(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

「世帯年収1,500万円あれば余裕」と、約1億円のタワマンを購入した共働き夫婦。しかし、妻の介護離職による収入減や金利・教育費の上昇が重なり、毎月39万円近い住居費が家計を圧迫します。本記事では、タワマン購入から7年が経過した51歳男性の事例をもとに、老後破綻を防ぐための住宅ローン返済の考え方をAFPの武田拓也氏が解説します。

「世帯年収1,500万円だから余裕」1億円のタワマンを購入

会社員のケンジさん(仮名・51歳)がタワーマンションを購入したのは、7年前のことです。

当時、44歳のケンジさんは、妻・メグミさん(仮名・当時42歳)と、高校1年生の長女との3人暮らしでした。ケンジさんの年収は900万円、メグミさんの年収は600万円。世帯年収は1,500万円あり、夫婦の預貯金と運用資産の合計は約2,500万円でした。

それまで住んでいた賃貸マンションの家賃は月18万円です。近隣の住宅価格が上昇しているのを見て、夫婦は次第に「これ以上値上がりする前に、家を買ったほうがよいのでは?」と考えるようになりました。

ある日、駅前に建設された新築タワーマンションのモデルルームを訪れました。共用ラウンジやゲストルーム、24時間利用できるゴミ置き場などの設備に魅力を感じ、「ここなら理想の暮らしができる」とすっかり舞い上がった夫婦。勢いに乗って、約1億円のマンションを購入することにしました。

「定年後まで返済が続くのは少し不安だけど、世帯年収が1,500万円もあれば余裕だろう」
「家計に余裕もあるし、途中で繰上返済していけるだろう」

こうしたケンジさんの考えのもと、自己資金として1,500万円を入れ、残る9,000万円を変動金利型の住宅ローンで借りました。借入期間は35年。44歳で契約したため、ローンの完済予定年齢は79歳です。

月々の住居費は「月38.5万円」でも…「収入も増えるだろう」と楽観視

借入額9,000万円、返済期間35年、当初金利年0.9%、元利均等返済、ボーナス返済なしで試算すると、毎月の返済額は約25万円です。

ところが、タワーマンションで必要になる住居費は住宅ローンだけではありません。

住宅ローン:25万円

管理費・修繕積立金:6万円

駐車場代:3万5,000円

固定資産税保険料の月割額:4万円

合計:38万5,000円

それまでの家賃18万円と比べると、住居関連費は月20万円以上増えています。それでも購入当初は共働きで収入が多く、ボーナスもあったため家計が赤字になることはありませんでした。

ケンジさんは「収入も少しずつ増えるだろう」と、楽観的に考えていたのです。しかし、現実は思い描いていた通りにはいきませんでした。

妻の介護離職と金利上昇…崩れていくローン返済計画

タワーマンション購入から3年後、メグミさんの母親に介護が必要となりました。仕事と介護の両立が難しくなったメグミさんは勤務時間を減らした結果、年収は600万円から約250万円に減少。世帯年収は1,500万円から1,150万円に下がりました。

また、長女の私立大学進学が決まり、入学金や授業料、通学費などの教育費も増加しました。そして同時期に、変動金利型の住宅ローン金利も上昇し始めたことに加え、管理費と修繕積立金も合計月6万円から8万円へ上がり、住居関連費は上がる一方です。

家計が厳しくなってきたため、ケンジさん夫婦は毎月の積立投資を中止しました。旅行や外食も減らし、ケンジさんのボーナスは住宅ローンと教育費の補填に消えていきます。それでも足りない月は、マンション購入後に残していた預貯金を取り崩しました。

「この家のローンを払うために…」思い詰めた妻のひと言で“苦渋の決断”

ある日、思い詰めた表情をしたメグミさんが、ケンジさんにポツリとこぼしました。

「私たち、この家に住むためというより、この家のローンを払うために働いているみたい。母の介護にもお金が必要だし、私たちの老後資金はどうするの……」

メグミさんの言葉を聞いて将来に対する不安を目の当たりにしたケンジさんは、65歳時点の住宅ローン残高を確認しました。当初の住宅ローン金利が変わらない前提で計算しても、65歳時点の残高は約3,900万円です。

退職金で完済することも考えましたが、ケンジさんの退職金見込額は約2,500万円です。住宅ローンの返済に使えば、老後の生活資金が残りません。

「このまま家計の赤字が続けば、いずれ破綻する。せめて高く売れるうちに手放すしかないか……」

苦渋の決断の末、ケンジさんは購入から7年目にタワーマンションの売却を決意。複数の不動産会社へ査定を依頼し、郊外の中古マンションへの住み替えへと踏み切ったのです。

銀行が9,000万円を貸してくれたから、自分たちなら返せると思っていました。でも、『借りられる金額』と『老後まで無理なく返せる金額』は、まったく違ったのですね」

幸い、ローンが残らない金額で売却ができましたが、ケンジさんは購入時の判断を後悔しました。

利用者の平均年齢は43.3歳…老後まで返済が続く「住宅ローン」

住宅金融支援機構の『2025年度フラット35利用者調査』によると、利用者の平均年齢は43.3歳です。1ヵ月あたりの予定返済額は平均12万3,800円、平均総返済負担率は22.8%となっています。

住宅ローン審査で使われる返済負担率は、基本的に現在の年収をもとに計算されます。しかし、現在の収入が定年後も続くわけではありません。

共働き夫婦の場合、どちらかの収入が減っただけで家計が苦しくなることがあります。病気、介護、子どもの進学、転職など、40代以降には働き方が変わる要因がいくつもあります。

住宅購入時には「夫婦が現在の年収で働き続けるケース」だけでなく、「収入が減少するケース」でも返済できるか確認する必要があります。

年金生活での返済は困難…「退職金で完済」の危険性

2026年度の標準的な厚生年金額は、夫婦2人分の老齢基礎年金を含めて月額23万7,279円です。ただし、これは平均的な収入で40年間就業した場合のモデルであり、実際の受給額は加入期間や収入によって異なります。

今回の夫婦のように、65歳以降も月25万円以上の住宅ローン返済が残っていれば、年金だけで返すことは困難です。

老後には住宅ローン以外にも、固定資産税、管理費、修繕積立金、医療・介護費などがかかります。「退職金で完済すればよい」と安易に考えるのは危険です。

繰り上げ返済と手元資金、どちらを優先すべきか?

繰り上げ返済をすれば、住宅ローンの元本と将来の利息を確実に減らせます。特に完済年齢が70歳を超える場合は、期間短縮型の繰り上げ返済によって定年前後の完済を目指すことが有効です。

ただし、手元資金をすべて繰り上げ返済に回してはいけません。一度返済したお金は、病気や介護、教育費が必要になっても簡単には戻せないからです。

繰り上げ返済を行う前に、少なくとも以下の資金を確保しておく必要があります。

・収入減や失業に備える生活予備資金

・子どもの教育資金

・住宅の修繕、リフォーム資金

・親の介護に備える資金

・夫婦の老後生活資金

「借りられる金額」と「無理なく返せる金額」は違う

高額な住宅を購入できる収入があることと、老後まで無理なく返済できることは同じではありません。世帯年収が高くても、高額な住宅ローン、教育費、親の介護、自分たちの老後資金が重なれば、家計に余裕はなくなります。

低金利の固定ローンで、十分な金融資産があり、年金や継続雇用収入から無理なく返済できるなら、手元資金を残す選択肢もあります。一方で「退職金を使い切らなければ完済できない」「夫婦の収入が減ると返済できない」「65歳時点の返済額が年金収入を上回る」という場合は、借入額や物件価格そのものを見直す必要があります。

高額なタワーマンションを購入してから後悔しないためにも、40代の今から老後までの返済予定表を作り、住宅ローン、教育費、老後資金など将来の支出を含めて確認しておきましょう。

武田 拓也
AFP

※プライバシー保護の観点から、実際の相談者および相談内容を一部変更しています。