「萎縮性腟炎」の原因・症状を医師が解説 なりやすい人の特徴とは
監修医師:
中里 泉(医師)
2008年宮崎大学卒業後、東京都立大久保病院にて初期研修。東京大学医学部付属病院産婦人科に入局。東京大学医学部付属病院、東京北医療センター、JR東京総合病院などの勤務を経て、現在は生殖医療クリニックに勤務。日本産科婦人科学会専門医。
萎縮性膣炎の概要
萎縮性膣炎とは、周閉経期から閉経後に女性ホルモンであるエストロゲンが低下することにより生じる腟炎です。
局所の所見としては外陰腟萎縮(VVA:vulvovaginal atrophy)、全身的な症状としては閉経関連泌尿器症候群(GSM:genitourinary syndrome of menopause)と呼ばれます。
自覚症状として、痛み、かゆみ、排尿時痛、性交痛などがあります。
治療は、保湿剤や潤滑剤の使用、エストロゲン製剤の局所投与または全身投与(ホルモン補充療法)を行います。
萎縮性膣炎の原因
腟内は温度や湿度が高く、有機物も豊富であり、善玉菌・悪玉菌を含む様々な微生物の増殖に適した部位です。
通常はエストロゲンの影響により腟内の自浄作用が保たれていますが、更年期になりその分泌が低下すると、腟や外陰部の粘膜が乾燥することで抵抗力が低下し、腸内細菌などが居つきやすくなることで発症します。
萎縮性膣炎の前兆や初期症状について
自覚症状として悪臭を伴う膿のような腟分泌物、軽度の不快感から、かゆみ、排尿痛、灼熱感、自発的疼痛、性交痛など多岐にわたります。
症状が現れたら婦人科を受診しましょう。
萎縮性膣炎の検査・診断
まず、上記のような症状を起こす疾患がほかにないかを確認します。
細菌培養、クラミジアなどの性感染症検査
感染や特異的な菌による炎症がないか調べます。
がん検診、経腟超音波などの画像検査
腫瘍性病変による症状ではないかを調べます。
残尿測定、尿検査
女性下部尿路症状(FLUTS:female lower urinary tract syndrome)と呼ばれる疾患があります。これは頻尿、尿意切迫感、尿失禁、尿意の亢進や低下、排尿困難、残尿感など、尿路に関する症状のことを言います。これらが原因で腟、外陰部の不快な症状が出現していることもあるため、それらが背景にないかを調べます。
その他、視診で骨盤臓器脱がないかを確認します。
また、皮膚腫瘍や硬化性苔癬、小陰唇癒着症などの皮膚病変がある場合には皮膚科に紹介することがあります。
閉経前後に外陰部にかゆみや痛み、違和感がある場合は、産婦人科または皮膚科を受診するようにしましょう。
萎縮性膣炎の治療
局所の衛生管理
腟やその周囲は排泄物や体液による影響を受けやすい部位であるため、パッドによる刺激がないか確認し、尿・便の漏れなど局所の衛生管理を行います。
パッドが刺激になっている場合は種類を変えたり、過剰でない程度に洗浄し、清潔を保ちます。
局所に対する保湿剤、潤滑ゼリーの使用
白色ワセリンなどの保湿剤や、潤滑ゼリーを使用することで症状を改善させます。
潤滑ゼリーは、ヒアルロン酸、オイル、シリコンなどがベースとなっており、性交痛が改善する可能性があります。
ただし、中にはかえって刺激や炎症を引き起こすことがあります。
局所または全身的エストロゲン投与
局所または全身的エストロゲン療法は、腟上皮の成熟や成長、善玉菌(乳酸菌)の育成、腟周囲への血流の改善、閉経前レベルへの腟内pHの低下、腟上皮の厚みや柔軟性が改善します。
閉経後の女性の性器萎縮症状に対して、エストロゲン製剤の局所または全身投与の効果を見た研究によると、全身投与・局所投与ともに同等に有効でしたが、患者さんの評価としては、局所投与の方がより症状改善の効果を認めたとの報告があります。
局所投与
エストリオールの腟錠を1日1回腟内投与
下記に述べる全身投与では、子宮がある場合黄体ホルモンの併用が必要ですが、局所投与では必要ないとされています。
全身投与
エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤の併用(子宮がある場合)またはエストロゲン製剤単体(子宮がない場合)の内服または外用薬の投与
ホルモン補充療法(HRT:hormone replacement therapy)は、エストロゲン欠乏に伴う諸症状や疾患の予防ないし治療を目的とする治療法で、この「疾患」には萎縮性腟炎も含まれます。
ホルモン補充療法は、萎縮性腟炎のみならず、いわゆる更年期症状(ホットフラッシュや不眠、精神的症状など)にも有効であり、骨密度低下の抑制、脂質代謝・糖代謝の改善、大腸がん、胃がん、食道がんのリスクの低下といった全身的な効果も見込まれます。
一方で、不正性器出血、冠動脈疾患、脳卒中、静脈血栓塞栓症、乳がん、卵巣がんなどが増加する可能性があります。
また、下記に該当する方は禁忌または慎重投与となります。
禁忌症例
脳卒中の既往
急性血栓性静脈炎または静脈血栓塞栓症とその既往
妊娠が疑われる場合
原因不明の不正性器出血
現在の子宮内膜癌、低悪性度子宮内膜間質肉腫
現在の乳癌とその既往
重度の活動性肝疾患
慎重投与または条件付きで投与が可能な症例
全身性エリテマトーデス(SLE)
急性ポルフィリン症
てんかん
片頭痛
子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の既往
コントロール不良な高血圧
コントロール不良な糖尿病
重症の高トリグリセリド血症
胆嚢炎および胆石症の既往
慢性肝疾患
冠攣縮および微小血管狭心症の既往
血栓症のリスクを有する場合
60歳以上または閉経後10年以上の新規投与
肥満
卵巣がんの既往
子宮内膜癌の既往
子宮がない女性に対してはエストロゲン単独投与を行い、子宮がある女性に対しては、子宮内膜増殖症発症予防のため、エストロゲンに加えて黄体ホルモンを併用します。
薬剤の種類は、内服薬、貼付剤、ゲル製剤の選択肢があります。
また、投与方法には、周期投与法(エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤を周期的に投与して、月経のように定期的な出血を起こす)と持続投与法(エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤を持続的に投与することで出血を起こさないようにする)があります。
薬剤の種類、投与方法等様々な選択肢があるため、自分に合った方法を医師と相談して選択しましょう。
なお、産婦人科ガイドライン婦人科編2020年度版では「腟・外陰レーザーを行う」という治療法が推奨レベルCとして記載されていましたが、下記の経緯があり、2023年度版では削除されました。
これは、腟や外陰部に対し炭酸ガスフラクショナルレーザーを照射する治療法で、腟粘膜の栄養改善、コラーゲン繊維の増加、腟上皮細胞のグリコーゲン増加、腟内細菌叢の改善などの効果がみられるとの報告がありました。
一方で、2017年に閉経関連泌尿生殖器症候群を緩和するためのレーザー治療の系統的レビューとして、短期的には効果的ではあるものの、長期フォローアップがないこと、サンプル数が大きくないことなどから、まだ長期的な影響に関する十分な証拠が不足しているとしています。
これにより、2018年米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)は、腟に対しての若返りや美容のためのレーザー治療に対して警告を発しています。
他にも国際的な専門学会の声明では、更年期障害に関連する腟の諸症状や尿失禁治療、性機能に対し効果が証明できないとしています。
合併症として痛みやしびれ、性交時痛、灼熱感、膀胱障害、瘢痕化などの合併症も報告されています。
このため、現状閉経関連泌尿生殖器症候群に対するレーザー治療は推奨されるべきではなく、さらなる研究が必要としています。
萎縮性膣炎になりやすい人・予防の方法
萎縮性膣炎は、閉経前後から閉経後に起こりやすい疾患です。
合わないおりものシートやパッドの使用、不衛生な環境下で起きやすくなるため、適度な清潔を保つようにしましょう。
参考文献
産婦人科診療ガイドライン婦人科編
ホルモン補充療法ガイドライン