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40年前に別居し、その間連絡も途絶えていた配偶者。当人たちにとっては、何十年も前に「終わった関係」であったとしても、法律上の婚姻関係を解消しない限り、戸籍の上での夫婦関係は維持されます。今回は、そんな「戸籍上だけの配偶者」の存在が、相続税申告の際に思いがけない影響を及ぼした事例を紹介します。 

「別居親族の特例」とは?適用の条件は“配偶者がいないこと”

相続税には、亡くなった方が住んでいた自宅の土地について、一定の要件を満たせば評価額を大きく下げられる「小規模宅地等の特例」という制度があります。同居していた家族はもちろんのこと、別居していた家族にも条件付きで認められる、「別居親族の特例」もあります。

ただし、この「別居親族の特例」では、亡くなった方に配偶者がいないことが要件となり、配偶者がいる場合には適用されません。しかし、その配偶者が何十年も前から別居しており、しかも相続放棄までしていたような場合でも、配偶者として扱う必要はあるでしょうか。

事例の概要

父親の死後、相続税の申告をすることになったAさん。故人と住居を別にしていたAさんは、生前、父が一人で暮らしていた自宅の土地について、自分は「別居していた親族」として小規模宅地等の特例を適用できると判断し、相続税の申告をしました。

ところが、税務署は、Aさんの父親に配偶者がいる以上、この特例は適用できないと判断。たしかにAさんの父には配偶者がいましたが、40年以上にわたって別居し、その間、連絡を取ったこともありませんでした。離婚の届出をしなかったため、法律上の婚姻関係だけは残っていましたが、父親が亡くなった際に、この配偶者は相続放棄をしていました。

Aさんは税務署の判断を不服として、国税不服審判所に審査請求をしました。

争点:「相続放棄した配偶者」の特例上の扱い

この裁決で争われたのは以下になります。

長く別居し、相続放棄もしている配偶者は、この特例の適用上「被相続人の配偶者」という扱いに含まれるのか。

税務署の主張

税務署は、法律上の婚姻関係にある者は配偶者として扱うべきであり、相続放棄をしたかどうかは関係がないと主張しました。

相続放棄は、その相続について相続人としての地位を失わせるだけであり、婚姻関係そのものを消滅させるものではありません。

したがって、相続放棄をしても法律上の婚姻関係が残っている以上、その人はなお「配偶者」であるという考え方です。

◆Aさんの主張

これに対しAさんは、特例の適用にあたり、40年以上も別居し、相続放棄までしているような人まで「配偶者」として扱う必要はないと反論しました。

Aさんは、配偶者がいる場合に別居親族の特例を適用できないのは、配偶者の生活や居住を優先して保護しようという考え方が背景にあると考えました。

その考え方に基づくと、40年以上その家で暮らしていない配偶者についても同様に扱う必要があるのか、というわけです。

審判所の判断

国税不服審判所は、Aさんの主張を退けました。

たしかに、相続放棄をすると「相続人」ではなくなりますが、それによって「配偶者」でなくなるわけではありません。

離婚をしていない以上、法律上の配偶者は存在し、別居親族の特例は適用できないこととなります。

さらに審判所は、40年以上の別居という事情についても例外扱いはしません。

この特例でいう「配偶者」の範囲を、夫婦関係の実態によって狭めることは、法律に書かれていない条件で判断することになります。

小規模宅地等の特例は、本来の税負担を政策的に軽減する制度です。そのため、法律に書かれていない個別事情を持ち込んで、特例の対象を広げることはできないと審判所は考えました。

法律上の婚姻関係が続いている以上、配偶者はあくまで「配偶者」であり、Aさんは別居親族として特例を使うことはできないとされました。

まとめ

この事例で興味深いのは、40年以上別居し、最後には相続放棄までしているという事情がそろっていても、「配偶者ではない」というAさんの主張が認められなかったことです。

当人たちからすれば、お互い夫婦である実感はとっくになくなっていたのでしょうが、それでも、法律上の婚姻関係という事実そのものが重視されました。

普段の生活ではほとんど意識していなかった戸籍上の関係が、相続の場面で突然大きな意味を持つことがあります。この事例は、相続における「戸籍の重み」がよく表れた一例といえるのかもしれません。

高橋 創

税理士