最悪の場合、病院のベッドで"餓死"する…リハビリ専門医が説く「高齢者の入院初日に医師に相談すべきこと」
※本稿は、若林秀隆『幸福寿命』(日刊現代)の一部を再編集したものです。

■健康はバランスのよい食生活から
ここでは、「サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025」について紹介します(※1)。このガイドラインでは栄養素ごとにサルコペニアならびにフレイルを改善するか、またサルコペニアやフレイルによる死亡、入院、ADL(Activities of Daily Living=人が日常生活を送るために必要な動作である食事、着替え、トイレ、歩行、入浴、整容)低下などの回復具合を改善させるかについて述べられています。
死亡、入院、ADL低下などの転帰不良(病気やケガの予後の状態が悪いこと)の改善に推奨や提案されているのは、十分なエネルギーの投与や体重の適正化を目指した介入と、タンパク質、ビタミンDといった栄養素や、地中海食、DASH食などの健康的な食事パターンや食品多様性です。
地中海食の特徴は、植物性食品が中心で野菜、果物、豆類、ナッツ、全粒穀物を豊富に摂取すること、脂質はオリーブオイルを主とすること、魚介類を多く摂取すること、赤身肉は少量に抑え鶏肉は適度に摂取すること、チーズやヨーグルトといった乳製品を適度に摂取すること、赤ワインを少量摂取することです。地中海食は、うつの予防にも有用な可能性があるという研究があり(※2)、幸福寿命をのばすためにもよさそうです。
■高血圧を予防・改善する「DASH食」とは
DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)は、高血圧を予防・改善することを目的とした食事法です。特徴は、塩分摂取量を厳しく制限すること、カリウム、マグネシウム、食物繊維が豊富な野菜と果物を多く摂取すること、赤身肉や飽和脂肪酸の摂取を減らし、低脂肪の乳製品や魚、鶏肉、豆類、ナッツを増やすこと、食物繊維を多く含む全粒穀物を多くすることです。
また、日本食パターンの遵守がうつ症状の軽減(※3)や、サルコペニア・フレイルと関連する筋力低下の減少(※4)と関連していることが報告されています。日本食パターンに関しては今後の研究が必要ですが、バランスのよい食生活は幸福寿命をのばすために重要かもしれません。
参考文献
1) 日本臨床栄養学会/日本サルコペニア・フレイル学会編集、サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025、南江堂、2025
2) Rudzinska A, et al.: Can the Mediterranean diet decrease the risk of depression in older persons - a systematic review. Psychiatr Pol. 2023;57(2):339-354.
3) Miyake H, et al.: Association between the Japanese-style diet and low prevalence of depressive symptoms: Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study. Psychiatry Clin Neurosci. 2025;79(8):473-480.
4)Shimizu A, et al.: Association between Japanese Diet Adherence and Muscle Weakness in Japanese Adults Aged ≧50 Years: Findings from the JSTAR Cohort Study. Int J Environ Res Public Health. 2023;20(22):7065.
■筆者が提唱する「リハビリテーション栄養」とは
リハビリテーション栄養とは、リハビリテーションと栄養を通じて、障害のある方やフレイル高齢者の栄養状態、サルコペニア、栄養素摂取、フレイルを改善して、生活上のパフォーマンスとウェルビーイングをできる限り高めることです。
リハビリテーションというと、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といったリハビリテーションスタッフが、対象者に訓練を行っているイメージが強いと思います。しかしリハビリテーションとは、自分らしく生きるための活動すべてを指します。
ですので、運動、栄養、社会生活、心理・スピリチュアルはすべてリハビリテーションに含まれます。ただ、リハビリテーション栄養という言葉があったほうが、リハビリテーションにおける栄養の重要性がより伝わりますので、私がこの言葉を作りました。
運動や栄養管理に熱心に取り組んでいる方は、少なくありません。しかし、リハビリテーション栄養の視点で考えると、栄養状態や栄養摂取を考えないで運動やトレーニングのみ頑張ったり、運動やトレーニングを全くしないで栄養摂取のみ頑張ったりしていると心配です。
■栄養不足の筋トレは、むしろ筋肉を減らす
例えば、十分なエネルギーやタンパク質を摂らないで筋力トレーニングだけ頑張ると、エネルギーのバランスがよりマイナスになって、自分の体脂肪や筋肉を分解することで体重が落ちてしまいます。一方、体重を増やそうと栄養摂取だけ頑張って筋力トレーニングをしないと、筋肉ではなく体脂肪だけが増えてしまい、肥満でむしろ動きにくい体になってしまいます。リハビリテーション栄養の視点で、運動と栄養の両者に同時に取り組むことが大切です。
私がリハビリテーション栄養という言葉を作った背景には、入院している方に低栄養やサルコペニアがとても多いにもかかわらず、リハビリテーションだけ頑張っていて栄養摂取をおろそかにしている方が多かったことがあります。入院している方の多くは食欲が低下していて、十分に食事を摂取することができません。その場合、腕から点滴をすることがよくあります。腕から点滴していればエネルギーもアミノ酸も十分に含まれていて食事をしなくても安心してしまう方が多いのですが、それは勘違いです。平均的な点滴は、1本500ミリリットルで100キロカロリー前後のエネルギーしか含まれてなく、アミノ酸が含まれている点滴は少数です。つまり、1日3本で1500ミリリットルの点滴を行っても1日300キロカロリー程度にしかなりません。

■最悪の場合、入院中に餓死してしまう
実はこの程度の点滴で何も食べずに入院している方は、今でも少なくありません。極端な場合には、何も食べていないのに生理食塩水しか点滴されていなくて、1日エネルギー摂取が0キロカロリーという方もいます。1日0〜300キロカロリーしかエネルギーを摂取していなければ当然、栄養状態は悪化してやせていきます。このような状態のときにリハビリテーションで筋力トレーニングを頑張っても、筋肉が増えることは絶対にありません。最悪の場合、入院中に餓死してしまった方もいました。
こういったことをなくしたいと考えて、私が提唱したこの概念を基に、2011年に日本リハビリテーション栄養学会(最初は研究会)を立ち上げました。興味がある方は、「マンガでわかるリハ栄養」を見ていただければと思います(※5〜6)。私もマンガに登場しています。
[実例]70代女性のFさんは、身長152cm、体重42kg、BMI18.2と低体重、低栄養を認めていました。大腿骨近位部骨折で入院、手術を受けた後に、リハビリテーション目的で、回復期リハビリテーション病院に転院して、1日3時間の訓練を行いました。小柄な高齢者ということで当初は1日1400キロカロリーの食事にしていましたが、入院後3週間で体重37kgと、5kgも体重減少して危険な状態となってしまいました。
体組成計で体脂肪率を測定したところ8%で、高齢女性でしたが筋肉量が多く体脂肪量が少ない体型で、基礎エネルギー消費量が高く、太りにくい体質であることがわかりました。そのため、医師と管理栄養士で相談しながら段階的にエネルギー量を1日2500キロカロリーまで増やしました。かなりの食事量でしたが、残すことは全くありませんでした。その結果、退院時の体重は42kgまで戻りました。
Fさんに自宅での食生活を聞いてみると毎日、たくさん食べているけれど全然太らないと言っていました。小柄な高齢者でも大柄な方以上にエネルギーが必要な方もいて、個人差はとても大きいので、自身の体質を知ることが重要です。
■医師や看護師に最初に相談すべきこと
医原性とは、医師や看護師などによる医療行為で生じることです。サルコペニアとフレイルの一部は、残念ながら医原性です。例えば、急性期病院に誤嚥性肺炎などで入院すると「とりあえず安静」「とりあえず禁食」「とりあえず点滴(1日0〜300キロカロリー)」と指示されることがあります。そうすると、体ものども動かさないので、筋肉や筋力が低下します。また、エネルギーが足りませんので、体脂肪と筋肉量が低下します。これらの結果、入院中にサルコペニアとフレイルになってしまう場合には、医原性サルコペニア、医原性フレイルと呼びます。本来は、入院後2日以内に適切な評価を行い、早期離床と早期経口摂取が可能であれば、安静や禁食を解除すべきです。

また、入院直後から適切な栄養管理を行うべきです。医原性サルコペニアと医原性フレイルの予防には、入院しないことがベストです。どうしても入院が必要な場合には、できるだけ早く退院できるように、入院当日からリハビリテーションと適切な栄養管理や管理栄養士による栄養指導を行ってもらえるよう、医師や看護師に相談することをおすすめします。
「入院したら、できるだけ早くリハビリテーションを始めたいのですが、可能でしょうか?」「食欲がなくても栄養が摂れる方法について、管理栄養士の方と相談できますか?」などとご相談ください。
参考文献
5) マンガでわかるリハ栄養Vol.1 急性期編
6) マンガでわかるリハ栄養Vol.2 回復期編
----------
若林 秀隆(わかばやし・ひでたか)
東京女子医科大学病院リハビリテーション科 教授・基幹分野長
1995年横浜市立大学医学部卒業。2016年東京慈恵会医科大学大学院医学研究科臨床疫学研究部修了。専門はリハビリテーション栄養、サルコペニア、サルコペニアの摂食嚥下障害。医学博士、日本リハビリテーション医学会 指導医・専門医、日本リハビリテーション栄養学会 特別会員・代議員、日本サルコペニア・フレイル学会理事。著書に『イラストで学ぶ 高齢者リハビリテーション栄養』(講談社)、『幸福寿命』(日刊現代)などがある。
----------
(東京女子医科大学病院リハビリテーション科 教授・基幹分野長 若林 秀隆)
