村上 和 / ハートアンドブレイン株式会社

写真拡大

世界をまたにかけて活躍するビジネスパーソン、いわゆるグローバルエリートは、「解は外にあり、課題はいつも中にある」と考えています。

この姿勢を全うし、培う力となるのが、「課題発見力」です。彼らはなぜ正しい課題を見抜けるのか。その力はどこで培われているのかを探っていきます。

もっとも大事なのは「本質的課題を発見する力」

私がワシントン大学に短期でMBA留学したとき、当時の教授、パトリック・ベティン氏から問題解決について教わったことがありました。ベティン教授に、「問題の解決は誰でもできる。すでにその問題を解いたことがある人に聞けばいいのだから。もっとも大事なのは、自分が最初に取りかかるべき課題は何なのか、課題を発見することだ。解く問題を間違えてしまったら、永遠に解決にはたどり着けない。君たちは、解く問題が正しいかどうかという一点に心血を注いでいない」と言われました。

そのとき、私はこれまで、「それが本当に解くべき課題なのか」と、深く考えてこなかったことに気づきました。エグゼクティブMBAの授業で、受講生は事業会社の社長や経営幹部ばかりでしたが、皆深くうなずいていました。

5000年の歴史を持ち、幾度となく迫害を受けてきたユダヤ人が、世界の人口の0.2%しか存在していないにもかかわらず、ノーベル賞受賞者の4割を占め、世界の富豪の約35%を占めていますが、この経済的・社会的地位を築くに至った背景にも、この「本質的課題を発見する力」があるからだと言われています。タルムード(ユダヤ教の口伝律法と学者たちの議論を書きとどめた議論集)には、本質的課題を見極めることの重要性が繰り返し説かれています。

例えば、ユダヤ系のベンチャーキャピタルと日本のベンチャーキャピタルを比較すると、成功する率自体は、10社に投資して成功するのは3社程度と、実はそれほど変わりません。しかし、「失敗から徹底的に学ぶ」姿勢に大きな違いがあります。日本の場合、成功した3割だけに注力します。成功したのだから当然とも言えます。一方、ユダヤ系ベンチャーキャピタルの場合、失敗した起業家に対して、何が本質的な失敗要因だったのかを深掘りし、課題発見の訓練と知見の共有を行います。つまり、多額の投資のうえ失敗しても、その失敗から学ぶことで、自分たちも投資先である企業も、次の挑戦における精度を高めていくわけです。これこそが、チャレンジする企業を育て、世界に通用する企業が増える理由なのです。

日本の会社では、失敗は個人の責任にされがちです。「あいつだから失敗した」「社長が飲み歩いて遊んでいたらしい」などと、責任をなすりつけてしまうのです。しかし、飲み歩いていても、不真面目な性格と言われていても成功する人はいます。それは本質的課題でも何でもなく、単なる悪口や感情論に過ぎません。

重要なのは、失敗体験から何をどう学ぶかです。日本では失敗をネガティブなものと考える傾向があり、失敗には目をつぶり、忘れてしまってもいいと考える人もいます。しかし、本当の成功者は、失敗を価値ある学びと考えます。自分が今取り組んでいる課題が本当に解くべき問題なのか、常に自問し続ける姿勢が求められるのです。

グローバルエリートの強さは「リスクコントロール力」にある

グローバルエリートが本質的課題を発見する力に長けている理由のひとつに、リスクコントロールの巧みさが挙げられます。ウォーレン・バフェット氏は、バークシャー・ハザウェイのトップを退任する前、5年にわたって日本の5大商社の株を買い増しし、長期保有すると語りました。当時「利益が出ているのに不当に株価が安い」「こんな立派な会社が放置されているのはもったいない」といった発言が取り沙汰されたことは記憶に新しいでしょう。

本当の理由はわかりませんが、私は、日本の5大商社が持つリスクコントロール力ではなないかと考えています。投資銀行の目線で見た場合、企業を「一流」とみなす決め手として、リスクコントロールの巧みさが非常に大事なファクターになります。想定外の出来事が起きたときにリスクコントロールが上手にできる会社こそが、タフな会社なのです。

世界のグローバル企業の中でも、日本の総合商社は屈指のリスクコントロール力を誇ります。例えば、イランとイスラエル双方とビジネスを展開していますし、ロシアや中国とも、的確なリスクコントロールのもと、世界の情勢に応じた適切な判断を行っています。場合によっては、高リスクな商品取引に大きな投資をすることもあります。先物取引のような高リスクな領域に、普通の会社は手を出すことをためらいますが、総合商社は実行に移す胆力を持っています。

バークシャー・ハザウェイにとって総合商社ほど頼もしい会社はなかったのでしょう。総合商社はまさに外洋で生きるグローバルエリートです。ウォーレン・バフェット氏は日本のグローバルエリートを高く評価してくれたのだと、私は見ています。

日本は、自他共に認める製造業が得意な国です。しかし私は、「つくる力」と「売る力」の両面があったからこそ、今の日本があると思っています。完璧なものづくりができなかったときも、商社が売ってくれたから何とかなった。そして、貧しかった時代に石油を仕入れてきてくれた歴史があったから、現在の産業社会の発展を実現できたのです。売る・仕入れるといった、近江商人気質の商社マンたちが日本の産業の軸をつくってきてくれました。日本と付き合う必要はないと思われていた時代に、世界の国々との関係があったから今があるわけです。

もちろん製造業にも、世界と直接つながり、市場を切り拓く力を持った企業が数多く存在します。ソニー、日立、トヨタだけではなく、海外シェア率9割を誇るような会社がたくさんあります。世界に売り切っていく力を持つ会社は、日本の製造業にも商社にも確かに存在しているということです。

不確実な時代である今、グローバルエリートの課題発見力はすべてのビジネスパーソンが見習うべき力ではないでしょうか。ネガティブなマーケットの反応やリアルなクライアントの厳しい反応を日々浴びながら、自社の商品と自らのセールストークをブラッシュアップし、確固たる差別化ポイントを磨き上げていく。このようなグローバルエリートの仕事の仕方を、多くの人にぜひ知っていただきたいと思います。