生成AIの性能はここ数年で飛躍的に向上しており、仕事での生産性を高めるために生成AIを利用する人も増えています。しかし、デューク大学フクア経営大学院の研究チームが行った実験では、「仕事にAIを使う人は他人からより厳しい評価を受けやすい」というデメリットがあることが示されました。

Evidence of a social evaluation penalty for using AI | PNAS

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2426766122



People who use AI may pay a social price, according to new psychology research

https://www.psypost.org/people-who-use-ai-may-pay-a-social-price-according-to-new-psychology-research/

研究チームは、過去の研究で「誰かに助けを求める行動は状況的なニーズではなく、個人的な弱点を反映していると捉えられやすい」と示されていることから、「従業員によるAIの使用は能力の低さや怠惰の表れと見なされるのではないか」と仮説を立てました。

論文の筆頭著者であり、デューク大学フクア経営大学院の博士課程に在籍するジェシカ・レイフ氏は、「私がこのテーマに興味を持ったのは、複数の組織の従業員と会話したことがきっかけでした。彼らは生成AIをの出力結果ではなく、AIの利用に伴う社会的ダイナミクスを理由に、職場での生成AI利用をためらっていたのです」と述べています。

生成AIを利用する従業員がどう見られるのかを調べるため、研究チームは4400人以上の被験者を対象に4つの実験を行いました。1つ目の実験では497人の被験者を対象に、「自分が生成AIツールまたは従来のダッシュボードツールのいずれかを使用した場合、同僚や上司が自分をどのように評価すると思うか」と尋ねました。

その結果、自分がAIを使用することを想像した被験者は、AI以外のツールを使った従業員と比較して、自分が「怠惰」「代替可能」「能力さと勤勉さが低い」といった評価を受けるだろうと予想し、自分がAIを使っていることを隠すだろうと回答しました。これらの回答は、労働者がAIの使用に関するスティグマを認識していることを意味しています。



2つ目の実験では1215人の被験者を対象に、「AIの助けを受けた従業員」「人間の同僚の助けを受けた従業員」「誰の助けも受けていない従業員」についての説明を読み、それぞれの従業員の特性を評価させました。すると被験者は、AIを使った従業員をその他の従業員よりも一貫して怠惰であり、能力や勤勉性が低く、自立性に乏しいと評価しました。

これは従業員の年齢や性別、職種などとは関係がなく、AIから受けた助けの内容が人間の同僚から受けたものと同じであっても、やはりAIを使うと低い評価を受けたとのことです。レイフ氏は、「私たちの研究において、社会的評価のペナルティが対象者の年齢・職業・性別にかかわらず発生したことに驚きました」と心理学系メディアのPsyPostに語っています。

3つ目の実験では、被験者のうち一方のグループ(801人)が候補者の役割となり、視覚的なタスクを完了すると共に日々のAIの使用頻度を報告しました。そして、もう一方のグループ(1718人)が採用担当者の役割となって、候補者の中から誰を採用するのかを判断しました。その結果、AIを使わない採用担当者は「AIを使わない候補者」を、AIを使う採用担当者は「AIを使う候補者」を好む傾向がみられました。これはAIの使用に関する自らの経験が、AIを使用する他者の評価に影響していることを示唆しています。

4つ目の実験では1006人の被験者を対象に、「人間の手を必要とするタスク」または「デジタルで完了するタスク」に応募してきた候補者を評価してもらいました。候補者の中にはAIを日常的に使用しているという人もいれば、Microsoft Officeなど従来のツールを使用している人もいました。

実験の結果、やはりAIを日常的に使っていない被験者は、AIを使用している候補者を怠惰と見なす傾向が強いことが判明。この傾向は特に「人間の手を必要とするタスク」の採用者を選ぶ場合に強くなりました。一方、明らかにAIが適している「デジタルで完了するタスク」の採用者を選ぶ場合、このペナルティは消え去り、AIを使っている候補者の方がわずかに高い評価を受けました。



レイフ氏は、「この研究から得られた最大の教訓は、AIの使用には社会的コストが伴う可能性があるということです。生成AIを使用しているとされる従業員は、同じタスクを遂行するために他のツールやリソースを使っている従業員よりも、怠惰で能力が低く、勤勉でないと評価されました。皮肉なことに、一部の従業員は生産性向上に意欲的であるためにAIを使用している一方で、AIの使用は他の従業員からモチベーションが低いと評価されてしまう可能性があるのです」と述べました。