真矢みき演じる警視庁勧募審議官・沖田仁美 -『室井慎次 敗れざる者』より
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 12年ぶりに再始動した「踊るプロジェクト」の新作映画『室井慎次 敗れざる者』が公開中だ。社会現象を巻き起こした「踊る大捜査線」シリーズに登場した室井慎次(柳葉敏郎)が主人公の本作には、おなじみの人気キャラクターはもちろん、新規キャラクターも多数登場している。メガホンを取った本広克行監督が、『敗れざる者』のキャラクターとキャストの魅力や演出秘話を語った。(以下、『敗れざる者』のネタバレを含みます)

青島について語る室井&新城がいい

 主人公となった室井について、本広監督は「柳葉さんと室井さんはぜんぜん違うんです。そこがまた面白いんです」と感嘆する。警察を辞めた室井は、犯罪関係者の子どもたちの里親になっているが、「室井さんは忠告もせず何も言わず、ただ待つんです。僕自身は待てないので、室井さんカッコいいなあと思います」とその魅力を語る。

 テレビシリーズ初期、冷徹な組織の歯車だった警察官僚の室井は、所轄の捜査員・青島俊作(織田裕二)に出会って変わった。今作にもつながる“約束”を交わし、それが彼のよりどころとなる。「そのためにやっぱり偉くならないとダメだと冷酷な仕事をしたり、また青島に会って振り回されたり。『踊る』はそこが面白いんでしょうね。青島だって、あんな無茶をするのはいい上司がいるからです」と本広監督は笑った。

 今作には、そんな室井の片腕的存在となっている新城賢太郎(筧利夫)も再登場する。「筧さんとはもう長いので、『こうなりましたからよろしく』とお願いすると『わかってるよー』って。台詞が多いんですけど、シリアスにやることで面白くなるといいですよねとお話した記憶があります」と演出方法を示す。「新城の周りにどんな人を置くのか考えました。秋田県警本部長ですから、新城自身は細々動けないので、下手な秋田弁を操る大男の側近をつけています。彼の秋田弁は、柳葉さんが全て指導してくださいました」と裏話を明かした。

 「お2人ともそれなりに年を取られて円熟味が増してて、それもよかったですね。高級料亭は苦手だからうちにおいでと室井さんが誘う。室井さんの家に行く新城って面白いでしょ?(笑) しかも『女の子もいるんだ』とか、いちいちコメディーですよ」と言いながら、「あそこで2人が『青島に関わりすぎたから出世できなかった』と話しますよね。青島と室井の“約束”は大事なことですけど、現実的には実現は難しいこと。組織で起きる歯がゆさを全て室井さんで描き、青島はそれに吠えてるわけで、観た方が爽快になれるのですが、今回はそこから離れた室井さんでした。その室井さんと新城が、青島を語るのがいいんです」と本広監督はほほ笑んだ。

緒方の走りは「初夏の交通安全スペシャル」より速く

 映画2作目『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』から参加した真矢ミキは、新城とともに室井をサポートする警視庁勧募審議官・沖田仁美を再演。電話1本でトップダウンする様子が描かれるが「最高にカッコいいですよね」と本広監督はうれしそう。「真矢さんは『踊るがあったからいまがあるの』と言ってくださって、今回ものびのびと楽しくやってくださいました」と感謝をささげる。

 室井を象徴するアイテムでもあるヘリコプターで登場するのは、甲本雅裕演じる緒方薫。「甲本さんはコメディーのセンスがよくて、さすがだなと思いました」という。「踊る大捜査線番外編 湾岸署婦警物語 初夏の交通安全スペシャル」で見せた独特の走りを踏まえ、「あのときより速いやつ」とオーダーし、「石がゴロゴロしてるから気を付けてください」と言ったそばから、甲本が足を痛めてしまったとか。「本当だったらもっと遠くから走ってくるはずだったのに『笑いが半分切れちゃった』と悔しそうでした。でも、室井にちょっと慇懃(いんぎん)無礼な感じで話しかけるのも、ぜんぶコメディーなんです」

 また、緒方のライバル的存在だった森下孝治役は遠山俊也だ。室井と同郷で、かつてきりたんぽを食べる約束をしていた森下は、秋田の刑務官として室井と再会する。「遠山さんには人情系の感動を担っていただきました。室井さんと里子の森貴仁(齋藤潤)のシーンでは、第三者の視点があったほうが見てる方の感動の誘導になる。そこを遠山さんにお願いしたら、あの眼差しの芝居をしてくださった。すごくいいシーンになりました。おそらく、あそこが『敗れざる者』のクライマックスなんです」

「踊る」メンバーに負けない新キャストの力

 その貴仁役の齋藤は、本広監督がオーディションで会う前日に、山下敦弘監督の『カラオケ行こ!』を観たことで「どんな手を使っても彼を貴仁にするんだと決めて、すぐに事務所にご連絡しました」と起用を熱望したとのこと。「貴仁がバーッと啖呵を切るシーンは最初の台本にはなかったんです。君塚さんにお願いして入れてもらったら抜群によくて。彼はすごい透明感で、いましか出せないオーラがあるんです。最初はおどおどしたけど、ラストに向かってすごくよくなっていきました。彼が納得いくまで何度でもやってもらいました。きっといい俳優になります」とべた褒めしていた。

 本作のダークヒロイン的なキャラクターは、福本莉子演じる日向杏だ。「踊る」史上最悪の猟奇殺人犯・日向真奈美(小泉今日子)の娘という難役だが、「莉子ちゃんは社交性があってわきまえてるし、芝居もすごく面白くて。誰かの演出をしてると、奥で莉子ちゃんがずっと1人で何か芝居してるんですよ。これは挑戦だと思いました」と福本の芝居に触発されて演出を変えた部分があることを打ち明けた。「杏は周囲を蹴落としても自分を守りたいマニピュレーター(=潜在的攻撃性人格障害)なんだよとお伝えして。母親役の小泉さんに会ってもらって、圧倒的オーラを感じてもらいました。そんないろんな材料を全部ご自分の中で解釈して、芝居してました」とこちらも絶賛だ。

 さらに、新加入組である松下洸平(捜査一課刑事・桜章太郎役)と矢本悠馬(若手警官・乃木真守役)は「ほんと、上手い。2人ともすごく感じがいいし、求めていることをぜんぶやってくれました。柳葉さんは室井さんになると緊迫した空気を出してシャッターを閉じるんですけど、2人とも『緊張しました』と言いながら、生き生きと室井さんをつめてくれました」と感心する。また「地元牧場主・石津百男役の小沢仁志さんは、柳葉さんと一世風靡セピアでご一緒だった古くからのお友だちなので、カットがかかると関係性が逆転するんです。劇中だと小沢が怒ってるけど、終わると柳葉さんがオラーっ!って(笑)。その奥さん役の飯島直子さんや、市毛商店主役のいしだあゆみさんは、前編だけだと豪華な無駄遣いですよね(笑)」とニヤリ。「最後まで観ると、きっと『え、こうなったの!?』と驚いていただけると思います。ぜひ『室井慎次 生き続ける者』も、よろしくお願いします」とアピールした。(取材・文:早川あゆみ)

『室井慎次 敗れざる者』全国公開中
『室井慎次 生き続ける者』11月15日(金)全国公開