なぜハリス氏はトランプ氏に敗れたのか…「唯一無二」に打ち勝てず、多様性に忌避感も
米共和党のトランプ前大統領は2020年大統領選の後、民主主義の根幹たる平和な政権移行に背を向け、四つの事件で起訴された人物である。
民主党のハリス副大統領はなぜ敗北を喫したのか。
まず何よりも、個の力で太刀打ちできなかった。トランプ氏は希代のポピュリストであり、良くも悪くも唯一無二の存在である。ハリス氏の副大統領としての評価は低く、バイデン大統領の撤退で急きょ大統領候補に上り詰めたが、バイデン政権の負のイメージを引きずり、終盤戦で支持は頭打ちになった。優等生で失敗を恐れるタイプという印象もぬぐえなかった。
バイデン氏が早期に撤退し、民主党で激しい指名候補争いが繰り広げられていたら「勝ち抜けなかった」と話す党関係者もいる。
経済政策が浸透しなかった理由は…
有権者の関心が高い経済政策も浸透しなかった。誰もが成功のチャンスを得られる「機会の経済」を掲げ、新規事業の設立への税額控除拡充などをうたった。近年の高学歴なリベラル派が好む「機会の平等があれば、努力をする人は成功できる」というメッセージのこもったものだった。
だが、誰もがハリス氏のように努力の才能があるわけではない。自らが勝てば「米国を裕福にする」というトランプ氏の単純なメッセージの方が訴求力は高かった。インフレ(物価上昇)にあえぐ黒人やヒスパニックらの支持が伸び悩んだ要因と言える。
リベラルすぎるイメージ
リベラル過ぎるイメージも払拭(ふっしょく)できなかった。トランプ陣営は終盤、ハリス氏が心と体の性が一致しない「トランスジェンダー」の受刑者の性別適合医療に公費投入を認めると発言した過去の映像を、テレビ広告で執拗(しつよう)に流した。
米国の多様な社会を行き過ぎと感じる有権者は地方を中心に多い。黒人かつアジア系の女性という多様性を体現するハリス氏の存在そのものが、保守層のみならず、無党派層の一部に忌避された面は否めない。
米国ではいまだに女性大統領が誕生した例はない。世界最強を誇る米軍の最高司令官を務める大統領職には、「強さ」を求める有権者がいまだに多い。「ガラスの天井」と呼ばれる目に見えない障壁に、ハリス氏もまたはね返された。(アメリカ総局長 今井隆)