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共働き世帯が増えるなか、夫婦それぞれでお金を管理する家庭も珍しくありません。財布を別々にすることで、それぞれが自分のお金を自由に管理できる一方、相手の貯蓄額がわからず、世帯全体の資産状況を把握しにくいという注意点もあります。本記事では、73歳夫婦の事例を通じて、財布を分けて家計管理する際の注意点について、辻本剛士CFPが解説します。

「お互い貯めているだろう」退職金4,000万円・元公務員夫婦の余裕の老後

ヤスノリさん(仮名・73歳)と妻のトシコさん(仮名・73歳)は、駅から徒歩5分ほどの戸建て住宅で二人暮らしをしています。40歳になる一人娘は結婚し、現在は家族とシンガポールで生活しています。

夫婦はともに元国家公務員です。現役時代の年収はヤスノリさんが約800万円、トシコさんが約600万円と、世帯年収は1,400万円ほどありました。

そんなヤスノリさん夫婦が結婚当初から決めていたのが「お互いのお金には干渉しない」というルールです。生活費をそれぞれ負担したあとはお金を自由に使い、貯金額についても確認することはありませんでした。

「これだけ収入があるのだから、お互いそれなりに貯めているだろう」

二人とも、そんな感覚だったといいます。

60歳で定年を迎えた際には、夫婦合わせて約4,000万円の退職金を受け取りました。さらに年金も夫婦で月30万円ほど。「老後にお金で困ることはないだろう」と考え、定年後も金銭感覚が大きく変わることはありませんでした。

国内外への旅行を楽しみ、車を買い替える際には以前から憧れていた高級車を購入。シンガポールで暮らす娘家族のもとにも定期的に足を運び、そのたびに娘への金銭的な支援をはじめ、孫へのプレゼントやお小遣いにも惜しみなくお金を使っていました。

外食や買い物でも、必要以上に節約を意識することはありません。

それでも二人に「使いすぎている」という感覚はありませんでした。退職金も年金もあり、何より「相手もきちんと貯めているだろう」と思っていたからです。

そんな余裕のある老後生活がこれからも続いていく。ヤスノリさん夫婦は、そう信じて疑いませんでした。

「嘘でしょ、貯金これだけ…?」初めて知ったお互いの〈まさかの貯金額〉に愕然

そんなある日のこと、ヤスノリさんは古くなった自宅の設備をリフォームすることに。見積もりは約300万円。夫婦ともにそれほど大きな負担になるとは考えていませんでした。

ところが、ヤスノリさんが思わぬ言葉を口にします。

「300万円か……。少し負担してくれないか?」

すると、トシコさんも「そんなお金、払えないわよ」と突っぱねます。

夫婦で約4,000万円の退職金を受け取っていたはずなのに、なぜ300万円を負担できないのか。互いの貯金額が気になった二人は、この機会に初めて口座残高を見せ合うことにしました。

定年から13年後、ヤスノリさんの預貯金は約400万円、トシコさんは約300万円。夫婦合わせても700万円しか残っていませんでした。

「なんでそれだけしかないの?」

「いやいや、あなたのほうこそ少なすぎるでしょ」

ヤスノリさんは、旅行やシンガポールへの渡航費、高級車への買い替え、家族で出かける際の費用などを負担することが多く「代わりに妻が貯めてくれている」と考えていました。

一方のトシコさんも「夫が貯めてくれている」と思っていました。娘は中学から大学まで私立で、海外留学も経験しています。その教育費をはじめ、日々の生活費や娘・孫への援助などの負担は妻が対応していました。

初めて互いの資産状況を知った二人は口論となり、最後には膝から崩れ落ちるヤスノリさん。お互いに「相手がお金を残してくれている」と思い込んでいたのです。

「このままじゃ、老後生活が持たないぞ……」

自分たちが「老後破綻の入り口」に立っていることに、このとき初めて気づいたのでした。

【CFPが警告】共働きの7割超が該当…「夫婦別財布」が老後破綻の引き金に

共働き世帯において、夫婦が財布を別々にすることは珍しくありません。それぞれが自由に使えるお金を持つことで、お互いのお金に干渉しすぎず、それぞれが自由に管理できるメリットがあります。

オカネコが公表した調査によると、「共働き夫婦の73%が財布は別」という結果になっています。

出典:オカネコマガジン 令和婚夫婦のスタンダードは「共働き」「財布別々」!家計の不安は増加、結婚相手の収入重視傾向も顕著…

一方で、夫婦で財布を分ける際は次のような注意点があります。

・世帯全体でいくら貯まっているのか分かりにくい

・夫婦共通の貯蓄目標を立てにくい

・生活費の分担によっては不公平感が生じやすい

今回のヤスノリさん夫婦も、財布を別々に管理していたこと自体に問題があったわけではありません。

お互いの資産状況を確認せずに、「相手が老後のお金を貯めてくれているだろう」と思い込んでいたことが問題です。その結果、夫婦合わせて十分な収入や退職金があったにもかかわらず、老後資金が想定以上のペースで減っていることに気づけませんでした。

大切なのは財布を別々にしていても、老後に向けて「夫婦でいくら準備するのか」という目標を共有し、定期的にお互いの資産状況を確認することです。

こうした目標に向けて確実に貯蓄を進める方法として、それぞれの口座とは別に夫婦共通の口座をつくり、毎月一定額を老後資金として積み立てるのも有効です。

預貯金残り700万円…73歳夫婦がようやく始めた「お金の話」

その後のヤスノリさん夫婦は、家計の見直しをしました。

家計を確認すると、預貯金は約700万円。年金収入は月30万円ほどある一方、生活費や旅行、買い物、車の維持費、娘や孫への援助などで月50万円ほどを使っており、毎月約20万円の赤字でした。このままでは、単純計算で3年ほどで預貯金が底をついてしまいます。

そこで旅行や外食、買い物を減らし、娘や孫への援助も見直した結果、支出は月35万円程度まで減少。赤字も月5万円程度まで圧縮できました。

それでも、現在の預貯金だけで考えれば約12年で底をつく計算です。今後も夫婦で話し合いながら、支出の見直しを続けていく必要があります。

今回の出来事をきっかけに、それまで避けてきた「お金の話」をするようになったヤスノリさん夫婦。

財布は別々でも、老後の生活は夫婦二人で続いていきます。「相手が貯めているだろう」と任せきりにせず、定期的に資産状況を共有することが、老後の安心につながるでしょう。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP