広い戸建てを売り、駅前タワマンへ--〈年金月33万円・貯蓄4,500万円〉73歳夫婦が住み替え後に手に入れたもの
長年暮らした持ち家は、年齢を重ねても安心して暮らせる住まいとは限りません。子どもが独立すれば必要な部屋数は減り、車の運転や庭の手入れが負担になることもあります。老後の住み替えでは、家そのものの広さより、買い物や通院のしやすさなど、日々の暮らしを支える環境が重要になることがあります。
「この家に、あと10年住む?」夫婦が考え始めた戸建ての先
隆さん(仮名・73歳)と妻の美代子さん(仮名・71歳)は、夫婦合わせて月約33万円の年金で暮らしています。金融資産は約4,500万円あります。
2人がそれまで暮らしていたのは、30代で購入した郊外の4LDKの一戸建てでした。
2人の子どもはすでに独立し、住宅ローンも完済。長く暮らした愛着のある家でしたが、60代後半から少しずつ不便を感じるようになりました。
使っているのは1階のリビングと和室が中心で、2階の子ども部屋に上がるのは掃除のときくらい。庭の草取りや落ち葉の掃除もあります。
それ以上に気になっていたのが、車が欠かせないことでした。スーパーまでは車で10分ほど。最寄り駅まではバスを利用します。
ある日、買い物から帰った美代子さんが言いました。
「私たち、この家にあと10年住む?」
今は運転できても、80歳になったときも同じ生活ができるとは限りません。一方、家を売るとなれば、長年暮らした場所を離れることになります。
総務省『令和5年住宅・土地統計調査』によると、高齢者のいる夫婦のみの世帯では87.6%が持ち家に住んでいます。
夫婦が住み替えを具体的に考え始めたのは、駅前の中古マンションを見に行ったことがきっかけでした。
そのなかで目に留まったのが、駅から徒歩3分ほどのタワーマンションです。築15年ほどで、部屋は60平方メートル台の2LDK。スーパーやドラッグストアは徒歩圏内で、駅前にはクリニックもあります。
「タワマンなんて私たちには必要ないと思ってた」
美代子さんは最初、そう話していました。ところが、実際に内覧して印象が変わりました。
エレベーターで部屋まで移動でき、室内には大きな段差がありません。ゴミも建物内の決められた場所に出せます。
夫婦が魅力を感じたのは高層階からの眺望ではなく、「日常生活のほとんどが徒歩圏内で済むこと」でした。
国土交通省『令和5年住生活総合調査』でも、今後の住み替え意向がある65歳以上の夫婦世帯では、住宅について「高齢者への配慮(段差がない等)」、周辺環境について「日常の買物などの利便」が重視されています。
夫婦は戸建てを売却し、駅前の中古タワーマンションを購入しました。諸費用などはかかりましたが、住宅の売却代金を購入費の中心に充てたため、老後資金を大きく取り崩さずに住み替えることができました。
スーパーまで徒歩数分…駅前タワマンで変わった夫婦の日常
引っ越して間もないころ、隆さんは何度も「狭くなったな」と口にしていました。4LDKの戸建てから2LDKです。家具や荷物もかなり処分しました。
しかし、数ヵ月たつと、別の変化に気づきました。
ある朝、美代子さんが「牛乳がない」と言うと、隆さんは「じゃあ買ってくる」と財布だけを持って家を出ました。
スーパーまでは歩いて数分です。以前なら、牛乳一つのために車を出すことはなく、次の買い物まで待っていたでしょう。
美代子さんも、電車で友人と出かける機会が増えました。以前は夫に駅まで送ってもらうか、バスの時間に合わせて家を出ていましたが、今は思い立った時間に歩いて駅へ向かえます。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』では、現在の地域で不便に感じることとして、「日常の買い物に不便」が23.9%、「医院や病院への通院に不便」が23.8%、「交通機関が高齢者には使いにくい、または整備されていない」が21.5%となっています。
もちろん、戸建てからマンションへの住み替えには新たな負担もあります。
毎月の管理費や修繕積立金がかかり、駐車場代も必要です。夫婦は購入前に、年金収入の範囲でどこまで固定費を負担できるかを確認しました。
それでも隆さんは、「前の家のほうが広かったし、庭もあった。でも今のほうが生活できる範囲は広い」と話します。
夫婦は車もすぐには手放していません。ただ、利用する回数は大幅に減りました。将来的に運転をやめても、この場所なら生活を大きく変えずに済みそうだと考えています。
高齢期の住まいに何を求めるかは、人によって異なります。広い戸建てを維持することが合う人もいれば、マンションへ住み替えることで暮らしやすくなる人もいるでしょう。
重要なのは、今の家で暮らせているかだけでなく、5年後、10年後にも同じ生活を続けられるかという視点です。隆さん夫婦が住み替えによって手に入れたのは、タワーマンションという住まいそのものより、車や家の管理に縛られず、自分たちで出かけられる生活でした。

