「重症筋無力症」で”筋力が低下する理由”はご存じですか?医師が解説!
重症筋無力症の原因は自己抗体による神経筋接合部への攻撃です。なぜ筋力が低下するのか、そのメカニズムを詳しく解説します。
※この記事はメディカルドックにて『中高年で増えている「重症筋無力症の原因」とは?筋力低下の理由も医師が解説!』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。
監修医師:
高宮 新之介(信州大学医学部附属病院 呼吸器外科)
昭和大学(現・昭和医科大学)卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、日本外科学会専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事する中、医学博士を取得。昭和大学横浜市北部病院(現・昭和医科大学横浜市北部病院)呼吸器センターを経て、現在は信州大学医学部附属病院 呼吸器外科に勤務。肺がんを中心とした呼吸器外科診療、低侵襲手術、肺がん術後QOL、術前心理状態と術後疼痛に関する研究に取り組む。日本外科学会専門医、日本呼吸器外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。
重症筋無力症とは

重症筋無力症は、神経と筋肉のつなぎ目である神経筋接合部において、情報の伝達が障害されることで筋力が低下する自己免疫疾患です。
本来、私たちの身体に備わっている免疫システムは、外部から侵入したウイルスや細菌などの異物を認識し、それらを排除することで身体を守る大切な働きを担っています。しかし、何らかの理由でこの免疫システムのコントロールが乱れると、免疫細胞が誤って自分自身の正常な組織を敵とみなし、攻撃してしまうことがあります。これを自己免疫疾患と呼びます。重症筋無力症は、まさにこの自己免疫の異常によって引き起こされる病気です。
重症筋無力症の原因

重症筋無力症の直接的な原因は、体内で作られる自己抗体が神経と筋肉のつなぎ目を攻撃してしまうことです。
健康な状態であれば、免疫系は自己と非自己を正確に見分けます。しかし、重症筋無力症の患者さんの体内では、この見分ける仕組みが破綻し、筋肉の表面にある特定のタンパク質を標的とする自己抗体が作り出されます。この自己抗体が、脳からの指令を筋肉に伝えるシステムを妨害することで、筋力低下の症状が引き起こされます。
重症筋無力症で筋力が低下する理由

神経から筋肉への運動の指令を伝える物質の受け渡しが、自己抗体によって邪魔されてしまうからです。
重症筋無力症の患者さんの体内では、前述した自己抗体がこの一連のプロセスを徹底的に阻害します。抗AChR抗体が存在する場合、筋力低下を引き起こす仕組みとして以下の3つが挙げられます。
受容体の破壊
受容体の機能阻害
受容体の減少促進
健康な状態であれば、神経から放出されるアセチルコリンの量は、筋肉を動かすのに必要な量よりもはるかに多く設定されており、情報の伝達には安全域と呼ばれる余裕があります。しかし、重症筋無力症では受け皿となる受容体が極端に減っているため、この安全域が完全に失われています。
重症筋無力症の原因についてよくある質問
ここまで重症筋無力症の原因を紹介しました。ここでは「重症筋無力症の原因」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
重症筋無力症は誰でも発症する可能性がありますか?
高宮 新之介 医師
はい、年齢や性別にかかわらず、誰もが発症する可能性のある病気です。前述のとおり、重症筋無力症は現在、50歳以上の高齢の方での発症が増えていますが、乳幼児からお年寄りまで幅広い世代で診断される病気です。自分には無縁だと考えることはできません。
一部の患者さんでは、ご家族の中に何らかの自己免疫疾患を持つ方がいるケースも見られますが、親から子へ直接的に遺伝する典型的な遺伝性疾患ではありません。遺伝する特殊な筋無力症もごくまれに存在しますが、一般的な自己免疫性の重症筋無力症が親から子へ遺伝することはないとされています。
重症筋無力症を予防することはできますか?
高宮 新之介 医師
発症そのものを防ぐことは現在の医学では困難ですが、発症後に症状の悪化を防ぐことは十分に可能です。なぜある日突然、免疫システムが自分自身を攻撃し始めるのか、その根本的なスイッチが入る理由はまだ完全には解明されていません。そのため、重症筋無力症の発症を未然に防ぐ方法である一次予防は、残念ながら存在しません。
編集部まとめ

重症筋無力症は、自己免疫の異常によって神経から筋肉への指令が伝わらなくなる病気です。適切な治療と生活の工夫でコントロールすることが可能です。
本記事で詳しく解説したとおり、重症筋無力症は抗AChR抗体や抗MuSK抗体といった自己抗体が原因で引き起こされる厚生労働省の指定難病です。多くの患者さんにおいて、免疫を司る胸腺の異常が発症の背景に存在しています。患者数は年々増加傾向にあり中高年や高齢の方の発症が目立つようになっています。
根本的な原因を完全に取り除くことは難しいものの、現在の医療では多様な治療法が確立されています。また、指定難病の特定医療費助成制度や、必要に応じて障害者手帳、介護保険制度などの公的支援を積極的に活用することで、経済的、精神的な負担を大きく軽減することができます。自分一人で抱え込まず、医師や看護師、医療ソーシャルワーカーなどの支援機関、そして家族と協力しながら、前向きに長期的な治療に向き合っていくことが大切です。
重症筋無力症と関連する病気
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する病気
胸腺の異常(胸腺腫、胸腺過形成や肥大)
甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病など)
関節リウマチそのほかの自己免疫疾患
重症筋無力症と関連する症状
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
筋力低下と易疲労性(疲れやすく、繰り返し動くと悪化し、休むと回復しやすい)
眼瞼下垂(まぶたが下がる)
複視(物が二重に見える)
話しにくい(構音障害)
飲み込みにくい(嚥下障害)
噛みにくい(咀嚼障害)
首や手足の筋力低下
夕方に悪化しやすい(日内変動)
日によって症状の強さが変わることがある
呼吸が苦しくなる(重症例)
参考文献
『重症筋無力症(指定難病11)』(難病情報センター)
『重症筋無力症 概要・診断基準等』(難病情報センター)
『Gravis病を合併した重症筋無力症の外科治療』(J-STAGE)
『重症筋無力症の疫学調査結果』(日本医事新報社)

