「兄さん、愛子は今ピラティスの…」絵文字や写真“怒涛のLINE” ロマンス詐欺で925万円奪われた名誉教授(70)が語る自称37歳・愛子に仕掛けられた“4つの罠”

SNSなどを通じて出会った人と実際に直接会うことなくやり取りを続けることで、恋愛感情や親近感を抱かせ、金銭などを騙し取る「ロマンス詐欺」。昨今、高齢者の被害は非常に増えており、いかにして防ぐかが課題となっている。
【映像】自称37歳・愛子からの写真付きLINE(実際のやり取り)
ニュース番組『わたしとニュース』では、ロマンス詐欺の事例を取り上げ、高齢者を狙う巧妙な詐欺の手口と防ぐための対策について弁護士の三輪記子氏とともに考えた。
■70歳の名誉教授が925万円を騙し取られたロマンス詐欺

「『騙される』という発想そのものがなかった。だから『騙されないぞ』というのではなく、そもそも『騙される』ということ自体、考えが抜けていた」そう話すのは、『70歳の法学者が、なぜロマンス詐欺に騙されたのか』の著者、香川大学名誉教授で法学者の高倉良一氏だ。高倉氏は2年前にロマンス詐欺の被害に遭い、騙し取られた額は総額925万円に上る。
なぜ長年教壇に立ち、法学を教えていた高倉氏が騙されてしまったのか。始まりは、過去のFacebookの投稿に興味を持ったという女性からの連絡だった。
「2020年3月に香川大学を定年退職して、2020年5月に研究室の本を整理している写真をFacebookに載せたところ、2024年に(相手が)『断捨離に興味があって…』とMessengerで伝えてきた」(高倉氏)
高倉氏が友達申請を承認すると、Messengerで4、5回やり取りをした後、相手からLINEに誘導されたという。
相手はLINEに移行後、自身を「愛子」と名乗り始めた。「私は名古屋生まれで、現在37歳で、独身女性です。私の家族も友達も私を愛子と呼ぶのが好きです。高倉さんも私を愛子と呼んでもいいですよ」(LINEでのやり取り)
父親が日本人、母親が中国人で、現在は中国・深圳で暮らしているという愛子。高倉氏から返事があったことを意外に感じ、LINEを交換したくなったと説明すると、こう続ける。「私は大切な縁の人なので、私たちの今回の出会いも大切にしています。高倉さんは縁を信じていますか?」。
高倉氏は「『縁を信じますか?』その“縁”という言葉が最初に刺さった。それで一歩ハードルを超えたのかな」と語る。
こうして始まった愛子との交流。LINE移行からおよそ1週間後、愛子は高倉氏を「兄さん」と呼ぶようになった。「兄さん、おはようございます。愛子は今ピラティスの練習をしていますよ!兄さんはピラティスとは何か知っていますか?」「愛子はもうお風呂に入ったよ!今顔のメンテナンスをしています。兄さんは今休憩するつもりですか?」「お茶を飲みながら本を読んでのんびりした生活をしますよ」「日本に帰ってから、愛子はお茶を入れて兄さんに食べさせます。出かける時は安全に気をつけて」などと、ハートの絵文字や写真付きのメッセージが送られてきた。
やり取りを重ねる中で、高倉氏が「兄以上の存在になりたい」と伝えると、愛子はかつて婚約者に裏切られたという身の上話を長文で送ってきた。「穏やかで美しい生活は、突然の浮気に乱れてしまった。ドアを開けた瞬間、見知らぬハイヒールが私の家の入り口に置かれていました。寝室に直接飛び込んだが、彼はなんと、女性を抱いて私のベッドに横たわっていた」という内容だった。
小説家や詩人の言葉を引用し、苦難を乗り越えたことや知性をアピールする愛子に、高倉氏は完全に虜になっていった。
愛子はその隙を見逃さず、「伯父の指導の下、投資の勉強をしている」と投資の話題を持ち出し、「兄さんは愛子と一緒に未知の分野に挑戦したいですか?」と問いかけてきた。金融界に幅広い人脈がある経済学の専門家だという伯父の指導を受ける愛子から言われ、指定のアプリをダウンロードして口座を開設した高倉氏。愛子は「もし悪い人に伯父が私たちの勉強を指導してくれたことを知られたら、伯父の評判に取り返しのつかない損失をもたらしますね。私たちの間の秘密です」として、口止めした。
高倉氏は指示通りに投資金としてATMから5万円を送金し、その3日後にはカード会社から80万円を借りて2回目の送金を行った。さらに約2週間後には金融機関や友人から金策してかき集めた100万円を送金した。そして最初の送金からおよそ1ヶ月後、高倉氏のスマートフォンに「口座が凍結した」という通知が届き、愛子から「検証金を支払う必要がある」と告げられた。その額はおよそ500万円。愛子から促され、高倉氏はマンションを売却した。その後も送金指示は続き、およそ4ヶ月間で7回、合計925万円を騙し取られた。
「最後に(2024年)9月に190万円を振り込んだ時点で『振り込んだから』と連絡をしたら、まったく連絡が途絶えた。それで(ネットで)調べてみたら、彼女が私に送ってきた写真が1枚(ネット上に)バンと出てきて、『この人物は詐欺師だ』というのを発見した。それで『これは詐欺だったんだ』ということに気がついた」(高倉氏)
2024年10月に高松北警察署に被害届を出したが、振込先の口座はすべて凍結されており、お金は戻らなかった。
■巧妙に仕掛けられた「4つの罠」とマインドコントロールのメカニズム
愛子が仕掛けた「4つの罠」を分析していく。1つ目は、「『兄さん』と呼んで信頼を醸成すること」だ。三輪氏は「『兄さん』という呼び方は誰にでも使えるため、本来はここで疑うべきだった。相手の名前を覚えなくていい、悪質極まりない常套手段だ」と指摘する。
2つ目は、「2人だけの秘密の共有」だ。愛子は「私たちだけの秘密」と繰り返し、高倉氏を周囲から切り離していった。三輪氏は、モラハラを行う夫婦関係においても、相手を友人関係から切り離したり、干渉して口止めしたりする手法がよく使われると説明する。「2人だけの秘密と言われると嬉しくなるかもしれないが、関係を断たせようとする人にどんなメリットがあるか、という視点が極めて大事だ」と注意を促した。
3つ目は、「“希望”と“絶望”の交互供与」だ。「不動産が売れる」といった甘い言葉(希望)を囁いた直後に「少し遅れている」などの不安(絶望)を煽ることで、相手の判断力を奪う手法だ。三輪氏は、これを「感情のジェットコースターに乗せている状態」と表現し、「本人は危険なジェットコースターにたった一人で乗せられていることに気づかず、判断能力が鈍り、麻痺していく」と分析した。
4つ目は、「使ってしまった費用の呪縛」だ。これまで費やした時間、感情、お金が大きすぎるため、引き返すという選択肢が見えなくなる心理を指す。三輪氏は「客観的に見れば、70年の人生のうちのわずか2年間だが、当事者にとっては『今』が最新であるため、直近の2年間が非常に大きく感じられる」と述べた。
さらに、SNSのダイレクトメッセージを通じて「あなたの投稿に興味を持った」という連絡が自身にも頻繁に届く経験を明かし、こうしたDMへの警戒を呼びかけた。その上で、「お金も大事だが、心を奪われていることが一番厄介。被害に遭った時のウキウキする気持ち自体は責められないが、騙す側の手口を学び、注意を払う必要がある」と語った。
(『わたしとニュース』より)
