[6.29 W杯決勝T1回戦 日本 1-2 ブラジル ヒューストン]

 信頼の起用に別次元のパフォーマンスで応えた。それでも求めた結果には届かなかった。北中米W杯決勝トーナメント1回戦ブラジル戦に右CBでフル出場した日本代表DF冨安健洋(アヤックス)は試合後、後半アディショナルタイム5分の決勝被弾を「なんて言ったらいいか難しい。あっけなく終わった」と振り返り、ラウンド32敗退という結果に「個人的にまだまだなんだなと思う」と悔しさを噛み締めた。

 日本サッカーの歴史において“鬼門”にあたる決勝トーナメント初戦で実現したブラジルとのビッグマッチ。右CBで先発起用された冨安にはFWビニシウス・ジュニオール(R・マドリー)封じという誰よりも大きな役割が任された。その結果、ここまでグループリーグ3試合連続ゴールのスターをゼロ封。ゴール前でのシュートブロックで失点を救う場面もあり、個人のパフォーマンスは絶大だった。

 ところが結果としてチームは後半に2失点。「僕自身ケガが続いて、2年間代表に招集されていない中でもこうしてW杯に選出してもらって、こうしてラウンド32という一番大事な試合でスタメンで使ってもらって、本当にその思いをピッチ上で返せなかったことが悔しい。個人的にまだまだなんだなと思う」。このW杯の活動で2年ぶりの代表合流を果たした選手とは思えない仕事ぶりだったが、そこに手応えはなかった。

「セカンドハーフの戦い方も踏まえて、まだ日本は強豪国と対等に渡り合えるレベルじゃないと痛感させられた。そこはどう捉えるか分からないし、人それぞれだと思うけど、主体的に主導権を握って、それはボールを持っている持っていないにかかわらず、守備時に主体的にやることができないと彼らと対等に渡り合うことはできない。それがわかっていたからこそ、W杯を勝つためにこういう戦い方を貫いたし、着実に少しずつ前進はしていると思うけど、本大会でブラジルとか、他の国も含めてそういう国にどう勝っていくかというところは個人的にはまだまだなんだなと思う」(冨安)

 終始葛藤まじりの言葉を紡いだ冨安にとって、特に悔やまれたのは後半の試合運びだった。大会前から「W杯を勝つための戦い方」にフォーカスし、時には守備的に耐える展開も覚悟していた冨安だったが、この日は後半11分にクロス攻勢から失点。チーム全体でW杯仕様のスタイルを徹底できなかったことに俯瞰的な視点から課題を見い出した。

「絶対にしんどい時間は来ると思っていたし、全体で共有できていた中で耐え切れなかった。押し込まれながらゴール前で身体を張るタイミングがあるのはわかっていた上で、そこは彼らのほうが上だったんだろうなと思う」

 なかでも「守備時よりは攻撃時のほうが課題があったと思う」と冨安。相手も随所にミスが出ており、ボールを握り返せそうな場面もあったが、細かい精度不足からつけ込むことができずに時間が過ぎた。最後は「奪った後のボールだとか、プレーするのをやめてしまった感が……。でもそれも割り切ってやっていた部分もあったので、それをするなら耐え切らないといけないし、難しい」と歯切れの悪さを見せた。

 冨安は本来、攻守両面の高い能力を活かし、主体的にボールを握るスタイルでも活きるタイプ。実際、第2次森保ジャパンではカタールW杯の反省から、冨安を中心に同様のスタイルに舵を切ろうとしたこともあった。しかし、冨安の長期離脱もあって“個人ありき”の戦術を積み上げることはできず、改革は道半ばに。現実的な揺り戻しをした結果、昨年10月にブラジル、今年3月にイングランドに勝利したこともあり、W杯仕様の戦いは冨安不在のまま定まっていった。

 とはいえ、その中で冨安も「W杯を勝つための戦い方」に前向きに取り組み、与えられたタスクに向き合うことで、その仕事を高いレベルで全うしていた。しかし、最後はチームとしてブラジルの攻撃に耐え切れず、「W杯を勝つための戦い方」に殉じる結果となった。そのことが葛藤まじりの言葉につながったのであろう。

 実は冨安が最後に公式戦でフル出場したのは2024年6月11日のW杯2次予選シリア戦(◯5-0)でのこと。その間は長い負傷に苦しんだことで、所属していたアーセナルとアヤックスでも一度もフル出場はなく、この大一番でいきなり748日ぶりの90分間出場だった。

 その気迫のパフォーマンスの裏には日本代表を高みに導くモチベーションだけでなく、“恩返し”の思いも欠かせない原動力となっていたようだ。試合後、森保監督からの信頼の起用について問われた冨安は時折声を詰まらせながら感謝の思いを口にし、自身の未来について自ら切り出した。

「こんな状況でW杯に選んでもらって、試合に出させてもらったという意味で森保さんには感謝しかないし、この機会をもう一度与えてもらったというのは今大会だけじゃなく、今後のサッカー人生においてのチャンスをもらったと思っている。大会前にも言ったけど、もう自分一人のサッカー人生じゃない。元からそうだったけど、より……。このケガを乗り越えて、たくさんの人に支えてもらったし、いまサッカーができていることが当たり前じゃない。それを忘れずに取り組まなきゃいけない。支えてもらった人に恩返しをしたい。森保さんにもらったチャンスを、森保さんへの恩返しも含めて、今後はもっともっと自分に要求して、本当にピッチ上でしか返せるものは返せないので、ピッチ上で恩返ししたいと思います」

 先の見えないケガから奇跡的なカムバックを経てもなお、報われる結末とはならなかった2度目のW杯。それでも2年ぶりに刻んだ魂の90分間はきっと、新たなキャリアへの転換点となるはずだ。

(取材・文 竹内達也)