新NISA「9割脱落」は本当なのか?…長期投資を辞めてしまう人の「6つの共通点」【FPが解説】
2024年に新NISAが始まって以降、NISAを利用する人は着実に増えています。一方で、「投資信託の平均保有期間は3年未満」といったデータもあり、「多くの人が途中で運用をやめてしまう」という指摘も見受けられます。しかし、これらのデータは本当に実態を反映しているのでしょうか。本記事では、YouTubeチャンネル登録者数40万人超の人気FP・鳥海翔氏が、長期投資にまつわる誤解と、資産形成を挫折せずに続けるための実践的な考え方について解説します。
長期投資を辞めてしまう人の「6つの共通点」
まずは、一般的に長期投資を途中で辞めてしまう人にみられる共通点を整理します。
1.シミュレーション通りにならない
多くの人は、金融庁の公式サイトにあるツールなどを用いて、毎月の積立額や想定年利を設定し、将来の資産増加を描いて期待をしてNISAを始めます。しかし、実際の相場は一直線に上昇することはなく、価格の上下動を繰り返します。開始早々にマイナス評価となると、理想との差に耐えかねて売却してしまいます。
2.本当の暴落に耐えられない
リーマンショックのように、資産が半減するような大幅な下落が1年以上続いた場合、恐怖から損失を確定させるために売却へと走ってしまいます。
3.「横ばい相場」に耐えられない
大幅な暴落よりも、わずかな上下を繰り返して一向に資産が増えない横ばいの時期のほうが、投資家にとっては精神的に厳しい局面となります。数年間が経過してもほとんど成果が出ないと、「資金を別の用途や別の投資商品に回したほうが有益ではないか」という迷いが生じ、結果として運用をやめてしまいます。
4.損失に敏感
行動経済学において、人間が受ける損失の精神的インパクトは、同額の利益から得られる喜びの2倍以上あるといわれています。このマイナスに対する過敏な反応により、市況が悪化した際、合理的な判断力を失って売却を選択しやすくなります。
5.周囲の意見に流される
家族からの反対や、SNS・ニュースで報じられる市場への不安を煽る情報に流されることで、自身で決めた長期投資の方針を維持できなくなります。
6.「利益が出ている局面」に売りたくなる
たとえば、50万円の投資に対して60万円に増えた場合、「いま売却すれば10万円の利益を確実に手にできるが、持ち続ければ元本割れするかもしれない」という不安が生じます。目先の利益を守りたいという衝動が、長期的な複利効果を妨げる原因となります。
大手証券会社のデータが証明する「NISA継続率の高さ」
SNSやメディアでは「長期投資は難しく、9割が途中でやめて脱落する」といった過激な言説が飛び交っていますが、公的な統計や実態調査に明確な根拠はありません。
2024年の新NISA開始後における大手証券会社7社をベースとした調査データによると、NISA口座における継続保有率は86.1%に達しています。さらに、日本証券業協会の調査においても、購入後に1銘柄も売却していない人の割合は79.5%を占めています。
これらの数字が示す通り、投資信託を購入した人たちのうち、実に約8割から9割近くが、脱落することなく着実に運用を継続しているのが実態です。
「平均保有期間3年未満」という統計データの落とし穴
これほど多くの人が投資を継続している事実があるにもかかわらず、「投資信託の平均保有期間は3年未満であり、長期投資を続けるのは困難である」というデータが金融庁のレポートをはじめ、様々なメディアで紹介されています。
しかし、この公表されている統計自体が、投資家の実際の保有状況を正しく反映していません。
そもそも、この数値を発表している投資信託協会は、一人ひとりの投資家が実際に何年間保有していたかを個別に入力して集計しているわけではありません。その計算式は、以下のような極めて大ざっぱな算出方法に基づいています。
平均残高(全体の運用残高)÷1年間で解約された額(解約額)
この計算式を実際の数値に当てはめると、明らかな矛盾が生じることになります。たとえば、純資産総額が1,000億円のファンドがあり、年間で200億円分が売却されたとします。この場合、1,000億を200億で割った結果、平均保有期間は「5年」と算出されます。
計算自体は間違いではないものの、これが本当に「個々の投資家が保有している期間の平均値」であるかというと、決してそうではありません。
さらに致命的なのは、設定されてから1年しか経過していない新しい人気ファンドを想定した場合です。運用が始まってから1年しか経っていないため、物理的にすべての投資家が最長でも1年未満しかその商品を保有できません。
しかし、このファンドの平均残高が1,000億円あり、この1年間の解約額が100億円だったとします。この状況を計算式に当てはめると「1,000億円÷100億円=10」となり、存在して1年しか経っていない商品であるにもかかわらず「平均保有期間10年」という“あり得ない数値”が弾き出されてしまいます。
実際に、ファンドそのものの設定期間よりも計算上の平均保有期間のほうが長くなるという異常値を示した投資信託は、過去の集計(2022年3月末)において1,100本以上確認されています。
このように、メディアで取り上げられる「平均保有期間3年未満」という数字は、単なる計算手法上の不備に起因する不正確なデータであり、投資家が次々と脱落しているという証拠にはなりません。
「長期投資は困難」と不安を煽ることで利益を得る人々の思惑
では、なぜ明確な根拠が存在しないにもかかわらず、「長期投資は難しい」「ほとんどの人が途中でやめる」という言説が執拗に繰り返されるのでしょうか。そこには、情報提供者側の都合やビジネス上の思惑が存在します。
情報を配信する立場からすると「9割が脱落する」とセンセーショナルに危機感を煽った方が、インパクトが強く、世間の注目を集めやすいという事実があります。
また、個人投資家に自分自身の判断で投資を継続されては困る、金融機関側の都合も関係しています。「インデックスを自分で購入して長期投資し続けるのは、値動き(ボラティリティ)が激しく、自身のメンタルが持たないので無理である」という認識を植え付けることで、別の投資商品を提案することが可能になります。
具体的には、手数料の高いラップファンドやバランスファンドといった、人の手が入った自社の商品を契約させたい保険会社や証券会社にとって、「長期投資は自分では継続できない」というストーリーは極めて好都合なのです。
長期投資を成功させるための「3つ」のアプローチ
周囲のノイズに惑わされず、新NISAの仕組みを活用して長期投資を軌道に乗せるためには、根拠に基づいた以下の3つの具体的な考え方を導入することが重要です。
1.小さな成功体験
5年間で50万円から100万円規模の「小さな成功体験」を一度経験することです。 たとえば、毎月5万円を5年間コツコツと積み立てると、投資元本はトータルで300万円になります。これを年利5%で運用できれば約340万円、年利10%であれば約380万円へと成長します。
5年間という現実的なスパンを通じて、瞬間的な急騰ではなく、時間の経過とともに確実に数十万円単位で資産が増えていく経験を積んだ投資家は、その後に一時的な下落局面が訪れても決して動揺して売却することはありません。この最初の成功体験を得ることが、投資継続のカギとなります。
2.現金の保有
2つ目は、投資額の最適化だけでなく「十分な現金保有」を優先することです。
投資を途中で断念する直接の原因は、必ずしも株価の暴落や投資家のメンタルの弱さだけではありません。日常の生活費や突発的な出費に対する現金が不足した結果、保有している投資信託を売却せざるを得ない状況に追い込まれるケースが多々あります。
長期投資を安全に行うためには、最低でも生活費の6ヵ月分から1年分に相当する現金を確保し、これに手をつけない前提で、残りの余剰資金のみを投資に回す体制を維持することが不可欠です。
3.未来目線で投資する
3つ目は、目線を現在の価格推移ではなく「5年、10年先の将来」に固定することです。
口頭では「長期投資」と主張しながら、日々の細かな株価の変動に一喜一憂している人は非常に多いです。今日明日の増減に一喜一憂するのをやめ、意識的に「5年後、10年後には確実に成長している」という長期的な視野を持ち続けることが、余計な感情に流されずに資産を育て上げる最良の方法といえます。
新NISAを利用した長期投資は、巷で煽られているほど難しいものではありません。むしろ、誰でも容易に実行できる合理的な行動です。
統計データの不正確な解釈や市場のノイズに惑わされることなく、しっかりとした現金の確保と長期的な視点を持つことで、誰でも確実に資産を増やしていくことが可能です。日々の値動きから距離を置き、将来の健全な資産形成を目指して着実に歩みを進めていきましょう。
鳥海 翔
株式会社Challenger 代表取締役
FP(ファイナンシャル・プランナー)/投資家
※本連載は、株式会社Challenger 代表FP(ファイナンシャル・プランナー)で投資家の鳥海翔氏のYouTube動画を再編集したものです。
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