記事のポイント
ブランド各社はAI導入を加速し、全社研修や日常的な実験文化を通じて従業員のAI活用を促進している。
AI活用の成否はツールそのものよりもファーストアダプターの育成や同僚同士の学習共有など、組織への定着方法にかかっている。
現場ではClaudeへの支持が強いものの、企業方針でCopilotを採用するケースが多く、現場と経営のAIツール選定に温度差が生じている。


Glossyが毎年開催するEコマースサミットが、6月1日にマイアミビーチで開幕した。

オンラインでの業界成長をけん引する最新戦略について、パネルディスカッション、対談形式のファイヤーサイドチャット、タウンホール形式の討論が行われた。

1週間の集中研修か、日々の実践か



人工知能(AI)を活用して社内業務を効率化することが、カンファレンス初日と2日目に議論された主要なテーマだった。

「誰もが、AIに自分の仕事が奪われるのではないかと恐れている」と、ビークマン1802(Beekman 1802)の最高デジタル責任者(CDO)デビッド・ベイカー氏は、このテーマを扱うパネルディスカッションで語った。

「私はAIが誰かの仕事を奪うとはまったく思っていない。だが、AIの使い方を知っている人が、その仕事を奪うのだ」。

ベイカー氏の指摘は、新しいシステムを導入し、従業員に最新のAIツールの使い方を教えることの難しさを感じている多くの業界関係者の共感を呼んだ。日々の短時間のレッスンを選ぶブランドもあれば、1週間にわたる集中トレーニングを取り入れたブランドもある。

「数週間前、我々は実際にすべてのオフィスを閉鎖し、『ハックウィーク』を開催した。そこで我々がやったのは、ひたすらAIのことだけを考えることだった」と、シャークビューティー(Shark Beauty)のグローバルマーケティング担当バイスプレジデント、ジュリー・ベイリー・ブランシュ氏はファイヤーサイドチャットで語った。

「我々は丸1週間を費やした。会議もなし、電話もなし、小売店の訪問もなし、何もなしだ。我々はツールを構築し、専門家を招いてコーディングの方法を教わった。1年分の仕事を1週間でやり遂げた」。

この終日トレーニングの1週間は、シャークニンジャの従業員にとって必須のものだったと、ブランシュ氏はGlossyに語った。その内容は、日々の雑務を減らすことと、従業員が取り残されないようにするための基礎的なトレーニングを中心に据えていた。シャークニンジャは2026年第1四半期に15.6%成長し、同四半期の売上高は14億ドル(約2100億円)に達した。

一方で、多くのブランドのリーダーたちは、従業員がAIツールにスムーズに慣れるよう日々のAIに関するディスカッションを取り入れていることをGlossyに語った。

「私はチームに常にこう言っている。『何かをするのに15分以上かかるなら、もっと速いやり方がある。だから、それを学んで、AIで解決する方法を見つけ出すべきだ』と」と、タルト・コスメティックス(Tarte Cosmetics)のデジタルマーケティング担当バイスプレジデント、ジェナ・マヌーラ・リナレス氏はパネルディスカッションで語った。

「タルトには正式なトレーニングは何もないが、我々は実験する文化をつくっている」。

タルトのスタッフにこの実験への当事者意識を持たせるため、リナレス氏は毎週進捗状況を確認するミーティングを行っている。

「毎週、私はチームに、AIを新しい方法や違う方法で使うよう課題を出している。毎週のチームミーティングでは、いちばん最後に15分を設けて、円になって一人ひとりを指名し、各メンバーがどのようにAIを活用したか、それが役立ったかどうかをグループに説明しなければならない」と彼女は語った。

AIに抵抗する社員をどう動かすか



それでも、あらゆる形でAIに抵抗する人々もいると、ブランドのリーダーたちはGlossyに語った。

「我々には素晴らしいツールが手元にある。それなのに、それを使わないことを選ぶ人がいるとしたら? それはビジネス上のリスクになる」とベイカー氏は語った。ビークマン1802では、ベイカー氏は先頭に立つ最初の導入者(ファーストアダプター)を見つけ出すことに注力している。

「何よりもまず、それに興味を持っている人を見つけ、彼らに自由に試せる余地と空間を与えることだ」と彼は語った。

アルタ・ビューティー(Ulta Beauty)は、そのちょうど中間に位置する。「いくつかの異なるツールの使い方について、少しはトレーニングを行っているが、それは本当にピアツーピア(同僚同士)のトレーニングだ」と、アルタ・ビューティーのデジタル・Eコマース担当シニアバイスプレジデント、ジョシュ・フリードマン氏は語った。

「(正式な形で同僚と知識を)共有することが、(学ぶうえで)本当に最良の方法だ。隣の席の同僚がどうやっているのかを聞いたり、廊下の向かいで別の仕事をしているかもしれない人の話を聞いたりすることが、いちばん簡単な方法なのだ」。

ClaudeかCopilotか、現場の本音



一方、タウンホール形式の討論では、ブランドのリーダーたちがさまざまなAIプログラムの導入における課題について匿名で語った。初日の会場の意見は「従業員のトレーニングにおいて、もっとも柔軟で動かしやすい(優秀な)インターフェースはAnthropic社のClaudeである」ということで一致していた。

しかし、多くの老舗ブランドはClaudeの採用を見送り、マイクロソフト(Microsoft)のCopilotを支持する傾向にあった。

多くのブランド責任者は、本命であるClaudeなどの予算を節約するため、まずは別のサブAIプラットフォームを使って指示文(プロンプト)を推敲・洗練させてから本番に臨むよう、スタッフに指示しているのが現状です。

「Copilotは、財務関連のことなど、より社内向けの業務のいくつかには優れている。だが、実際のところ、クリエイティブやマーケティングに関しては、まだその力を引き出せていない」と、ある幹部は語った。

別の幹部は、チームのメンバーがプライベートでClaudeやOpenAIのChatGPTを使い慣れている(熟知している)と明かした。しかしそれが原因で、会社(経営陣)が推奨するCopilotを使用するというコンプライアンス上のルールが、現場にとってハードルになっているという。

あるブランド責任者は、Microsoft特有の業務についてはCopilotを使うよう従業員を教育しつつ、その裏では、ほかのAIツールをこっそり併用することを黙認していると語りました。

その責任者は次のように述べた。「CopilotはExcelの処理が非常に得意だ。そのため、財務モデルを構築したり、ちょっとしたデータ分析に活用したりするぶんには、その点でかなり強力だといえる。しかし、コンセプトの策定やアイデア出し、あるいはリサーチといった用途には、間違いなく向いていない」。

[原文:Wellness Briefing: How top brands are training employees to use AI tools, plus news

Lexy Lebsack(翻訳、編集:藏西隆介)