といい、「日本に勝てたらいいね。勝ちたいね」と、自身が築いたレスリング大国へ、挑戦状を送った。
栄氏にとっても挑戦だ。昨年3月、約25年指導した女子の名門、至学館大監督を退任。モンゴルレスリング協会会長を務めた経験がある大相撲の元横綱・朝青龍氏が聞きつけ「代表監督を引き受けてほしい」と打診した。栄氏は一度は断った。それでも引き下がらない協会の熱意に押され「一度見てみるか」と、同年7月に渡航した。
歓迎ムードに包まれ応接室でなごんでいると、目の前に出てきたのはロス五輪まで総監督を務める趣旨の契約書。断れない空気にのみ込まれ「ついついサインしてしまった」という。代表監督の重圧を高齢の体で耐えられる自信もなく、帰国後、「俺の練習“昭和のトレーニング”についてこれなかったら断ろう」と決意し、再び渡航。過呼吸を起こしてなお必死になってきつい練習をこなす選手たちの根性に驚いた。「その姿を見て思ったね。俺が金メダルを取らせる!と。その覚悟を決めましたよ」。くすぶっていたレスリング愛に着火。この1年で6度、渡航し心技体を教えている。
10月3日は最終種目の女子57キロ級だ。日本選手団旗手を務め、約9年間無敵、153連勝中の藤波朱理(22)=レスター=が登場する。24年パリ五輪で藤波は53キロ級を制覇。階級を1つ上げ、2階級制覇を狙うロス五輪に向け、国際大会で初めて57キロ級に臨む。栄氏も「藤波はべらぼうに強いけど大番狂わせを起こしたいね」と虎視たんたん。「刺客」はパリ五輪2回戦で藤波に敗れた26歳のフラン・バトフヤグだ。藤波と同じ階級に主戦場を変えてアジア大会に挑む。「勝ったらアレがしたいね」と栄氏。アレとは五輪マットで吉田沙保里が栄氏を担いだ肩車ウィニングランだ。「会場からペットボトルが飛んでくるかな」と笑った。(小河原 俊哉)
〇…この1年でモンゴルに6度渡航している栄氏は8月17日から今月24日までの40日間、ウランバートルに滞在し最後の追いこみを行ってきた。今月9日にはウランバートルで、親交のあるモンゴル出身の元横綱・日馬富士のダワーニャム・ビャンバドルジ氏に講話を依頼。元横綱は、現役時代に父が他界し引退を考えた際、母から「相撲を続けることが父への、周囲への恩返し」と諭され、続行した逸話を語った。栄氏は「選手も熱心に聞き入っていました。スポーツは勝つことだけではない、その大切さを感じてほしかった」と話した。
◆栄和人(さかえ・かずひと)1960年6月19日、鹿児島・奄美市生まれ。66歳。鹿児島商工高(現樟南高)、日体大卒。男子フリー62キロ級で87年世界選手権銅、88年ソウル五輪代表。日本レスリング協会で女子代表ヘッドコーチ、女子強化委員長、強化本部長を歴任。25年3月に退任した至学館大で約25年指導し吉田ら五輪メダリストを輩出。25年7月からモンゴル代表総監督。
◆栄氏と日本女子レスリングの五輪 2004年アテネ大会から正式種目に追加。24年パリ五輪までの6大会で通算19個の金メダルを獲得し、銀と銅を含むメダル獲得総数は26個と量産。後の五輪4連覇・伊調馨含め、3連覇の吉田沙保里、登坂絵莉、土性沙羅、川井梨紗子(現・金城姓)、川井友香子、向田真優(現・志土地姓)ら栄氏が直接指導した選手が獲得した金メダル総数は延べ14個を数え、銀と銅を含む教え子たちのメダル獲得総数では19個と、世界最強のレスリング大国の礎を築いた。
