『民王R』©テレビ朝日

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 現在放送中の『民王R』(テレビ朝日系)で、総理大臣の武藤泰山(遠藤憲一)が全国民とランダムに入れ替わる前代未聞の“テロ”に遭っている。いつも予兆なく、老若男女と入れ替わってしまう泰山。だが、信頼できる部下たちとともになんとか乗り越えてきた。

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 11月12日に放送された第4話での泰山の“入れ替わり先”は、今まさに臨終のときを迎えようとしている老婆・トメ(丘みつ子)。これまでは泰山自身も入れ替わりを早く終わらせるために動くことができたが、トメは本人の言葉を借りれば、「目の前は真っ暗で、耳だけが聞こえている」状態で、どこの病院に運ばれたかもわからず、寝たきり。いくら泰山にあり余るほどの生命力があっても、体が思うように動かない中では何もすることができない。しかも公安部の猫田(山時聡真)によれば“入れ替わり先”であるトメが死んでしまうと、泰山の命が終わってしまう可能性もあるという。それはなんとしてでも阻止しなければならない。

 これまで家事と子育てばかりをしていて、たくさんのことを我慢していたというトメ。泰山の体を借り、自由になった今、やりたいことがあるという。

 “やりたいこと”が生み出す熱意は凄まじい。トメは瀕死の状態であったにもかかわらず、泰山の姿になったことを理解すると、冴島たちの目を盗んで逃走。遠藤憲一が見せた、曲がった腰に手を当てながらの機敏なガニ股走りは泰山の身体を“使っている”トメを見事に表現していた。

 それに、青森に住んでいるというトメの方言がまたかわいらしい。彼女は普通に喋っているだけなのに、独特なイントネーションが周りに伝染し、これまでの喋り方がわからなくなる人が続出していた。そしてそのイントネーションにはなんだか放っておけない、不思議な魅力があった。

 きっと、毒舌秘書の冴島優佳(あの)もその魅力に心を動かされたのだろう。最初は、トメの入院先、つまり、本物の泰山がいる場所を聞き出そうと、パフェを思う存分食べる、爬虫類を愛でるなどトメの“やりたいこと”にイヤイヤ付き合っていた冴島。だが、だんだんと目的は関係なく、ウエディングドレスを着たり、遊園地に行ったりとトメの“やりたいこと”を叶え、最後には官房長官の狩屋(金田明夫)や田中丸(大橋和也)に嘘をついてまで、トメと首相官邸で酒を飲み交わすことに。

 この世代も、その場にいるのが泰山ということで性別も超えた“秘密の女子会”に、女性が歩んできた歴史が見えた気がした。トメはしみじみと「いい時代になったよね」と呟いた。女性でもバリバリ働けるし、お酒を飲んでも何も言われないというのだ。でも、今を必死に生きる冴島は「そんなにいい時代でもない」と言う。セクハラはあるし、本音を隠して生きてるのだと。そこでトメから「優佳ちゃんも本音を隠しているの?」と聞かれ、酔った勢いもあり冴島は大きな夢をぽろりとこぼした。

 それに対し、トメは「すごいことじゃない」と褒めた。それは“なれたらすごいことよ”という意味ではない。トメは冴島を慈しむような目で見つめながら「私なんて家事と育児だけで『夢を持つ』っていう発想すらなかったもの」と優しく語りかけた。時代は変わり、変化していく。どうしても自らを取り巻く環境の変化を気にしてしまうが、その時代に暮らす人々の心持ちも大きく変わっているのだ。冴島もどこかハッとするような表情を見せていた。

 一方で、忘れてしまうが変わらないものもある。トメは冴島と訪ねた青森の思い出の喫茶店で、マスターから“あること”を聞かされたことをきっかけに、夫・進(伊武雅刀)に会いに行くことに。思い出して欲しいのは、現在のトメの体は、総理大臣の泰山であるということ。だが、進は泰山の姿を見ただけで、中身がトメであることを見抜いたのだ。それまで、自分の人生は、進の奴隷のようだったと感じていたトメ。でも、ふたりの中にある愛情は、形が変わってもそのままだったのである。

 今回もなんとか“テロ”を乗り越えた泰山たち。泰山がトメとして過ごし、そして冴島が中身がトメの泰山と過ごした数日は、「終末期医療費控除案」に反映されそうだ。その一方で、公安部の新田(山内圭哉)は、これまでの“入れ替わり先”にある共通点を見つける。いよいよこの“テロ”の黒幕に近づく時がきたのかもしれない。

(文=久保田ひかる)