『嘘解きレトリック』©︎フジテレビ

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 北乃きいが2025年で俳優デビューから20周年を迎える。キャリアとともに佇まいは変化していくものだが、筆者が初めて彼女を見た『ライフ~壮絶なイジメと闘う少女の物語~』(フジテレビ系/以下、『ライフ』)からいい意味で変わらない。いつ見ても瑞々しい彼女の演技は作品を鮮やかに彩っている。

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 昭和初期を舞台に、貧乏探偵&奇妙な能力者が難事件を解決していく月9ドラマ『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)。練り込まれたミステリと鈴鹿央士と松本穂香の異色コンビの掛け合いが注目を集めている本作だが、第4話で北乃は左右馬の親友で刑事の端崎馨(味方良介)の姉・端崎雅を演じている。

 事前にゲスト出演の情報はアナウンスされていたものの、第4話の冒頭で颯爽と登場した北乃の姿に驚きを覚えた方も多かったのではないか。歯切れのよいセリフ回しで、左右馬たちを翻弄していく。20代には純朴で飾らない役を多く演じてきた北乃だけに、それは新鮮に映った。だが、北乃は作品の世界観を忠実に再現する演技力にも定評があり、それはこれまで出演してきた時代劇や舞台の経験が活きていると言えるだろう。

 2005年に「ミスマガジン2005」のグランプリを史上最年少の14歳で受賞し、芸能界デビューした北乃。彼女にとって転機となった作品は、2007年に出演した『ライフ』だろう。クラスメイトからの壮絶なイジメに屈することなく、立ち向かっていく椎葉歩を等身大でありながらも力強く演じてみせ、ゴールデン・アロー賞の新人賞ドラマ部門を受賞するなど、早くも演技力が高く評価された。その後、『アンフェア』シリーズをはじめ、映画『僕は友達が少ない』、『天使はモップを持って』(NHK BSプレミアム)、『汝の名』(テレビ東京系)など、数多くの主演作を経験し、俳優としての地位を確立させていった。

 20代前半には恋愛ドラマに数多く出演してきた北乃だが、後半にかけては時代劇や舞台など、幅広い分野で活躍していく。2017年に放送された藤沢周平新ドラマシリーズ『橋ものがたり』の「小ぬか雨」で時代劇初挑戦を飾った北乃は、早くに両親を亡くし、娘らしい楽しい思い出もないまま育ってきたおすみを好演。一人で暮らすおすみのもとに突然やってきた新七に惹かれていくおすみの心のゆらぎを丁寧に表現していたのが印象的だった。

 2023年に公開された映画『おしょりん』では、国産眼鏡の95%を生産し、国際的な眼鏡の産地としても知られる福井県を舞台に、眼鏡工場をゼロから立ち上げた増永五左衛門と幸八の兄弟を支える妻・むめを演じた。心が折れそうになる男たちをどっしりと支えるむめの明るく前向きなキャラクターは、作中で希望の光となっていた。それは北乃がバラエティ番組や情報番組で見せている顔にも近い。明るい笑みを浮かべる彼女がそこにいるだけで全てが華やいで見える、なんとも不思議な俳優だ。

 舞台分野では、劇団た組。『心臓が濡れる』で森田涼花との掛け合いを生き生きと表現し、ミュージカル『ハル』では主人公のハルに影響を与えるヒロイン・真由として力強く歌声を届けた北乃。2010年には「サクラサク」という楽曲で歌手デビューも果たしており、ミュージカル俳優としても期待が寄せられる中で、2019年に上演された『ウエスト・サイド・ストーリー』では、可憐で芯の強いマリアを生き生きと演じてみせた。これらの作品に共通するのは、世界観に溶け込む柔軟性が北乃にはあるということだ。

 『嘘解きレトリック』第4話では、左右馬が不審な男に気づき、鹿乃子の“ウソを聞き分ける能力”で置引きを暴くと、慌てて逃げ出した男に足を引っ掛けて、「マヌケな泥棒ね」と一言言い放ち鮮烈な登場を果たした北乃。雅の真っ赤なフェルト帽にレトロなワンピースと昭和初期らしからぬ雰囲気は、あわよくば左右馬たち以上に目立ってしまいかねないが、北乃は自らの個性も出しつつ2人を引き立てる、バランス感覚を持って演じている。「人形屋敷」に案内された左右馬たちが通された大広間での会話シーンでは、まるで舞台上で演じているような豪快な高笑いも見せており、時代を先取りしたモダンガールっぷりは北乃の経験値がもたらしたものと言える。

 第5話でも引き続きゲスト出演することが明かされており、また北乃の華麗な演技が堪能できそうだ。この先は11月15日公開の本郷奏多とのW主演映画『てっぺんの剣』も控えている。しばらくは舞台に活躍の場を移していた北乃だが、再びドラマや映画で輝く北乃が見られることだろう。(文=川崎龍也)