食料品の消費税率引き下げなどについて説明する高市首相(7月30日午後、首相官邸で)=米山要撮影

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 高市首相が7月30日、来年4月から2年間限定で食料品の消費税率を現在の8%から1%に引き下げる方針を表明した。

 実現すれば、1989年の消費税導入以来、初めての税率引き下げとなる。消費税の仕組みや歴史、今回の引き下げの内容などを解説する。

[Q]消費税の特徴は…社会保障費を広く負担、「買い物」に課税する安定財源

 消費税はモノを買ったり、サービスを受けたりした時にかかる税金だ。消費者が負担しているが、実際に納税するのは企業や事業主のため、「間接税」と呼ばれる。所得税、法人税と並ぶ「基幹3税」の一つで、国の一般会計税収の約3割を占める。

 消費税収は法律で社会保障費に充てることが定められている。具体的には年金、医療、介護、子ども・子育て支援を指す「社会保障4経費」の財源になる。

 消費税を徴収する背景には、大勢の人が利用する社会保障の財源には、若者からお年寄りまで幅広い人たちに負担を求めることがふさわしいとの考え方がある。日々の消費取引に課税するため、所得税や法人税に比べて、景気動向に左右されにくい。

 所得税は、バブル経済で賃金が伸びた1991年度は26・7兆円の税収があったが、リーマン・ショック後の2009年度には半分以下の12・9兆円まで落ち込んだ。

 集めた消費税のうち78%が国の税収で、22%は地方に割り振られている。さらに国の税収の一部は地方交付税として地方自治体に回る。その結果、約4割が地方の使うお金となり、都道府県や市町村が行う社会保障施策の貴重な財源になっている。

 これまでの税率引き上げや近年の物価高などを背景に消費税収は増加傾向が続いている。国の税収分は25年度の決算ベースで26・0兆円と過去最高を記録し、所得税収(25・3兆円)や法人税収(21・7兆円)を上回った。

 ただ、高齢化で年金や医療費は増え、高等教育の無償化や待機児童の解消など子育て支援の拡充にも取り組んだため、国の消費税収では社会保障4経費を賄えていない。

 26年度の国の社会保障4経費は10年前から6・4兆円増えて34・6兆円と見込まれている。地方交付税分を除いた国の消費税収は21・5兆円で、13・1兆円が不足する見通しだ。社会保障の財源としては不十分で、国は赤字国債の発行などで補っている状況が続いている。

 食料品の消費税率を1%に引き下げた場合、年間の減収額は国と地方を合わせ約4・3兆円と見込まれる。代替財源を確保できなければ、不足分はさらに膨らむ公算が大きい。

[Q]税率どう下げる?内容や課題は…2年限定で食品1%に、代替財源の具体策なく

 政府は、2027年4月から2年間限定で、食料品の消費税率を1%に引き下げる方針だ。対象は野菜やジュースなど現在税率が8%の食料品で、飲食店の持ち帰り商品も1%になる。ビールなどの酒や酒税法で「酒類」に分類される本みりんは10%のままだ。

 政府は当初、食料品の消費税率を0%に引き下げる案を目指したが、スーパーなどのレジシステムが一部で税率「ゼロ」に対応できないことが判明。ゼロは準備期間が1年程度かかるのに対し、1%は半年で実施できるとの見通しから、スピードを重視して1%にする方針に切り替えた。1%分の税収額に相当する6000億円強を中低所得者への給付に充てることで税率を「実質ゼロ」とする考えだ。

 自民党は2月の衆院選の公約に、食料品の消費税ゼロに向けた「検討加速」を盛り込んだ。高市首相は減税を「悲願」と訴え、実現にこだわった。

 背景には、物価上昇が続いていることがある。25年の生鮮食品を除く物価の上昇率は前年比3・1%と、日本銀行が「物価安定の目標」とする2%を大きく上回った。中東情勢を受け、原油価格は高止まりしており、食料品は今後さらに値上がりが見込まれる。

 消費税減税は、物価上昇を抑制する効果が期待される。SMBC日興証券の関口直人氏は、27年度の物価上昇率(生鮮食品を除く)は減税で1・4ポイント押し下げられ、1%程度になると試算する。

 最大の課題は代替財源の確保だ。首相は法人税などを軽減する「租税特別措置」や補助金の削減、税外収入の活用などを掲げるが、具体策は示されていない。

 代替財源を確保できなければ、赤字国債の発行は避けられない。発行すれば、日本の財政に対する信用が下がり、金利の上昇や円安が進む可能性がある。住宅ローン金利の上昇や輸入食品などの値上げを招き、減税効果を相殺する恐れもある。

 飲食店では、店内で食べれば税率10%、持ち帰れば1%と、これまでよりも税率差が広がる。同じくスーパーやコンビニで売られる弁当との税率差も大きくなり、外食産業は売り上げの減少が見込まれる。また、これまで消費税の免税を受けてきた小規模農家は収入減が見込まれる。

 政府は今後、支援策の具体化を急ぐ方針だ。外食産業向けにはプレミアム付き食事券の発行といった需要喚起策、小規模農家向けには補助金の支給などが想定される。ただ、支援に伴い歳出は拡大するというジレンマがある。

[Q]所得連動給付とは…年収や子の数に応じて現金、「手取り増」と「働き控え緩和」図る

 政府は食料品の消費税減税をあくまで「つなぎ」に位置付け、2029年度から「本丸」である所得連動給付に移行する考えだ。所得に応じて、お金を配分して「手取りの増加」と「働き控えの緩和」を目指す。

 日本は中低所得者の税や社会保険料の負担が重いことが課題となっている。政府試算では、税や社会保険料から児童手当などの現金給付を差し引いた「純負担率」を欧米と比べると、共働きの子育て世帯の年収375万円で最も差が大きく、金額で年27万円に上る。

 新たな給付制度は、働く人を対象に所得に応じて額を変えるのが特徴となる。高齢者や個人事業者、フリーランスも対象に、扶養する18歳以下の子どもの数に応じて加算。給付は個人単位だが、配偶者が高所得の場合は対象から外す方向だ。

 ただ、具体的な支援対象や額はまだ固まっていない。社会保障国民会議の中間とりまとめは、支援を始める年収として〈1〉社会保険料負担が生じる「約106万円超」〈2〉給与所得控除を超える「74万円超」〈3〉雇用保険の加入基準の「約53万円超」――の3案を示した。

 給付額は住民税などが課税されるラインまで定額とし、収入増に合わせて増やしていく。働き控えを減らすためで、税や社会保険料の支払いが増える「年収の壁」を超えた際に加算する。

 一定の所得水準から定額とした上で、徐々に減らす。打ち切りラインは、諸外国ではおおむね平均年収の50%前後とされ、日本に単純に当てはめると270万円程度だ。具体的な給付額は国際水準などから検討する。

 政府は当初、給付と税額控除(減税)を組み合わせた給付付き税額控除の導入を目指したが、制度の複雑化が想定され、当面は給付に一本化することにした。本格導入までの27〜28年度は、食料品の消費税率1%相当分(約6000億円強)で「簡易版」の所得連動給付を先行実施する。

[Q]消費税の経緯…導入・引き上げが政権揺るがす、自民公約で「検討加速」

 国民生活に直結する消費税は、時の政権の命運を左右する「鬼門」となってきた。

 大平首相は1979年1月、「一般消費税」の導入を閣議決定した。赤字国債を発行し、財政再建が急務となる中、所得税をさらに引き上げることは難しかったためだ。世論の反発は強く、秋の衆院選期間中に撤回を表明したが、自民党は過半数を割り込む敗北を喫した。87年には中曽根内閣が「売上税法案」を国会に提出したが、直後の統一地方選で自民が大敗し、廃案に追い込まれた。

 現在の消費税は、中曽根氏の後を継いだ竹下首相が「三度目の正直」で89年4月、税率3%で導入にこぎつけた。内閣支持率は低迷し、竹下氏は導入2か月後に退陣を余儀なくされた。

 その後も消費税は、政権を揺さぶる政治課題であり続けた。

 非自民連立政権を率いた細川首相は94年、税率7%の「国民福祉税構想」を突如発表。消費税をいったん廃止し、福祉関連の財源に充てる構想だったが、国民の反発を受けて5日後に撤回した。

 税率5%への引き上げは、橋本内閣だった97年4月に実施された。引き上げ方針は前任の村山内閣時代に決定済みだったが、景気後退を招いたと批判を浴び、翌年の参院選で自民は大敗し、橋本内閣は退陣した。

 民主党政権下の2012年には、民主、自民、公明の3党が消費税率引き上げを含む社会保障・税一体改革に合意した。税率8%、10%へと2段階で増税し、年金、医療、介護、少子化対策の社会保障4分野に充てる内容だった。

 政権に返り咲いた自民の安倍首相は14年4月、8%に引き上げたが、その後は景気に配慮し、2度にわたって10%への増税を延期した。19年10月に10%に引き上げた際には、消費への打撃を和らげるため、食料品などに8%の軽減税率を適用した。

 近年は物価高の影響もあり、国政選挙で消費税の減税や廃止を訴える政党が増えていた。自民内では慎重論が根強かったが、今年2月の衆院選では、高市首相(党総裁)の意向を受け、食料品の消費税ゼロに向けた「検討加速」を公約に掲げていた。

[Q]消費税減税、海外の事例は…「実質増税」税率戻せぬ国も

 日本にとっては初めての消費税減税だが、海外では経済危機などの際に、税率の引き下げが度々行われてきた。ただ、想定通りにモノの価格が下がらなかったり、税率を元に戻せなかったりする事例も出ている。

 ドイツはコロナ禍の2020年7月から半年間、日本の消費税に相当する付加価値税(VAT)を減税した。標準税率は19%から16%に、食料品などに適用される軽減税率は7%から5%に引き下げた。

 しかし、モノの価格は減税分ほど下がらなかった。独ifo経済研究所は、スーパーの小売価格の下落率は1.3%で、家計への恩恵は減税分の約7割にとどまったと分析した。商品価格の維持で、事業者がもうけを得たとみられる例も生じている。日本の財務省によると、大手チェーンで、ハンバーガーやアイスコーヒーなどの価格が下げられなかった例が多数あったという。

 英国も20年にVATを20%から5%に引き下げた。当初、半年間限定の予定が、景気回復の優先が叫ばれ、元に戻すのは1年以上遅れた。アジア通貨危機を受け、タイでは1999年にVATを1年間限定で10%から7%に引き下げたが、延長が繰り返され、25年以上たった今も7%で維持されている。

 今回、高市首相は、減税開始から2年後に食料品の消費税率を8%に戻すと断言している。ただ、実質「増税」となる29年4月の景気の行方は見通せず、与野党からは、元に戻せるかを疑問視する声が出ている。

 1%から8%への引き上げは、海外の事例と比べても上げ幅が比較的大きい。前年の28年には参院選があるため、国民の反発が強まる恐れもある。引き下げ前には買い控えが、引き上げ前には買いだめが起きる可能性も高い。経済界には、引き上げ後に消費の減少を招き、景気を失速させるとの見方もある。(経済部 田中俊資、折田唯、政治部 阿部雄太が担当しました)